あなたを愛して何が悪い!
今回は悲恋を書いてみました。えぇ…途中までは。
それではどうぞ!
あなたはきっと後悔する。
そうでなければ、私の存在がなくなってしまうから。そうでなければ、あなたは私を忘れてしまうから。
小さな頃に決められた政略結婚は当たり前だった。それを受け入れることは容易かったし、そうでなければと思っていた。
でも、婚約者であるルイス・ノア・クロフォード次期侯爵様にお会いしたとき一目惚れをしてしまった。所詮、顔だけしか最初は見ていなかった。
けれど、そのあとも性格や人柄に惹かれていった私―――シャルロット・バーキン・オリヴァー―――は子爵家である。侯爵家とはあまりにかけ離れている。
しかし、侯爵家のお眼鏡に適ったのは私の父親と彼の父親が学友であったからだ。私から見ても2人は爵位など関係なく仲のいい友人である。
子爵家は私の兄が継ぐことになっており兄は婚約者の方とも仲睦まじい関係。
あんな夫婦になりたいと密かに憧れていた私にとってルイス様はもったいないほどでした。
えぇ……学園に入るまでは。
「君の瞳はダイヤのようだね」
「あらあら」
「美しい貴女にバラも見劣りするでしょうね」
「うふふ、嬉しいですわ」
「ピンクに染まった君の頬は愛らしいね」
「まぁ、そうですの?」
お前が飲んでるミルクティーをぶっかけてやろうか、この砂吐き男!
ふふっ、失礼。私としたことがつい淑女にあるまじきボロを。
ルイス様の周りには数人の―――それもこぞって美女ばかり―――ご令嬢方が座ってらっしゃいます。先ほどの甘い言葉はこの方たちに向けたものです。
えっ、私ですか?
私はルイス様の後ろで立って控えておりますが何か?
いえ、そんなことはどうでもいいのです。
もうすぐ迎えの馬車が来ます。そう伝えたいのは山々なのですが……
「あの…ルイ「君たちは私を虜にする妖精かい?」
「すみま「あら、クロフォード様ったら」
「あの、み「私たちはただの令嬢ですわ」
「ルイ「うふふ、お世辞がお上手ですわねぇ」
「……」
キャッキャッウフフしてるとこ悪いんですが、もう時間が迫っているんです。だから私の声を無視するな!!
「ルイス様、もうすぐ従者が迎えに来ます。お話の続きはまた明日ということでよろしいですか?」
少し強い口調で話しかける。
まぁほとんどが糖度高めのルイス様のおしゃべりですが。
「もうそんな時間かい?仕方ない。私のフェアリーたち、申し訳ないがお暇させてもらうよ。シャルロットがうるさくてね」
「いいんですのよ」
「私たちはお話しできるだけで嬉しいんですもの」
「クロフォード様、ごきげんよう」
ご令嬢方に1人1人ルイス様が頬にキスしてお開きになる。恨めしそうな視線に私は気付かないふりをして。
ご令嬢方が去ったあと、馬車まで足早に行こうとするルイス様。
「それでは行こうか、オリヴァー嬢」
先ほどの甘いマスクが消えた顔で無関心といったふうの声。
「はい、クロフォード様」
ルイス様は私を愛してはいない。
さっきのご令嬢方との態度で一目瞭然だ。
「オリヴァー嬢、時間が迫っているのは分かるが話を遮るなといつも言っているだろう」
「すみません。しかし先日、何も言わなかったとき長い間待っておられた従者の方を思うとどうしても申し訳なくて」
「父が決めたルールが悔やまれる。一緒に帰るなど阿保らしい」
実の父にいう事か!とツッコミを入れそうになり言葉を飲み込む。
「私は嬉しいですよ、クロフォード様と一緒に帰れるなんて。お願いした甲斐がありました」
私はまだこの人を好きでいる。おかしいでしょ?私だってそう思うわ。でも、一緒に帰れるだけで自然と笑ってしまうのはそういうことよね。
「オリヴァー嬢、私のどこが好きなんですか」
「…秘密ですわ」
毎回この話をしているけれど飽きないのかしら?いや、あんな甘い言葉を何度も言うくらいだ。飽きないのだろう。
馬車に乗れば会話というのはすぐになくなる。相手が喋らないのだから仕方ない。だからいつも通り、ルイス様の顔を見つめる。
金髪の髪は邪魔にならない程度に切り揃えられ、きめの細かい健康的な肌に深い紫色の瞳。窓の方を向いている姿は絵を見ているよう。
誰もが1度は足を止めてしまうほどの格好いい顔。私だって小さいころから見ているけれど慣れてはいない。日に日に格好良さが増している……と思うのは、恋は盲目だからでしょうか。
「オリヴァー嬢、熱心に見つめているところ悪いが近々舞踏会が王宮で催される」
「存じております。準備は進めておりますゆえ、ご心配なさらず」
「……そうか、ならいい」
あっ、言い方が悪かった。いつもドレスを贈ってくださるルイス様。顔に見惚れて忘れていた。
「しかし、まだドレスは決めていません。たくさん種類がありますので迷ってしまいます」
「なら今回も私がドレスを贈ろう」
「はい、ありがとうございます」
相変わらずそっぽを向いたまままので、小さくガッツポーズをする。
ルイス様の隣で恥ずかしくない私になりますわっ!
「これが…ルイス様が贈ってくださったドレス?」
「はい、名前も宛先もすべて今まで通りでございます」
手紙を渡され確認。いつも通りだわ。
目の前にあるのはエメラルドグリーンを基調とした、パッと見は清楚な感じのドレス。背中側の腰辺りに付いた白いリボンが可憐さを醸し出している。
胸元が開きすぎたりビラビラとした飾りがスカートに付いたりしてない。
「おかしいわね。いつもは、ごってごてのビッラビラの大胆なドレスですのに」
「……やっと本気になったか」
「どうしたの?」
「いえ、何もありません。今回はアクセサリーなども贈ってきてくださっています」
おかしい。今まではドレスと靴は贈ってきてもアクセサリーなんて贈ってきてくれたことないのに。
「お嬢様、お顔がだらしないです」
「ごめんなさい、つい嬉しすぎて」
表情筋を引き締め、もう一度ドレスに目をやる。まぁ、少し流行りには早すぎるが贈ってきてくださったんだから着ないわけにもいかない。
「うふふ、それにしても今回はお嬢様が引き立つドレスをチョイスするなんて邪魔な虫が寄り付きますのに」
「ちょっとあなた、怖いわよ?」
「お嬢様、今までなんかよりう~んと美しく仕立てますわ。うふふふふふ」
どうしよう。侍女が自分の世界に入ってしまったわ。これだと、この屋敷中に拡散してしまう。なんだか今回は嫌な予感。
「遅くなってしまって申し訳ございません!」
「構いませんから急いで下りてはいけませんよ」
うっ…いつもより糖度高めだ。思わず足を止める。
ルイス様は基本、猫かぶりだ。私の前では不愛想だが他人がいると性格はがらりと変わる。
だが、あの甘い言葉は決して吐かない。理由なんて聞けないし聞いたところで誰得だよって自分にツッコんでしまう。
今日のルイス様の服装は深い紫を基調とし襟は明るめの紫。アスコットタイはワインレッドで大人っぽさが出ている。
きっと瞳の色に合わせられたのでしょう。それにしても……
格好良すぎる!!私を殺しに来てるとしか思えないわ!!いっそ神々しいですわっ!!
という言葉を喉の辺りで止める。
「すみません。侍女たちが離してくれなくて」
「そうですか。今回は気合をいれているんですね。では行きましょうか」
「……はい」
ほらね、「綺麗」とか「可愛い」とか言ってくれない。
「それは…どういうことですの?」
王宮の舞踏会に来て少し経った頃。ウキウキしていた心が色を無くしていくのが分かる。
「言ったとおり、私はアイリーン嬢と結婚するつもりだ。君とは婚約破棄をしたい」
世界から音が消える。聞こえるのは冷淡なルイス様の声だけ。
「ルイスさ「そのルイスというのもやめてくれ。君とは幼馴染という関係でいたいんだ」
きっとどこかで期待していたのだ。この人はきっと私を好きになってくれると。今は無理でも、きっと結婚して一緒に住んでいれば愛情も出てくるだろうと。
だがどうだ。結婚する前から答えは決まっていた。愛するどころか好きでいてくれたこともない。
こんなところで泣き喚くわけにもいかず、かと言って怒鳴り散らすなんて爵位の壁があり出来るはずもない。緩みそうになる涙腺を唇を噛むことで止め心を落ち着かせる。
うん、大丈夫。ちゃんと言えるわ。
「分かりました。お二人とも、お幸せに。私はクロフォード様よりも素敵な殿方を見つけますわ。あぁあと、二人の披露宴の際には私を招待してくださいませ。それでは…ごきげんよう」
ドレスを翻し、歩き始める。声が震えなかっただろうか。顔は笑えていただろうか。
ルイス様以上に素敵な人なんて考えられないけれどお父様を失望させられない。
「オリヴァー嬢、最後に聞くが…私のどこが好きだったんだ?」
ピタリと足を止める。さっき割り切ったばかりなのにもっと一緒にいたいと思ってしまう。
でも、これが最後なんだ。これが最後の会話なんだ。
振り返り、ルイス様に笑顔を向ける。
「あなたのすべてを愛しております」
「好き」と言えなかったのは、私の最後の足掻きだった。
「シャルロット嬢、ぜひ私と踊っていただけませんか?」
「はい、喜んで」
ダンスの誘いが先ほどからひっきりなしにくる。今まではドレスがごてごてだったから誘われなかったのだろう。
相手も新鮮なのか、踊っている最中もじーっと私を見ていて居たたまれない。
「いやぁ、本当にお可愛らしいですね」
「えっあっ…ありがとうございます」
「クロフォード子息が奥方にするのも頷ける」
あぁ、今その名前を出さないでほしい。それにあの人は私を褒めてくれない。
ターンをしたとき、栗毛色の私の髪がふわっと踊る。いつもは髪にいろいろアクセサリーをつけるが、今回はハーフアップにした髪に白いリボンを付けているだけ。
曲が終わると相手の方が強く私の腕を引っ張ってきた。そのままもたれかかるように相手に倒れる。
「おっと。少し疲れましたかな?シャルロット嬢」
「いえ、別「そうですか。では、少し夜風にあたりに行きましょう」
「えっ?ちょっと待って、痛っ」
肩を強く抱かれ、隣り合うように歩く。男性であるため、女の私じゃ全然びくともしない。
さっき一瞬だけこの人の目を見たけど、飢えた獣のような目をしていた。
口元を押さえられ、一見吐きそうな令嬢を介抱している令息にしか見えない。
そうして、叫ぶことも出来ず会場を抜けた。
会場から離れた誰もいない個室に入れられる。
そういえば最近、大きな舞踏会で女性が襲われる事件が相次いでいると聞いた。
「ふっ、まさかこんな綺麗な方だったとは思いもしなかった。いつも厚化粧で無駄にごってごてのドレスだったからな」
先ほどとは打って変わって欲を露わにした男。今も口元を押さえられ声を出すことができない。抵抗はしてみるものの、歯が立たない。
「それに…見たんだよなぁ?あんたが婚約破棄されてるのをさ。滑稽だったぜ?シャルロット子爵令嬢様よぉ」
気持ち悪い笑みを浮かべる男の言葉に驚く。不特定多数の人には見られていると思っていたけどよりにもよってこんな奴に!
キッと睨むと「その顔、そそるなぁ」と笑みを深くしていく。
どうしよう。このままじゃルイス様に……!
とそこまで考えて、はたと気付く。
そうだ…ルイス様はもう私の婚約者じゃない。きっと今頃、アイリーン様と楽しそうにダンスしたりおしゃべりしたりしてるんだ。
私はなんて愚かなんだろう。頭の片隅ではまだ、いつか好きになってくれると思っている。
あなたはきっと後悔する。
そうでなければ、私の存在がなくなってしまうから。そうでなければ、あなたは私を忘れてしまうから。
一度くらい、「綺麗」とか「可愛い」とか言って欲しかった。一度くらい、甘い言葉を言って欲しかった。一度くらい、嘘でもいいから……
好きだと、愛してると言って欲しかった。
「おっ?なんだ、諦めたのか。今までの令嬢方はずっと抵抗してたんだがなぁ。まっ、大人しくしてりゃ痛くはしねぇぜ?」
抵抗しなくなった私に気を良くしたのか気持ち悪い手つきで腰を触ってくる。
押さえられていた口元から手が離れ、わたしは最初で最後の愛する人の名前を呼んだ。
「ルイス様、助けて……!」
男が私の服に手を掛けようとした瞬間、バーーンッ!!と蹴破られた扉と
そこに立つ愛しい人。
今にも殺しそうな勢いのルイス様に男は平静を保とうとする。
「こっこれはこれはルイス様ではありませんか。いやはや、あなたの婚約者様が急に倒れられましてね。介抱しゴフッ…!」
男が最後まで言い終わらないうちにルイス様が思い切りお腹を殴りかかと落としで男を床に叩きつける。そのまま気絶したのか、泡を吹いている男。
「衛兵!この男を牢屋にぶち込んでおけ!」
「「「御意っ!」」」
いつの間にか、数人の衛兵が来ていて男を引きずって立ち去った。
「シャルロット!大丈夫か?」
焦っているのか、名前呼びになっているルイス様。
部屋にいるのは私とルイス様だけ。気まずい。ものすごく気まずい。
なんでいるの?とかどうしてここが分かったの?とか言いたいことは山々だがさっきの倒す姿が格好良すぎて言葉が出なくなっている。
でも次の言葉に耳を疑う。
「君が無事でよかった」
ぎゅっと抱きしめられてはもう何が何だか分からなくなる。嬉しいわ訳が分からないわで頭の中はぐちゃぐちゃ。泣きそうになるのも仕方ないことだ。
するとそれを見てギョッとした表情のルイス様は
「シャルロットどうした?まさかさっきの男に何かされたのか!くっそ、何が何でも死刑に「アイリーン様のところに行かなくていいんですの?」
そう言うと、部屋に沈黙が訪れる。私は構わず続けた。
「だって、クロフォード様はアイリーン様と結婚するんでしょう?どうして私にそのような言葉を掛けてくださいますの?まるで私とクロフォード様がまだ、婚約者同士のようなものじゃありませんか」
「シャ…シャルロット?」
「それに、私には名前呼びを許してくれないのにクロフォード様はなぜ名前呼びですの?不公平ではありませんか。私だって名前で呼びたいです。私のこと、お嫌いなくせになぜ優しくするんですの?惚れ直しちゃったじゃないですか」
「惚れなおっ!?」
「それなのに、何なんですの?急に優しくするなんて今までのご令嬢方と一緒じゃありませんか。甘い言葉でご令嬢方を口説いていた砂吐きクロフォード様を私は嫉妬の炎で焼いてしまいそうでした」
「砂吐き…嫉妬……」
「私はいつも好きだと愛してるだと言っているのに嘘でも言ってくれないですし、綺麗とか可愛いとか言ってくれません。私は…私は…こんなにもクロフォード様を好きでいるのに…うっうぅ…うぅぅっ……」
「なっ泣かないで?シャルロット」
「泣いてません!!うっうぅ…えぐっ、ひぐっ……」
「あぁぁぁ…せっかく侍女さん達が気合入れてるのに。ほら、ここに座って?今度は私が話す番だよ」
近くにあったソファに2人で腰かけ、ハンカチで目元を優しく拭われる。
「どこから話すべきかなぁ…う~ん……。私はまだ、見習いだけど王宮に仕える騎士団に入団している」
「学園に入ってるのに、ですか?」
「そう、腕を見込まれてね。仮に入団しているんだ。大体が雑用ばかりなんだけど、たまにこういう仕事を任される」
「こういう仕事って女性が襲われている事件ですか?」
「まぁほとんどが情報集めだけどね。それで噂話が好きな令嬢方に話を聞いていたんだ。女性を褒めるとたくさんの情報がもらえるからね」
涙は止まったがなぜかイラッとした。
「納得できません。それにアイリーン様とご結婚なさるのにどうして」
またも沈黙。すると
「あぁぁそれもかぁぁ!アイリーン嬢は事件の被害者なんだ!だから…その…」
歯切れの悪い言い方にむっとする。すると慌てたようにルイス様は
「いや!結婚することは嘘なんだ!う・そ!!今でも結婚したいのはシャルロットだけだ!信じてくれ!!」
と言った瞬間、真っ赤になったルイス様。まるで赤く熟れたリンゴだわ。
あら?今更だけど、こんな人だったかしら?
幾分か赤みの引いた顔を手で仰いで冷ましているルイス様。
「いっ言わなかったのはすまない。でも、そうしないと怪しまれる可能性が高かったんだ。君をおっ…おとりに使ったのは本当に悪かった」
「おとり、ですか」
「奴を捕らえるためには私が婚約破棄をしているのを目撃させて君を襲わせる必要があった。君は…その……きっ綺麗だからすぐに目を付けると思ったんだ」
またも顔を真っ赤にするルイス様。挙句の果てに顔を隠してしまった。
「あっ…アイリーン嬢に、襲われた相手の顔を確認させて会場を出た君と奴を追って、襲われる寸前で乗り込んだんだ。本当はダンスしているときに捕まえたかったが証拠がないとしらを切られるから」
そこまで言ってふぅ…と一息ついている。
「婚約破棄のこと、まだ終わっていませんよ?」
「うっ…それは…君は賢いから子供同士での婚約破棄は成立しないと分かってくれると思っていたんだ。まさか信じるとは思っていなかったんだよ」
そっか、よくよく考えてみれば婚約破棄は子供同士ではできない。現当主同士の合意の上で婚約破棄となる。常識なのに忘れていただなんて。
「私自身あのとき混乱していましたし許してください。好きな人に嫌いだと面と向かって言われたのですから仕方ありません。それより、私をおとりに使ったほうが問題では?私のお父様に知られたらクロフォード様、殺されますわ」
「それは大丈夫。許可は取ってあったから。むしろ、オリヴァー子爵を説得するのに2週間かかった」
遠い目をしたルイス様にその大変さがよく伝わった。確か、頬を腫れさせていたことがあった。理由を聞いても「なんでもない」の一点張りだったから深くは聞かなかったけど、あれってお父様に殴られていたのね。
「でも、クロフォード様は「ルイスでいい」…ルイス様は私のことがお嫌いですよね?」
一瞬の沈黙のあと、
「あぁぁそこも説明するのかぁぁ!あのね、正直に言うけど!私はシャルロットのことをあ…あ…あ…愛してるんだ」
蚊が鳴くような声で言ったあとすぐに「あぁぁくそぉぉぉ!」と髪を乱暴に掻き回している。
そんなことをしても似合っているなんてルイス様、すごいわ。じゃなくて、
「ではなぜ、私には冷たかったんですの?他の方には猫をかぶってらしたのに。私はずっと嫌われていると思っていました」
「それは……君と話しているとどうしても顔が赤くなるから引き締めていたんだ。頼りない私は嫌だろうから声も引き締めて。嫌われていると思ったならすまなかった。だが、こんな私に君は呆れているだろう?それこそ、嫌いになったんじゃないか?」
その問いに少し考える。
「まぁ、冷たかったり嘘をついたり人をおとりに使うなんて最低最悪です」
「最低…最悪……」
落ち込んだ顔になったルイス様。今までとは180度も違う表情に笑みが零れる。
「だけど嫌いになるわけありません。もっともっと好きになりました。私は今のルイスのほうが大好きですよ?」
わざと呼び捨てにすると、みるみるうちに真っ赤になる。
「シャルロットは…何でそんなことがすぐに言えるんだい?」
「ふふっ、それはルイスのすべてを愛しているからですわ。愛が溢れると言葉にしたくなりますもの。あぁそれともう1つ、聞きたいことが」
「何だい?」
「どうしてビッラビラのごってごてのドレスばかりでしたのにこのようなドレスを贈ってくださったんですか?今までずっと悪趣味だなぁと思っていましたからびっくりしました」
本心を口にする。最近のご令嬢でもあれはなかったわ。
「悪しゅっ!?……いや、そう言われるのも無理はない。その…き……綺麗な君を他の奴らの目に晒したくなくて。あれだけしていれば踊る奴なんて早々いないし、君だってどこにも行かないと思ったから」
「それでは今回もそうすればよかったではありませんか?まさかおとりのためですか?」
強い口調で言うと「そっそうだけど違うんだ!」と慌てている。おもしろいなぁ。
「おとりのためでもあったんだけどね……もう私たちも結婚していい年だと思って」
ほんのり赤い頬を掻いて照れている。
「結婚とドレスはどう関係ありますの?」
「あれ、知らない?瞳の色と同じ色の服を舞踏会で着るともうすぐ結婚するっていう意味になること。昔からあったけど最近それが多くなってて今の流行りだってご令嬢方が言っていたから」
確かに私の瞳の色はエメラルドグリーンだ。そういう流行りもちらっと聞いた覚えがある。だけど、あえて言わせてもらいますわ。
「ルイスのその口で私にプロポーズしてください!!」
「えぇっ!?」
当たり前じゃないの。プロポーズもなしに結婚してたまるか。
「途中で噛んだら何度でもやり直ししますわよ」
「うぅ…分かったよぉ」
「なんでこんなことに」と嘆いているルイスは意を決したように跪き、私の手を両手でギュッと握る。
顔を上げると今まで私には向けてくれなかった優しい微笑みが浮かんでいる。不意打ちにドキッとした。さっきまで真っ赤だったくせに。
「シャルロット・バーキン・オリヴァー、君が私のすべてを愛しているように私は君のすべてを心から愛している。結婚してくれないか?」
穏やかな声が部屋に響き渡る。
彼の頬に手を当てられ、身体も心も温かい気持ちになる。ずるい、ずるすぎる。
「はい、これからももっともっと愛してください」
ルイスの瞳に映った私の顔はとても幸せそうな顔をしていた。
後から話を聞いたが、関わってきたすべての人たちが「ルイスが私を好きだ」ということを知っていたらしい。それを聞いたルイスは真っ赤になるくらい驚いていたけど彼ら曰く、
「ときどき、遠くからシャルロット様を見つめている姿やシャルロット様の好きなところを永遠と語られ相談されていました」と。
気付かなかった私は悪い。でも、教えてくれない周りも悪い。
さらにおしゃべりをしていたご令嬢方は私とお友達になりたかっただけだとか。
あの舞踏会以降ルイスが私にベッタリだとか。
そんなルイスを見て幸せだと思う自分がいるとか。
「シャルロット、どうしたの?」
「いえ、ルイスを愛していると再確認していただけです」
真っ赤な顔のルイスが可愛いなと思う自分がいるとかってきっと昔の私は想像していなかったと思うの。
そう思わない?
あれ~?ルイス様はこんなつもりじゃなかったんだけどなぁ!でも、私的には赤面男子どんどこいだったので楽しめました。
最後におまけ小話を。
~その後の2人~
ルイス「シャルロット、私のどこが好きなんだ?」
シャルロット「ルイスは好きだねぇ。言ってるでしょ、すべてを愛してるって」
ル「だっだから、具体的にだよ!」
シャ「しょうがないなぁ。まず、容姿よね!流れるような金髪と色気のある紫の瞳。でも本当は頼りないところもいいわ。時々見せる男らしさもいいけど、子犬みたいに項垂れる姿は悩殺ものよ。それとね……」
このあと、3時間も続いた。