7.鍛練と剣バカ。
「ふぅ……」
段々と木の陰に隠れていく夕日を見ながら、大きく深呼吸。
深く息を吸うと、鉄のような臭いがして、少しばかり、楽しい気分になれる。
ああ、楽しかったなぁ………
自分の足元にある骸を見て、さらに充実感を感じようと振り返って――
「……は?」
死体が、光に包まれていた。その光は、ぽつり、ぽつりと死体から剥がれて、段々と浮かび上がていく。
その白い光には、見覚えがあった。
ゲームの終わりを示す光。エンディングのラストで現れる、あの白い光と同じものだった。
その光は段々と剥がれて少なくなっていき――――
「……っ!」
最後の一片が宙に浮かび上がると同時に、激しい光が周囲を覆い尽くした。
その眩さに目を焼かれそうになり、慌てて両腕で目を庇う。
数秒後、光が収まり、目を開けるが、視界が白で何も見えないので目が馴れるまでぱちぱちと瞬き。
暫く瞬きをしていると、真っ白だった視界が色を少しづつ取り戻して、その光景が見えるようになった。
……うん。言わせて貰おう。
「わーお」
全て、消えていた。
周囲の血の跡も含めて、チュートリアル君の痕跡が全て消えた。さっきまで感じていた、血の臭いまで消えてしまっている。
……殺すと、こうなるのかな。
……いや、前の周では、最後のシーン、ヴィルマが殺された時には見えなかった。
………。
疑問は尽きないが、まあ死体の処理が必要無くなった位に考えておけばいいだろう。
私は最後に一つ大きく血の臭いがしない空気を吸ってから、その場所にくるり、と背を向けて歩き出した。
さぁ帰って寝よう。今日は疲れた。
▲ ▽ ▲ ▽
おはようございます。
さて、今回使ったイベントは、チュートリアル君とその他の攻略対象が、一定以上の好感度の時に起きるというイベントだったわけだけど。
それで、今回使ったのが次の攻略目標の、騎士君。
名前はエルナン・ジャネス。
通称は剣バカ。
どんな性格かは……うん、まぁ……この通称で分かるだろう。
▲ ▽ ▲ ▽
今日は武術の授業日。
ちょっと準備運動をしようと武術の授業の十分前に近くに来てみたんだけど……
「わはははは!」
授業前で誰も居ない筈のグラウンドから声が聞こえてくる。
別に怪奇現象という訳じゃない。知ってる声だし。……グラウンドをこっそーり覗き込む。
そこでは……
「わはははは! わはははは!」
剣バカが走ってた。汗だらっだら流しつつ、走ってた。 赤い髪を汗で濡らしてテカテカさせてる。キモい。……殺したい。
授業でも走るのに、なんで走ってるのか……バカだから仕方ないか。うん。バカだから。便利な言葉だね。
……死ぬ時までバカみたいな事してるままなのかな。ちょっと気になる。
因みにこれはイベントではない。剣バカの【毎回授業前に走っている】という設定だ。ここでなんかやっても何の影響も無い……と思う。
でも、何が影響するかは解らないので、細心の注意を払っている。めんどくさいなぁ。
ヴィルマと違ってシナリオとの矛盾ができて、攻略ルートがおかしくなる可能性がある訳じゃないから少し楽だが。
……ヴィルマといえば、チュートリアル君以外の攻略が始まったから、妨害イベントが始まるのか。
まだまだ先だけど、ようやく友達に会える第一歩が踏み出せると思えば、少し嬉しくなった。
そういえば、剣バカを次の対象に選んだのは、残り五人全員が強さ的にまだ倒せない、と思ったから。チュートリアル君以外はみんな強い。
戦闘力までチュートリアルかよ。流石チュートリアル。
……えっと、それで、武術や魔術の授業で会うことになるこいつを選んだ。
授業でステータスを上げつつ、好感度上げていこうね。
▲ ▽ ▲ ▽
「では、授業を始める!」
この掛け声は変わらないが、私を見る好奇の目線は大分減った。
私のステータスも上がって、走り込みもめちゃくちゃギリギリだけど最後まで走れるようになった。継続って凄いね。
因みに剣バカはキラッキラした笑顔で走り終わってた。実際に汗で輝いてた。正直引く。何周走ったの?
「クレヴァリー! 今日から素振りに参加しろ。模擬戦はまだ駄目だが、素振り位なら付いていけるだろう」
おお……ようやくここまで来たか……長かった。
私は刃を落とした模擬戦用の剣を持っ…………重い! 持てるけど!
ふらふらする剣を立てて、ぶん、と力を入れて振ってみる。
剣の重さに体が持っていかれそうになりながらも、どうにか堪える事ができた。
……腕痛くなってきたなぁ。
サッ、とステータスを見てみると、今回も1しか上がっていなかった。
ここ最近、武術魔術共に成長が遅い。
このままでは一ヶ月くらいステータス上げに全て費やす事になりそうだ。
「……ちょっと、実験してみようか」
▲ ▽ ▲ ▽
所変わって現在地が寮の自室、今は結構遅い時間なので大きい音を立てると難癖付けられるので注意しよう。
取り出したりますはそこら辺の空気中の水分を魔法で固めて作った棒(氷)。
装備品で無理矢理ステータスを上げているからか、魔術に関してはまだ、細かい造形とか操作が出来ない。
だけど、棒状とか、球体とか、大まかな形を作るくらいなら簡単に出来る。
このままだと滑って手からぽーんと飛んでいく→がっしゃーん! って鳴る→うるさい、って言われるって事になりかねない。
なので、握るところを挟む様に、円盤状のとっかかりになる奴(氷)を二つ付ける。
後は冷たいので、厚めの手袋を嵌めて……
模擬剣代わりの棒(氷)の完成。
ぶん、と振ってみる。
……少し軽いかな。まあ良いや。
そのまま数分振り続ける。魔法を掛け続けて、氷の温度を維持しつつ、物に当たらないよう注意して振り続ける。
腕が悲鳴を上げてきた辺りでストップ。維持に使ってた魔力も大分カツカツになってきた。
そうしたら、模擬棒を洗面所に置いて放置。朝には溶けてるでしょ。
ステータスも一応確認しようか。
「メニュー、ステータスっと」
……うん、武術、魔術共に増えてないね。予想通りだ。
ステータスが増えるのは授業などの行動だけらしい。
駄目かぁ……。
▲ ▽ ▲ ▽
「…………はぁ」
酷い筋肉痛のする腕を出来るだけ動かない様にしつつ、減魔症で酷い倦怠感のある体を誤魔化しながら、出来るだけ綺麗に歩く。ああ辛い。
やらかしたなぁ……。休日にやれば良かった……。
減魔症ってのは魔法の使いすぎによって、体が残り少ない魔力を保持しようとし、魔力が不活性状態になり、一日ほど、倦怠感が発生する、というもの。
……簡単に言えば、魔法版筋肉痛。
ゲーム的に言えば、動き過ぎだアホ野郎、休みのバランスを取りやがれ、っていう意味のペナルティ。
怠いけども、どうにか魔術の教室にたどり着く事ができた。
よし……うん、どうにか頑張ろう。
そう決意を固め、扉に手を掛けた。
因みに作者は長距離走やると死にそうになります。翌日筋肉痛までがセット。
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