20.「幸せ、だね。」
昼~夜の間にタイトル変えます。
前回の話見直したら、最後のところが意味分かりにくい上に、削除した文の残りがあったり。 酷かった。
……まだ終わってませんよ?
――――ここは?
目が覚めて、一番最初に感じたのは、手足の刺すような冷たさ。そして、夕刻前の冷たくなっていく空気だった。
その、二つの冷気が、一度浮上した意識に入り込み、眠気の抜けきっていなかった頭を強制的に覚醒させてきた。
その冷気と、対照的なぱち、ぱち、と弾ける様な暖かみのある音。
目を開け、その音の原因を探ろうとすると、あることに気がついた。
――――手足が、凍っている。
後ろを振り向くと、凍った手足は木に固定され、その状態で、磔にされていた。
「あ、……起きたんだ? もうちょっと、起きるのに時間が掛かると思ってたんだけどな。凄いねぇ」
その声が聞こえた方向に目を向けると、焚き火に手を翳すプリシラが居た。
けれど、それは。
「……お前、本当にプリシラか?」
「嫌だなぁ。君の大好きなプリシラだよ。……ふふっ」
明らかに何時もの淑やかな雰囲気を纏っている彼女とは違う。
何処か、無邪気に遊ぶ子供の様でいて、鋭利な刃物の様な危うさを感じさせる笑み。
それは、自分の知っているプリシラには見えないモノだった。
そのプリシラ……が、ゆっくりと口を開く。
「さて、これで、私の勝ちで、良いよね? もしそれで動ける様ならまだ相手しても良いよ?」
焚き火に手を翳したまま、そう問うプリシラ。
「……いや、無理だな。お前の勝ちだ」
何を言いたいのかが分からないが、とりあえず、自分の負けを告げる。
「やったやったー。 はいこっちの勝ちー、ってね」
そう、飄々とした口調で言って焚き火の側から、クルリと軽快に立ち上がると、こちらに駆け寄り、顔を覗き込んで来た。
その、大きな瞳が間近に迫る。
「……っ」
……その目には、何時もの、日を受けて爛々と輝く海の様な、希望に溢れている、あの好きだった色は無かった。
自分を見ている筈なのに、虚空を見つめている様に見える、無機質な人形めいた瞳。
宝石の様であるが、同時に凄まじい忌避感を覚えさせる。
それが、にっこりと笑っている顔に対して、酷く、不釣り合いな物に見えた。
「でさ、私の『お願い』なんだけど……練習をしたいんだよね」
そう言って、ひらひらと振られた左手には、術剣が握られて。
「――――今まで使った事はあっても、どれくらい『痛い』のかって、聞いた事ないんだよ」
「……何の、練習だ?」
「勿論、戦闘の練習だよ。君もその為に呼んでくれたんでしょ? ……だから、術剣を練習する用の案山子の代わりが欲しくてね」
そう言って少し離れるプリシラ。
「勿論、案山子の代わりは――――」
「――君の、体。」
「――――何をするつもりだ!」
――――プリシラの言葉を遮り、そう訊ねると、彼女はスッと、笑顔を消して。
「……うるさいな。聞いてよ。あいつも君も、質問は答えてくれないし、私の話も全然聞いてくれないし。皆そうなの? そうなんだよね?」
目から、頬から、口元から。おおよそ、感情と呼ばれる物が抜け落ちたままの顔で語る。
「……話を聞かないならもう始めちゃって、いいだよね? もう、説明なんて……要らないんだよね?」
パキパキと音を立てながら伸びる氷の刃を指でなぞりながら、うわ言のように言葉を溢していた。
「じゃあ、始めるね!」
だが、そう言った瞬間、急にパッっと笑顔になって、剣を振り上げ。
「がぁぁぁぁっ!」
右肩を、斬りつけてきた。
「ああ、その声だよ! その声が聞きたかったんだよ! 君、面白いね! あいつと違って、すっごい痛そう! いい!いいねぇ!」
返り血を浴びながら楽し気にぴょんぴょんと跳ねるその姿は、狂っているとしか言えないものだった。
斬られた傷口に、裂傷と、冷たさで、ジンジンと鋭痛が走る。
痛みによって、思考に白い何かがちらつく。
――――それが、何なのかは分からなかったが、それに気を許してはいけないと、本能が叫んでいる。
「これって痛い? どの位痛い? どんな痛みなの? 冷たいと痛いってどっちが大きく感じるの? 凄く気になるの!」
「……はっ……っ、どっちも痛いとしか……分からん」
「……へぇ。答えてくれるんだ。少し見直したかも。じゃあ、これの感想もお願いするね!」
そう嬉々として言うと、氷の刃を落とした術剣を突いて――――違う!ただの術剣じゃない!
「がぁっ!……あっ!……っ!」
剣先に纏わり付いた、荒れ狂う暴風が肉を削り、肉を抉る。もはや、悲鳴を上げる余裕すら無い。
痛いという感覚ごと、抉り取って行かれた左腕は、木に張り付けられたまま、千切れたロープの様に、だらんと力が抜けていた。
「あーあ。少しずれちゃった。うーん、やっぱり、こっちから見えなくなっちゃうのが辛いんだよなぁ。その分貫通力があるんだけれどね。」
腕って壊れちゃったらこうなるんだ。
歪に笑いながら、完全に脱力してしまった左腕をツンツンとつつき、そう言う彼女。
「んー、後は、風刃かな。あれ、結局切れ味がどの位なのか分からなかったんだよねぇ。骨は斬れないとしても、皮膚とか筋が斬れたら嬉しいんだけど」
「ぁ……っ……」
最早、正常な思考が出来ない、そんな状態で。
「――――やめてくれ」
震える口から出て来たのは、そんな言葉だった。
「…………やめてくれ、ねぇ。やめてくれ、かぁ……。うん、分かった」
――――笑顔のまま彼女は動きを止めると。
「じゃあ、これで終わらせるね」
術剣に水が纏わり付いていく。
「そう言えば、試した事無いけれど、これならちゃんと死んでくれるよね?」
術剣から、ふわりと離れた小さな水球が、眼前にやって来てピタッと静止する。
「もう一度言うけど、もうやめて欲しいなら、ちゃんと……死んでね」
白い何かに埋め尽くされた、ふらふらとする視界の中で。
「……やめて、って言えるって、凄い事なんだよ。……君って、本当に…………」
その声だけは、鮮明に聞こえてきた。
「……幸せ、だね。」
爆発のせいでもう何も、見えなかったけれど。
多分、その顔は、泣きそうな物だったんだろうと、そう、自然に思えた。
なんかミスってプリシラさんが左利きになった。でも面白いのでそのままにしときます。過去の話見た感じ問題無さそうなので。
後、プリシラが、止まってくれた理由ですが、自分の中でそう動いてくれたからです。(謎)
本当は、最後まで止まらない筈だったんだけどね……。
キャラクターが勝手に動くって、こういう時の事を言うんだなぁ。





