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花花  作者: 江戸川維新
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はなみち④

翌日、オレはどうにも納得いかないと言う顔で、仕事場である「ミラージュ」の店先に置いてある鉢物に、水をやっていた。

昨日はあれから大騒ぎになった。

殴られた審査委員長は、若者が勢いでやってしまったことだからと、ダンディな大人の男らしい弁解をしてくれたのだが、大会実行委員会の老害どもの怒りが収まらず、オレは来年度の全国大会シード権ならびに予選参加権を取り上げられた。

つまり、来年度は全国大会どころか、その予選にさえ出られなくなってしまったのだ。


「クソっ。」


来年の大会に出られなくなったのも悔しいし、感情的になって殴ってしまったことは反省しているが、それよりも昨日の審査委員長が言った言葉が妙に引っかかり、しかしそれが何なのか分からないと言う気持ちに腹が立ってしかたなかった。


「ブーケに気持ちなんていらねえよ......」


ダメだ。

思考ストップ。

つい本音ではない言葉をツイッターにつぶやいてしまう。


「お兄ちゃん、お墓に持っていくお花作ってちょうだい。」


と、常連のおばちゃんがきたので、はいはいとウンザリな返事を返して墓参り用の花束を作り始めた。


「どーしたの辛気くさい顔して。イケメンが台無しじゃない。」


「あー大丈夫だから。ちょっと寝不足なんですよ。」


適当に返す。


「若い人は夜更かしが好きよねー。それよりもお兄ちゃん身長高いわよね?いくつ?180ぐらい?」


うるさい。


「うちの旦那の若い頃にそっくりなのよー。」


うるさいうるさい。


「たしか25歳ぐらいよね?いいお見合いの話があるんだけどー。どう?ねえ、どう?」


「あーもううるさい。」


やべっ、声にでちゃったよ。


「なによ!人が親切にして上げてるのに。もういいわ。違うお花屋さんで買います。フン。」


そう言って、鼻息を荒々しくした太ったマダムは、ブヒブヒ言いながらでていった。

ありゃありゃ。

怒らせちゃったみたいだな。

しかし、フンってホントに言う奴いるんだな。

オレはどうにも、墓参りや仏壇に上げる花がキライだ。

こんなオシャレな店で、墓参り用のダセー花買うなんてどうかしてるよな。

もっと小汚い、商店街にある感じの花屋で買えよ。

全国2位のオレが作るんだ。

もっとオシャレな仕事持ってこんかい。


「おい桜木、ちょっといいか?」


「は、はい。」


唐突に、店長から呼ばれた。

店長はオレのフラワーデザインの師匠でもあり、大会の審査員も務めるほどのフラワーデザイナーだ。

ただグラサンが怖い。

もしかして昨日の騒動を怒ってるのか。

ふう、憂鬱だ。


「まあ、そこに座れ。」


「失礼します。」


「昨日はイロイロあったが、とりあえず準優勝おめでとう。」


「は、はい。ありがとうございます。」


「来年、大会に出れなくなったのは残念だが、お前が殴ってしまった気持ちも分からないでもない。まあ来年は、充電期間として、もっと腕を磨くことに専念しろ。」


あれ、わりと高評価。

わかってるじゃないか、グラサン君。

メガネは黒いが、大事なことはしっかりと見えてるらしいね君は。


「ところで、さっきの接客は何なんだ。」


え?


「何なんだと聞いているんだ。」


「いや、あれはですね、その......」


「お前は花屋をなめてるのか?」


「なめてるというか......なんといいますか......」


本題はこれかっ。

そのグラサンで凄まれると、もはやカタギと話してる気がしましぇーん。


「審査委員長が言っていた言葉の意味を、全く理解していないようだな。」


「え?それはどういう......」


急な意味ありげな言葉に、泣きそうになっていたオレは、一瞬にして真剣な表情になった。


「もういい、お前は花のデザインばかりで、人に花を贈ると言うことの根本的な意味さえわかっていないらしいな。」


「待ってください。オレもデザイナーであり花屋です。客の気持ちぐらいは理解してるつもりです。」


「ではなぜさっきの客は帰ってしまったんだ。」


「それは......」


ぐうの音もでないとはこのことだろう。


「今日は帰れ、家でさっき言ったことを考えてこい。」


「......」


かくして、オレは仕事を強制早退させられ、家路につくことになってしまった。










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