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24.薔薇の香り。

 その後は、エルゼと別れて部屋に戻り、とりあえずいつも通りの素振りなどをして一日が終了。


 ……話を広めるのはいいけど、まずはその状態を作らないとね。


 ――――幸いにも、イベントスケジュールはちょうど今からのイベントにぴったりだ。


 エルゼの持ってる魔法にそういうのあったりするのかもね。……冗談だけど。あったら全力で使いまくってるだろう。……怖い。


 まあ、とにかく、明日から全力で攻略していこうか。


 ▲ ▽ ▲ ▽


 今日も薔薇園イベント。


 前回も今回も、相変わらず、どこかぼんやりした顔で突っ立っていた。


 違う所と言えば、ツン薔薇の手に、小さいジョウロがある位だろうか。


 それを傾けて、少しづつ薔薇に水を掛けていた。


 小さな水滴を乗せた薔薇の葉が、日の光を反射してキラキラ光っている。


 それを眺めてツン薔薇はゆっくりと一つ頷き、こちらを向いた。


「……やぁ」


「こんにちは。……毎日、水やりをされているんですか?」


「いいや。水を与えすぎると、薔薇が根腐れしてしまう。数日おき、かな」


 そう言って、再び花壇に水を掛け始めた。


 数日おき、と言いつつ、何時でも起こせるイベントです。エリク君のうそつきー。


 ……そんな事はどうでもいいか。


 進めよ進めよ。


「私も、お手伝いしてもいいですか?」


「……何故?」


 ……心の中で深呼吸。精神を落ち着かせて。


『私』の仮面を深く被り直し、上目遣いで少しぼそぼそと。


「理由が無いと……駄目ですか?」


 ……あー、こんなタイプの台詞言う度に私の正気が削られていくのをひしひしと感じるね。


「……やり方は?」


「見ていたので、少しは分かりますよ」


 差し出されたジョウロを受け取り、まだ水が掛かっていなかった辺りに水を撒く。


 乾いた土に水が染み込み、黒っぽい色を取り戻してきた辺りでストップ。それを、数回に分けて繰り返していく。


 花壇の端まで水を撒き終わって振り向くと、驚いた顔のツン薔薇が居た。


「意外と、上手いじゃないか」


 死ね。


 ……おっと、本音が出そうになってしまった。


「ふふ、ありがとうございます」


「じゃあ、薔薇の世話も終わったし……僕は帰るよ」


「そうですか。……それでは、またお会いしましょう、エリク様」


 ……ツン薔薇を姿が見えなくなるまで、笑顔で見送る。


 ――――その後、ふと、思い立って、花壇の近くに座り込み、薔薇に顔を近付けた。


 真っ赤な花弁から立ち上がる甘い匂い。


 それを暫く嗅いでいると、頭をひどく鈍らせてくる様な感覚がしてきて、思わず立ち上がってしまう。


 立ち上がった私は、その甘い香りを追い出す様に頭を振って、少し離れた所で深呼吸をした。


 ……やっぱり、この香りは好きになれないや。


 私は、夜の訪れを告げる様な冷たい風に乗って来ている、甘い香りのするその花壇を一睨みして、帰路についた。



 ▲ ▽ ▲ ▽


 今日は珍しい事に、またイベントが起こせる余地があるんだよね。


 ……まあ時間帯が特殊なイベントだし。


 夜。この時間に起こせるイベントは、かなり少ない。イベントは大概、日中に終わる物ばっかり。


 寝間着から普段着ともいえる制服に着替え、外に出る。


 今からやろうとしてるのは、『私』が外に出ようと思い立ったらイベントが起こる、っていうランダムイベントなんだけど、私が出たいと思えばイベントが起こせるはず。


 起こらない様なら帰って寝るだけだし。挑戦挑戦。





 ……お。どうやら、しっかり起こったみたいだね。


 突然、何かが目の前に飛び込んで来た。


 その翼の皮膜は黒い布の様だが、翼の筋の様な部分と胴体は赤黒くなっており、何処か不気味な雰囲気を放っている。


「キィィィ!」


 そいつは、甲高い鳴き声で鳴き、こちらの近くまでバサバサと忙しなく翼を動かしながら近寄ってきた。


 こいつは、ブラッドバットって魔物。……弱い。最弱レベルでは無いけど。


 ゴブリン戦の時よりも強くなってるだろうから、余裕っていう言葉が要らないくらい余裕。


 でも、こいつを倒せてしまうと、イベントが起こらない。


 具体的に言うと、このイベントは物理か魔法が20なければ――――


 シュッ、っと飛んだ光の弾丸が、蝙蝠の体を突き抜ける。


「キィィ……」


「……遅い。雑魚が」


 こいつに助けてもらう事になる。今回は動かなかったから助けに来たみたいだけれど。


 突っ込んできた蝙蝠を落としたのは、本日2回目の登場、ツン薔薇エリク君。


 手に持っている武器は魔法銃。ここらではあんまり見かけない武器だね。……本国から持ってきた物らしい。


 一応これで妥協しようかな、と思っていた武器の一つなんだけど、この国にメンテナンスが出来る人が居ないってのと、何より氷魔法は相性が悪くてね。


「あ……エリク様、ありがとうございます」


「……君は何故、こんな時間に?」


「ええと……何となく、夜風に当たりたくて」


「……まぁいい。夜は魔物も活発化するんだ、君も気を付けてくれよ」


「……あの!」


 ……はぁ、何故睡眠時間削ってこんな事しなきゃいけないのか。


「暫く、着いていっても宜しいでしょうか? ……少し、歩きたくて」


「……僕は構わないよ」


 私は、進行方向を向き直したツン薔薇の後ろに着いていき始めた。

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