一目惚れ
私は死んだらしい。
死んだらしいというのは、死んだことを覚えていないのだ。
いや、死んだことだけじゃない。
私が死んだということ以外にも、私が誰だったのかすら覚えていない。
ただ、私が覚えていることは…私が同性、つまり女の子が好きだってことだけだ。
「たまにあるんですよ。そういう事って。死んだ時の衝撃で魂の記憶がなくなること、あるんですよ」
私に話しかけてきたのは、天使の様な美少女…というか紛ごう事なき天使だ。なにせ翼が生えているのだから。それにしてもチッコイ。140cmもないだろう。
「…今、私のこと小さいって思いましたよね…?これでもあなたより千歳は年上なんですよ。小さくても。」
あぁジト目まで可愛い。
それにしても、低体温というのだろうか?言葉に抑揚が少ない。さっきから感情が読みにくい女の子だ。
「ゴホン…」と天使な女の子は咳払いをして続ける。
「とにかく自覚がなくても、あなたは死んだのです。自覚がなくても」
はぁ…
「随分気の無い返事ですね」
まぁ記憶がないんじゃ、死んだって実感もないし。
というか、なんとなくだけど、私って生前に未練が無かったんじゃないかなぁ?
「なんでそう思うんですか?」
いや〜なんとなくだけど、気持ちに引っかかりが無いんだよね〜
記憶がなくても別に困らないって、思っちゃっている私がいるわけで。
「…確かにあなたの生前の人生は客観的に見ても酷いですね…口に出すと読者がドン引きする程です。ドン引きです」
そう言いながら、天使ちゃんはいつの間にか紙を見ている。
どうやら私の生前の出来事が書かれた紙らしい。
ドン引き…ってそんなに酷いの?
「えぇ」
迷わず肯定する程!?
「別にあなたの行いが悪かった訳ではありません。寧ろあんな酷い環境で生きていて、良い行いを少なからず心がけていたあなたは賞賛に値するほどです」
い…いや〜…それほどでも…
「それで、そんな報われなかったあなたに二つの選択肢があります」
選択肢?
「そうです。これからのあなたの運命に関わる選択肢です」
ゴクリ…
「一つは、前の世界で良い人生を送れるように、善き人で恵まれた環境の家に生まれることです。確実に良き人生です」
おぉ!それはそれは魅力的!
「もう一つは、異世界に行くことです。こちらを選択した場合、次に別の選択肢が与えられます。どんな異世界に生きたいのか?どんな家庭に生まれたいのか?どんな能力を得たいのか?選択肢は様々です」
え?!めっちゃ待遇がいい!
「この選択について、あなたは特別なのです。まぁ、あなたの生前の生活を見れば当然です」
そんなに酷かったの?!
「どうされますか?」
ん〜どっちも最高の選択肢なんだけど…
もっと欲張っちゃっていいかな?
「? これ以上に欲張るって、世界の支配者ですか? それとも生前の親や同級生への復讐ですか?あなたならどんな選択でも神は受け入れてくれますよ」
おぉ…なんだか今自分の過去をチラッだけ垣間見た…
そうじゃなくて!
もっと欲張って…
「…欲張って?」
あなたと一緒に居たいんです!一目惚れです!
「…え?」
こうして、私は最高の選択肢を選んだ。