6.「ありがとう。」
この話、序盤は苦労したのに、中盤の転換点に差し掛かると執筆速度が3倍くらいになった。凄い。
あと今回は、残酷描写が入ります。
……一時になって、再び約束の場所にやって来た。
貴族の世界では、どうしても駄目な時以外で、約束を無下にすると、それは相手の事を低く見ているという事になってしまう。
そうすればまた、家の批判の材料にされてしまう。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。
……また誰かが居るんじゃないかと、少し警戒していたが、今度はプリシラの隣には誰も居なかった。
それにホッとしている自分が少し嫌になる。
「……やあ、すまない。 待たせたね、プリシラ」
そう声を掛けると、プリシラは、パッとこちらを向いた後、心配そうな顔になってこちらを覗き込んだ。……顔に、出ていただろうか。
「こんにちは、アルバン様。 ……どうされましたか? お体の調子でも悪いのですか?」
自分に好意を向けてもらっていなかったとわかったのが、ショックだった。
――そんな事を言う資格なんて、無いだろう。……言える訳がない。
僕は彼女に、好きとすら言っていなかったのだから。
当たり前だ。言っていないのに、分かる筈が無い。
どうにか気持ちを押し込めて、何でもないよ、と告げる。
「そうですか……。無理はなさらないようにしてくださいね?」
あんなに愛しいと思えた笑顔が気まずい物に感じてしまう。
……彼女には何の罪も無いのに、それを避けてしまう自分がますます嫌になってくる。
「わかったよ。それじゃあ、行こうか」
それから色々な所を廻っても、気分が晴れることは無かった。
彼女の話も、彼女の笑顔も、全て自分以外に向けられている様な気がして。
それなりに時間も経って、もう終わりが近づいてきただろうという時に、意を決して、彼女に、こう告げた。
「……最後に行きたい所があるんだけど、いいかな?」
▲ ▽ ▲ ▽
貴族街の中央少し外れに森林がある。そこに入って、奥へと進む。
もう慣れた道を進み、大きな切り株のある広い空間に出た。小さい頃、嫌がらせから逃げだした時に見つけた場所だ。
俗世と断絶された静かな場所。家柄も、立場も財力も関係ない。自分をただ、静かに見守ってくれる場所。
だから、ここが気に入ったのだろうか。
その小さい頃にここを見つけて以来、自分が挫けそうな時に、ここへ来る様な習慣が着いてしまった。
2人で広場の中央にある、切り株に腰掛ける。
「素敵な場所ですね……アルバン様? どうされました?」
ここでなら、言える。
切り株に手を当て、その堅い感触を確かめる様に握りしめる。
いつも挫けそうな自分を支えてくれるここでなら。
どのような結果であったとしても。
「――プリシラ」
「………………なんでしょうか?」
「僕は君にとって、友達なのか……それとも――」
真っ直ぐにプリシラを見つめる。
「恋愛対象として……見てもらえているのだろうか」
彼女はこの言葉に驚いたのか、ぽかんと呆けた顔になった。それからその呆然とする顔を崩して、
「ふふっ」
彼女は、笑った。
口角を上げて、楽しそうに。その表情に良い返事を貰えるような気がして、自分も自然と――――
「――――がっ」
突然、顔面を、殴られたかの様な強さの風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
どちゅっ。
倒れ込んだ自分を縫い付けるかのように複数の氷の棘が自分の体を貫通し、生々しい音と共に地面に突き刺さる。
一本一本が凄まじい痛みとなって神経を刺し貫く。
「つっ……何が……」
「ふふふふっ………ふふふはっ……」
そちらに目を向けると、プリシラが居た。
切り株に座ったまま、笑っている。
いつの間にか手と脚を組んでいて、俯いている顔に前髪が掛かり、目元が見えなくなっていた。
そのせいか、笑っている口元だけが、強い印象を抱かせて来る。
「うふふふ………………ふふふっ」
その笑い声が高くなる度に。
笑顔の形を取っていた口角が更に。
つり上がって。
つり上がって。
つり上がって、つり上がり続けて。
裂けそうな程になっても、止まらない。
「ふふふふっ……うひひっ、うひゃっははははははははははははははははははははははは!!」
堪えきれないとばかりに腹を押さえ、天を仰ぐ。
それは、プリシラの形をした、……狂気の塊だった。
清楚な雰囲気を纏っていた彼女は消え、その代わりに、整ったその顔を歪ませ、青い眼に狂喜を宿す狂人が居た。
「は……? え……?」
理解が追い付かない。
何も考えることが出来ない。
ただ狂った様な……いや、狂った笑い声の中に一人残される。
彼女は今、何をした?
何故彼女は笑っている?
解っていても、認めることが出来ない。頭が混乱していて、思考が出来ない。
「いやぁ、この瞬間をずうっと待ってたんだよ。この場所で殺してみたいって、何度思ったっけなぁ! この場所、音も聞かれづらそうだし、最っ高だよねぇ……」
恍惚とした表情で、そう良いながら立ち上がりこちらに歩き出した。
「……たし、かにここは良い、場所だが……」
痛みに耐えながら、途切れ途切れで何とかそう答える。
「そっかそっか。君もそう思う?本当に、本当に……悲鳴が漏れない場所ってのは良いよっ、ねぇ!」
「ーーがっ?!」
その言葉と同時に、腹部に痛みが走った。
恐る恐る下を見ると、太い氷の棘の様な物が、刺さっていた。
「ねぇ。 何で? 何でなのか、私知りたいんだ。」
彼女は足を棘に乗せ、優しげな顔をして楽しそうにそう言うと――
ぐちゃっ。
――体重を掛けて来た。
「ひひっ…… ねぇ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!! なーんでたった数回話すだけで、私がが恋人だと思えたの? 本当に訳がわかんない!
会って数日でデートの誘いをする奴なんて他の5人の中にも居ないよ?
馬鹿なの? ぶっ殺されたいの? そうだよぶっ壊したくて堪らなかったよ本ッッッ当にね!」
何か言っているような気がするが、痛みのせいで、認識することが出来ない。
「……何回も、何回も何十回も何百回も見たんだけどね、私、恋をされる理由がずーっとずーっと、わからなかったんだよね。教えてくれないかなぁ!」
「つっ……ぐぁっ」
腹部に刺された太い棘を足で左右にグリグリと掻き回しながら押し込んでくる。押し込まれる度に鋭い痛みが神経を貫く。
「ぁっ……がっ」
「えー。 答えてくれないの?まあ良いや。この棘もっと欲しいー? ――うんうんうんそうだよね欲しいよねほらあげるよッ!あははっ!」
勝手な断定と共に新しい凶器が作り出され、新しく生成されたその二振りの氷の棘が笑い声と同時に振り下ろされる。
それは元々刺さっていた棘の両隣に突き刺さった。
意識もしてないのに、自然に、ひゅっ、という声が出る。
「何でっ……こん、なことを……?」
「――何でかって?」
そう聞くと、急に気持ち悪い笑いをピタッと止めて、乗せた足を下ろして腕を組んだ。
それでも、発せられる雰囲気は変わっておらず、ただ、彼女の興味が自分から、その疑問に変わっただけなんだと直感的に理解した。……理解、させられた。
「……んー、何で、こんな事をするか、ねぇ…… 」
空気がざわつく感覚のする奇妙な静寂が場に満ちる。
聞こえるのは木のざわめきと荒い自分の息遣いだけだった。
「…………そうだ!」
いきなり動き出したプリシラは自分の結論に納得したのか、うんうんと深く何度も頷く。
そして、こちらにしゃがみこんで、満面の笑顔でこう言った。
「君って、何か食べる時に、何か考える?」
「……は?」
「聞こえなかった? ……君って、何か、食べるとき、考える?」
答えを期待するような眼。……今のは、質問だったのか?
「……んー、解りにくいかな。……じゃあ、起きる事でも良いよ。息を吸う事でもいいし、街を歩く事でも良いよ。若干違いはあるけどね。それで、何かする時って、何か考える?」
「……君は何、を言いた、い」
「えー、答えてくれないのは寂しいなぁ。まあ良いか。 ……えっとね、解りやすく言えばそれと同じなんだよね」
彼女は喋る。
「殺したいから殺す。別に何か考えてる訳じゃないよ。 考える何かって寧ろ有ったっけ。 あぁ、もちろん君を対象に選ぶ基準はあったけどね。」
彼女は狂気を振り撒きながら、喋り続ける。
「食べたいから食べるし、寝たいから寝る。街を歩きたいから歩く。あっ!そうだ!そうだ!そういえば――――――君も恋をしたかったからしたんじゃないの? 」
そして最後に。
「ああ! そうかそうなんだ! 教えてくれて、ありがとう!……じゃあ、これで用事は終わったし、もう君は必要ない、ね」
特上の笑みを浮かべて。
「さようなら。殺しちゃってごめんなさい。あっ! 謝るんじゃなくて……感謝、だったっけ? ふふっ!」
別れを告げた。
「さようなら。色々教えてくれて――――――――」
「ありがとう。」
最後に見えたのは、空に向かって高く吹き上がる赤黒い液体だった。
狂気大好き。
そういえば、チュートリアル君は、プリシラ自体のチュートリアルでもありますが……
読者の皆さんにこういった作品ですよ、とアピールするという意味を持つチュートリアルだったりもします。
大体こんな感じのノリで進行して行こうかと。
今後ともこの物語を見守って戴ければ幸いです。へへっ。
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