ニートよ働くのだ!
「あははは! このアニメ、マジ面白れぇな!」
俺は一人、自分の部屋でアニメを見て、高らかに笑いこげていた。
俺の名前は甲賀峰剛志。
今年で十九歳になる。高校卒業後、不動産会社を二ヶ月でやめて俺はめでたくニートになった。理由は上司がうざいし、休みは少ないし、朝早く起きるのが辛いしで辞めた。
まぁ、辞めてよかったと思ってる。何、俺はやればできる子だと昔から言われていた。
本気を出せば何とかなるだろう。
そう思い、俺はパソコンの画面を眺めた。
「はー、面白かった。よし、次はゲームの実況動画でも見るか!」
すると、突然電気が消え、部屋が暗くなった。
パソコンの画面も暗くなった。
「何だ? 何が起こったんだ!」
ブレーカーを確かめたが、落ちたわけでは無い。すると、扉に封筒が入っていたことに気が付いた。
電気会社からだった。俺は嫌な予感がした。俺は恐る恐る開封し、中の書類の内容を見た。
ーー甲賀峰剛志様。電気代、一ヶ月未払いのため、五月十三日(今日である)の十時以降、電気を打ち切らせていただきます。
「な、なんてこった......」
今の所持金、千円ちょっとしかねぇぞ。困ったな。どうしよう。
親に頼むか? いや、でも俺が退職したこと言ってないし、さすがに怒られるな。
俺は怒られるのが嫌なのである。
うーん、どうしよう。
「お困りのようだな」
突如、俺以外誰もいない部屋から声がした。何だ? 幻聴か?
「後ろを見ろ」
後ろを見ると、黒い翼の生えた黒いゴスロリ服を着た背の低い美少女が立っていた。
「うわ! なんだお前!」
「私の名前はアヌビス。お前のことは知っている。甲賀峰剛志だな。私はお前らのところでいう、悪魔だ」
悪魔と名乗る少女は不敵な笑みを浮かべた。
「なぁ、高校の世界史で習った気がするんだけど、アヌビスって、エジプト神話の神じゃなかったか?」
「名前が一緒なだけだ」
「そんな偶然あるのか? それにいきなり悪魔って言われてもなぁ。俺に何の用だよ?」
すると、アヌビスは俺に顔をぐいっと近づけた。
「随分と余裕そうだな。人間。悪魔と言われると大抵の人間は怖がるんだけどな」
「まぁ、悪魔がこんな美少女って思わなかったしな。もっと怖い容姿をしているもんだと思ってた」
「な! お、お前! いきなり美少女とか何を言うんだ!」
アヌビスは顔を赤らめ、照れたように別の方向を向いた。
照れすぎだろう。本当に悪魔か。
「と、とりあえず、私がお前の元にやってきたのは取引にやってきたのだ!」
「取引?」
アヌビスは頷き、説明を始めた。
「我々、悪魔は日頃、天使と戦っている。だが、今のところ天使の方がやや優勢なのである。そこで人間で悪魔の素質を持つものを悪魔に向かいいれようと思ってな。どうだ? 我々の仲間になる気はないか?」
とんだ提案である。こんなの断るに決まっている。天使と戦うなんてそんな怖い真似ができるわけがない。
「そんなの嫌に決まってるだろ。天使と戦うなんて、下手すりゃ死ぬぞ」
「そんなの心配するな。我々悪魔には死という概念が存在しない。それにお前らが考えているような危険なことはないぞ。それに、私からしたら人間界で働く方が死の危険が高いと思うのだが、違うのかな?」
「そ、それは......」
結構、的を得たことを言ってきやがる。ただでさえ、日本の会社では過労死、うつ病、自殺がありふれている。
「それに、悪魔の女性はそれはそれは美しい女性が多いぞ。それはもう人間界の女性なんて目じゃないくらいな。どうだ? 童貞くん?」
「どどどどど、童貞ちゃうわ! お前だって経験なさそうじゃないか!」
すると、アヌビスの目が泳ぎ始めた。
「はー!? あ、あるし! バカ言うなし!」
「アヌビス。口調変わってますよ」
アヌビスはコホンと咳払いした。
「とりあえず、うちの仲間になってほしい。お試し期間っていうのもあるからぜひ」
「なぁ、人間界には戻ってこれるのか?」
「ああ。自由に上界と人間界を行き来できるから心配ないぞ」
「分かったよ。それじゃ、お試しで悪魔の仲間になってみる」
アヌビスがガシッと俺の手を握ってきた。
「ありがとう。感謝する」
「あ、ああ......」
突然、手を握られて少しドキっとした。
「それじゃ、早速案内しよう。悪魔の世界へ!」
パチンと指を鳴らすと、俺とアヌビスはいつの間にか知らないところ場所にいた。
あたりは暗く、俺は雲の上に立っていた。周りには寝そべっている人たちがたくさんいた。全員背中にアヌビスと同じような黒い翼が生えていた。
中にはゲームをしたり、漫画を読んでいる人もいる。
「なぁ、アヌビス。ここにいる人たち、みんな悪魔か?」
「いかにも。基本、悪魔は働かず、怠惰に生活をしている。たまに訓練するものもいるがな」
「へぇ......」
いいな、それ。最高の世界じゃないか。
「それじゃ、私の家に案内しよう」
「ああ、分かった」
俺はアヌビスに案内され、とある小さな木造の家についた。
「ここが私の家だ。さぁ、入ってくれ」
「お邪魔します」
中はテーブル、テレビ、タンス、ベッドが一つと質素な部屋だった。
「あんまりジロジロみないでくれ。恥ずかしい」
「ああ、悪い」
すると、アヌビスがとんでもないことを言ってきた。
「今日からしばらく一緒に住むことになるけど、よろしくな」
「え?」
なんだと? こいつと一緒に住むだと?
「どうした?」
「俺がお前と一緒に住むの?」
「ああ。まだお試し期間だしな。その期間は紹介者の家に住むことになっている」
「そ、そうか」
まぁ、他にいくところもないし仕方ないか。それに、さっきまで電気代を止められてあたふたしていた。
他人と一緒に暮らすというのは初体験だが、だいぶ、マシな状態だ。うん。
「さてと......今日は特にやることもないし、アニメでも見るか」
そうアヌビスが提案した。
「いいな、見るか」
俺とアヌビスは一緒にアニメを視聴した。視聴したのは現在、放送されているハーレムもののアニメだった。
「このアニメは中々いいな。作画も安定していて、キャラの声のイメージもあっている。よく考えてキャストを選んだな」
「そうだなアヌビス。俺の見立てでは円盤五千は行くと思うぞ」
アニメを視聴した後は、一緒にゲームをプレイした。
「くらえ! 蟹甲羅! ああ! 避けられた!」
「あははは! 甘いな。ここでしっかりとアイテム、星を引いて行く〜!」
ゲームは俺の圧勝だった。
深夜近くまで俺たちは遊んだ。
「はぁ、楽しかったな。それじゃ寝よう」
「ああ」
アヌビスはベッドで、俺はソファーで寝た。
次の日、俺はアヌビスに起こされた。
「おい、起きろ」
「うーん、なんだ。アヌビス」
俺は眠たい目をこすりながらソファーの上から起き上がった。時計を確認したら、もう昼の十二時を超えていた。
「実は魔王さまから連絡があってな。天使と対決せよという連絡があったんだが、種目が『前戯王』だったんだが、剛志、やったことあるか?」
「ああ、結構得意だぜ」
すると、アヌビスが嬉しそうな顔をした。
「そうか、なら一緒にプレイしてほしい。明日、私が出るからトレーニングの相手になってほしい」
「ああ、分かった」
そういうわけで、俺はアヌビスと前戯王でプレイした。
「強い......剛志、お前強いな!」
「ふ......なにせ、一万年パズルをといて、もう一人の俺という人格を持ってるからな」
「それはすごい! なぁ、剛志明日代わりに出てくれないか? 対戦相手がウリエルっていうすごうでデュエリストなんだ。私でも勝てるかどうか分からない」
「ああ、任せてくれ」
俺は自身たっぷりにアヌビスに言った。
そして、次の日。
「悪魔VS天使。今日は前戯王で対決です。それじゃ、両選手どうぞ!」
黒いサングラスをかけたアナウンサーが会場に入るように促した。
悪魔と天使が戦う、バトルアリーナではたくさんの天使と悪魔のギャラリーで賑わっていた。
「きゃー! ウリエル様!」
「イケメーン!」
「かっこいい!」
白い翼が生えた、金髪でイケメンの天使が会場に入ってきた。天使の女性の黄色い声援が聞こえてきた。
ちなみに俺が会場に入ると、会場全体がざわざわしだした。
「えー、剛志選手は悪魔の見習い期間中ということでまだ悪魔の翼は生えていませんが、大会規定上問題はありませんので、どうぞ思いっきりプレイしてください!」
「がんばれよー剛志ー!」
アヌビスの声が聞こえてきた。
俺はカードを置くテーブルの前に立った。
ウリエルと向かい合わせになり、目があった。
「君、人間界から来たんだね?」
「ああ」
「僕も君と同じく、人間界から来たんだ。僕はね? 生まれたからには真面目に生活して、意味のある人生を送るべきだと思うんだよ。悪魔は堕落を肯定している。僕はそんな悪魔を見過ごせないんだ」
俺はこいつの意見に嫌悪感を抱いた。
なにが、意味のある人生をおくるべくだ。堕落? 上等じゃねえか。ニート万歳! 働かない人生万歳!
「お前の言い分は分かったよ。だけど、俺にも譲れないものがある。これで証明しな」
俺はデッキをウリエルに見せた。
「ああ。そうだね」
緊張感がバトルアリーナ中を包み始めた。
「それじゃ、デュエルスタート!」
三分後。
「マジックカードオープン! 『河の中の石を拾いに行く!』 これにより、山札から一枚、好きなカードをドロー! さらにマジックカードオープン! 『二十四歳のスチューデント』をオープン! これにより、手札にある『真夏の夜のサキュバス』をオープン!」
俺の猛攻が続いていた。ウリエルは顔を青くしている。
「これはすごい! 剛志選手のあまりの強さにウリエル選手、手も足もでない!」
「ずっと俺のターン! うはははははははは!」
俺は感極まってバカ笑いした。
「そんなバカな......」
ウリエルは惨敗した。
「ウリエル、いい勝負だった。またやろう」
「うっ......二度とやるかー!」
ウリエルは泣きながら、バトルアリーナを出て行った。
俺もバトルアリーナを出ると、アヌビスが迎えに来てくれた。
「剛志、お疲れ様。今日は大活躍だったな」
「まぁ、俺の実力があればざっとこんなもんだ」
すると、アヌビスは微笑んだ。
「そうだな。それじゃ、帰ってまたゲームでもするか」
「ああ、そうだな」
俺とアヌビスは家へと向かった。
この世界に来てまだ三日ほどしか立ってないが俺はこう思った。
ーー悪魔の世界。とても心地の良い世界である。