23.対策を考える。
プリシラが最初に何をするかを想像した結果、こういう事になりました。
……あのツン薔薇の攻略開始の日から二日掛けて、暫く、ヴィルマに向けられる悪戯の頻度を確認してみた。
調べてみた結果、まだ悪戯の頻度は少ないらしい。私が見た時に現場に出逢えたのは、不幸中の幸いだったと言えるだろう。
それでも、やっぱり。少なからず、悪意のある目線が、向けられていた。
――――多分、これは、いつもの私に向けられるそれと同じ様な、大きな流れ。
誰かが、煽動している訳じゃない。皆が皆、悪意を最初から持っていた訳じゃない。
だって、周りがしているから何となく、なんだから。ただ、流されていくだけ。
そうして、流れは大きくなっていく。
……で、大きくなった流れは、激しさを増して――――
――――氾濫する。
そうなったら、もう、終わりだ。たった一人の意見なんて、聞く耳を持たれないどころか、全く気付かれなくなる。
……どこかの私みたいに、そう甘くは、無い。人の感情の流れという物は、そういう物だ。
そうなる前に、止めなくては。
私は、再びしっかりと前を見据え、歩き出した。
▲ ▽ ▲ ▽
壊れた六花を治してくれた、術剣店の店員兼多分職人のヘロルト。
職人っていうのは、つまり専門家。
術剣の専門家も居れば――――
「……割と久しぶり、かな?」
私が掛けた、その声に振り返ったのは、いつも私突っ掛かってくる人間関係の専門家。
「ん? あ!、プリシラ、街で会った時ぶりね。元気してた?」
「うん、勿論。むしろ元気じゃないと思ってたの? ひどいなぁ」
――エルゼだ。人と人との繋がりで、彼女に勝てる奴なんて居ない。居るとも思えないね。もし居たら私に紹介してみてよ。
エルゼと私で、暫く雑談をする。……そして、本題を切り出した。
「そう言えばさ、|カーフェルト家のあの子って、知ってる?」
……その途端、エルゼは眉を顰めた。その顔は、またか、と言いたげな様子で。
「……また彼女の事? 私は特に悪戯には興味が無いのだけれど」
案の定、その様な返答が。
――――ああ、そうか。情報通なエルゼの事だ。攻撃対象の弱点を聞きたがる人は、多いだろう。
「それだけならもう――――」
「――助けたいんだよ、彼女を」
私は、笑顔を消した、真剣な目で、エルゼを見る。
……ヴィルマの事だけでは、真摯な態度でありたい。
その願いが通じたのか、エルゼはふぅ、と息を吐いて、こちらを見つめ直してきた。
「……一応、理由を聞いて置こうかしら。何故、貴女が、彼女を助けたいと思ったの?」
「彼女に、助けられたから、だね」
「そう。いつ……ってのは無粋な質問ね、止めておくわ。答えるつもりも無さそうだし」
「ありがとう……それで、どうすれば、止まるのかな?」
「……そうね、まずは今、この状態の説明からかしらね。敵を知り己を知れば何戦危うからず、だったかしら?」
「百戦、だよ、エルゼ」
「そ。ありがと、授業に出ない成績優秀者さん」
そう、不敵な笑みを二人で交わし、とりあえず場所を移そうと、並んで歩き出した。
▲ ▽ ▲ ▽
「まず、この状態だけれど、平たく言えば、
まず、少数の人から、『興味』を向けられていて、なおかつそれが共有された状態よ」
「えー? あー……うん?」
「それは全て悪い形の興味だけれど、内容は千差万別。嫉妬に、軽蔑、怨み…… ここではおおまかに括ったけれど、実際はもっと複雑よ。何を妬む、どこを軽蔑する、とかね」
そう言いながら、紅茶をティースプーンでかき混ぜるエルゼ。
その顔は、どうだ、と言わんばかり。だけれど、挑戦的な性格の彼女には、良く似合っている様な感じがした。
「それを全て潰すのは出来なくは無いけど面倒。――――だから、今するべき事は、全ての根本、『興味』を薄れさせる事ね」
…………なるほど?
とりあえず、私が分かった事を簡単に言えば……
「……訳が分からない」
「……珍しいわね、貴女がそう言うなんて」
だって私の知識の源は基本、事の繰り返しだから。
初めて知る事に対しては弱いんだよ。
「まあ、良いわ。要は、集まった視線を習慣化する前に剥がすか、分散させればいい、って事よ。だから、プリシラ――――」
エルゼは、ニコッと笑って。
「目立ちなさい、恩返しをしたいなら」
そう、言った。
「――――出来れば恋愛話がいいわね! いい? 男はこういう事にトロいから、まずは話好きの女側からよ! 貴女」
……うわぁ。
…………………………うん。……まぁ、良いか。
やってやろうじゃないか、『私』の真似。
どうせ、またツン薔薇も記憶ごと消してしまうんだし。
――少しの間だけ、堪え忍んで見るかな。
エセ心理学です。ソースも信用度も何にもありません。
リアルで書くなら多分ここにSNSとか社会問題とかで更に考える事増えるんだろうなぁ……。





