はなみち⑥
中は、別世界だった。
人っ子ひとりいない店内は、外観からは想像もつかないほど広く、整ったコーナー別の 本の配列、行き届いた掃除はホコリひとつ見当たらない。
ただ、ひとつ欠点があるとすれば、店のなか全体が緑1色だったことだろう。本棚、壁紙、天井、レジ周りーー、全てが『緑』で構成されている。照明だけは白い明かりで照らしていたが、それが店の至るところにある『緑』を一層際立たせているーー
あっけにとられて店内を眺めていると、
「いらっしゃいませ、本日はどのような本をお探しでしょうか?」
と、急に声をかけられた。
声のした方を向くと、そこには
おさげのメガネっ子がいた。
「い、いや、今日は、げ、ゲームを......」
「ゲーム機はなんですかぁ?」
「ぷ、プレステ4で。」
「かしこまりましたっ。こっちです。ついてきてください。」
あまりにも、あまりにも店全体に広がる『緑』にたいしての、そのメガネっ子のギャップが激しすぎて、多少テンパってしまった。
年は高校生ぐらいか?いかにも本屋で働いてます的なブックオ○にもいそうな普通のメガネっ子だった。しかしよく見ると、着ている服がおかしい。黒い、マントのような、いやこれは、ローブ?といったほうがいいのか?よく魔法使いが着ているアレに似ている。コスプレか?
「それにしても、久しぶりのお客さんなんで嬉しいですぅ。」
「そ、そうなのか。この店、外観はこんなキレイに見えないもんな。」
「そうなんですぅ。チェーン店にお客さんとられちゃっててー。ついこないだ改装したばっかりで、初めてのお客さんなんですよー。」
「なに1番目なのか?そりゃテンションあがるな。」
「ま、改装したの5年前なんですけどぉ。」
「それ改装したの全然活かされてないよね。もっと改装したの宣伝しよ。お兄さん涙出てきた。」
「そんなことないですよー。現に、お兄さんが来てくれたじゃないですか!私の努力のたまものです!」
ん⁉︎この子の努力ってあれか⁉︎『ゲームソフトはじめました』か⁉︎
「でも...ちょっとだけ欲を言えば、本を見に来てほしかったなー。」
「あー、すまん。オレあんまり本読まない人なんだよ。嫌いってワケじゃないんだけど、なんかしょうに合わないというか、活字を5分ぐらい読み続けると体が拒否反応示しちゃうんだよなー。」
「あーいますよねーそういう人。私は逆に読み出したら止まらなくなっちゃいますぅ。あ!この本とか。」
「へー、相当おもしろい本なんだろうな。なんて本?」
「『バイオハザード最速攻略!ロケットランチャー付き』」
「それ完全にゲームしながら読んでるよね!しかも一回読み出したら止まらなくなるって、ゲーマーの風上にもおけないよ!ズルしてるし!ていうか本見に来て欲しかったって言ったわりに、読んでる本攻略本じゃねーか!」
「失敬な、行き詰ったら読むだけですよぉ!ロケットランチャーは2周目からしか使いません!まったくもう、早く攻略して2周したら売るのが私のスタンスなんです!」
「いやもう読んでる本が攻略本じゃねーかはシカトだよ!ていうかお前のスタンスは聞いてねーよ!わかった、わかったよもう何もいわない、お前の攻略本ライフをエンジョイしろよ。」
「やっとわかっていただけたんですね。嬉しいです!あ、こちらがゲームソフトのコーナーですよ。」
そう言って彼女が案内したゲームコーナーには、見間違いかと思って瞬きをしてみても、ためしに頬をつねってみても、ゲームソフトは1本しかないのだった。