8話:何かこのままじゃダメになる気がする
お久しぶりです!
何と二ヶ月ぶりですよ!
初依頼を終えてから早くも一週間がたった。
あれからギルドに戻った俺達は討伐数で騒がれた。……主に一ノ瀬と亜里沙がだけど。
今ではギルド中で期待の新人と注目されるようになっていた。
この一週間も依頼に勤しみ、二人はあっという間にギルドランクをCにまで上げていた。
物語の主人公のような大躍進だ。
「おっ、見つけた」
そんな二人とは違い、俺は昇格するという事もなく一人依頼の薬草の採取のために森に来ていた。
「はぁ~、今日も低級モンスターばかりがいる森で一人採取か」
薬草を鎌で刈っていきながら嘆息する。
俺の実力じゃあ一ノ瀬と亜里沙の戦いにはついていけない。
だからこうして簡単な依頼ばかりを受けているのだがさすがに飽きてきた。
俺は採取した薬草を小さな網目の籠にいれていく。
それから数十分薬草を採取し続けて依頼の数に達した。
「帰るか……」
夕日が落ち始めるなか俺は哀愁を漂わせながら歩いていく。
「では依頼の報酬の千ゼニーです」
ギルドに依頼達成の報告をしに行った俺に報酬が支払われる。
「やっぱ少ないな」
一晩の宿代の相場が三千ゼニーだから一日中やっても宿に泊まる事はできない。
依頼の数は山ほどあるが最下位のランクの冒険者では大した稼ぎは得られない。
薬草の採取でも危険はあることから正直割りに合わないと思っている。
幸いお金については心配ないが今の状況は俺を駄目にしていく。
「た、ただいま」
「え、なんだ伊勢か、お帰り」
「る~くん、おかえり~」
宿に帰ると食卓についていた二人に挨拶をした。一ノ瀬は地球の学生服から金色の鎧姿に、亜里沙は至るところに装飾を施したローブに光沢を放っている真っ黒な杖を装備している。
俺よりも難しい依頼を受けた二人だが疲れてる様子は見えない。
「る~くん、ごはんくお~」
亜里沙が満面の笑みで食卓の上の料理をすすめてくる。
テーブルの上の料理は地球では見たことないモンスターの肉や異世界の野菜が数品置いてあり肉は肉汁が滴り野菜はとてもみずみずしく美味しそうだ。
合計の値段はこの宿で三泊出来るくらいだ。
全て一ノ瀬と亜里沙が稼いだお金から出している物だ。
「じゃ、じゃあいただくよ」
先ずは見たことのないモンスターの肉を食べる。この肉はちょっと見た目がグロいけど脂が滴っているのにあっさりとしていてとても美味しい。
「相変わらず美味しいわよね。名前のとおりに満腹になっちゃうわ」
一ノ瀬も手を止めることなくどんどん食べていく。ちなみにこの宿の名前は満腹亭だ。
「ねぇ~。おいし~ね」
亜里沙は……うん、俺と一ノ瀬の合計よりも多く食べている。まじで何で亜里沙は太らないのだろうか。
「亜里沙、よく太らないわ……はっ、まさか! 栄養はその胸に」
ゴクリ、と一ノ瀬が喉を鳴らしている。大方自分も食べればいいと考えているんだろう。……やめとけ失敗するのは目に見えている。
「本当に毎度高いもの頼んでもらってわるいねー」
食事をしている俺達に割烹着を着たふくよかなおばちゃんが声をかけてくる。
この宿、満腹亭の女将のプランさんだ。
「そんな、私達が好きで頼んでるんですから」
一ノ瀬が気にするなと手を振る。
この宿は決して高級ではない。それなのに中々の値段の料理を頼んでもらって悪いと思っているんだろう。
だけど決して一ノ瀬は嘘をついているわけではない。
「でもねー。やっぱり悪いからねー。そのライスがもっと在庫があればいいんだけどねー」
俺達が頼んだ料理が高いのはお米が原因だった。
この世界がどうなのかは分からないが、この村ではお米の仕入れが少ない。
そのため無理いって仕入れてもらうどうしても高くなってしまう。
「いいんですよ。私達もライスを食べられて嬉しいんですから。ここの料理も旨くてどんどんすすみますしね」
食べる量こそ少ないものの一番お米が好きな一ノ瀬がおばちゃんを褒める。
「う~ん。そう言ってもらえると助かるけどねー、よし! ワタ坊にもいつも迷惑かけてるし腕をかけて私のスペシャルをだそうかね」
おばちゃんはうでまくりをして厨房に向かっていく。
「えっ、ワタ坊にもって、あんたいつのまに女将さんと仲良くなってんのよ」
おばちゃんが漏らした一言に一ノ瀬が言及してくる。
「まぁ、俺はいつも暇だからな。おばちゃんの手伝いをしてたんだ」
「さすがる~くん! やさしい~」
亜里沙は箸を突き上げながら俺を褒めてくる。
「あんたって本当に直ぐ仲良くなれるよね」
一ノ瀬も俺に感心している。
……全然大した事じゃないんだけどな。命がけの冒険をしているお前らの方がかっこいいし、凄い。
「本当にこのままでいいのか」
俺は小さく、誰にも聞こえないように自分に問いかけた。
いや、いいわけがない。
「亜里沙、一ノ瀬。お願いがあるんだ」
俺は二人にしてはならないお願いをするため口をひらいた。
こーん、こーん、満腹亭の裏庭で断続的に甲高い音が鳴り響く。
「空を駆け抜ける~、最強の種族、ドラゴン! ドラゴン!」
昨夜から一日たち相変わらずすることがない俺はおばちゃんの手伝いに勤しんでいた。
今やっているのは薪割りだ。
中々キツいけどついでに鍛えられるから必死に頑張る。
こーん、こーん。と木が割れる音を音楽に即興で歌詞を考え歌っていく。
「それ変な歌だな」
「ん?」
薪割りしている俺に声がかけられた。
斧を地面に置いて薪割りを一度やめて声の方を向く。
「……何だ、カンナか」
声をかけてきた者が見知った少女だったので俺は斧を持ち直し薪割りに戻っていく。
「何だじゃない! 用があるから来たんだかんな! 無視をするな」
少女が怒鳴り声をあげるので仕方なく作業をやめる。
「何だ? おばちゃんが俺に何かようなのか?」
俺がそう問うと少女はさらに機嫌を悪くして、亜麻色の髪を振り回すような勢いで大声をだす。
「ち、違うかんな! うちを母ちゃんとセットにすんな」
「あー、声が大きい。わかった、わかったよ。だから用があるなら早く話してくれ」
俺の目の前の割烹着を着た少女―――カンナが大声をだして疲れたのか、ハァハァと息を乱している。
「母ちゃんに聞いたぞ。ワタル、危険な依頼に行くんだろ」
「何だ聞いたのか」
まぁ、おばちゃんがいる目の前で話していた俺にも責任があるか。
「ワタル、前に自分は弱いと言ってたかんな。なのに何で」
確かに俺はゴブリン討伐の依頼の後おばちゃんの手伝いをした時にカンナを紹介されたとき自分のランクを言った。
……でも、それでも俺は、
「俺はドラゴンが好きだ。魔法が好きだ。聖剣が好きだ。……この世界が、異世界が好きだ! 冒険をしたい、そのためにここまで来たんだ。怪我する? 死ぬ? ハッ、上等だ。俺はここでこの世界に死ぬ覚悟できたんだ」
やっぱり冒険が……物語のようなつらくて楽しくて、ワクワクするような冒険をしたいんだ。
だけど心残りはあった。亜里沙と異世界の事もそうだ。俺が原因で連れてきたの二人を残して死ぬかもしれないからだ。
でも、それも昨日話し合った。
……泣かしちまったな。
昨夜の事を思い出すとズキンと胸が痛む。
だけどもう引けない。
「……ワタル」
俺の覚悟を聞いたからだろうか、カンナは声を静かなものにする。
はぁ~、カンナまで泣かしそうになってどうすんだよ。
「まっ、大丈夫だ」
「えっ」
「俺は死なねーよ。それに帰ってきたら危ないことは当分しないよ」
そう、俺は何も死にたいわけではない。
この世界に来た理由は冒険をしたいというものだけではない。
……雪乃の事も探さなきゃだしな。
「本当にか、嘘だったらゆるさないかんな」
カンナは、キッ、と目をつり上げる。
よかった。これなら涙は流れない。
「あー、本当だ。だから子供はおとなしく俺が帰ってくるのを待っていてくれよ」
うんうん、よかった。これでこのシリアスな雰囲気が消えてくれるな。
「……じゃ……い」
「へっ、何か言ったか?」
何か空気が変わったような、それも俺が望んだのとは違った方向に……
「うちは子供じゃない! もう15才だかんな!」
子供扱いされたカンナは拳を放つ構えをとってから突きだしてきた。
そのスピードはとても宿の娘とは思えない程はやい。
「ちょ、ちょっとまて! お前のパンチはシャレになん―――ぐふぉ」
カンナの拳が腹にめり込み俺は悶絶する。
その威力は尋常ではなかった。
それもそのはずだ。カンナは宿屋の娘としておばちゃんと二人きりで働いているが才能――職業は別にある。
俺の『怠惰の眼』にはカンナの職業が見えている。
【拳闘士】……コレがカンナの職業だった。
てか、普通にヤバイ。胃の中のものが逆流しそうだ。
「うちはもう大人だかんな」
「わ、わかった。カンナはもう大人だよ」
「ふん。当たり前だかんな」
カンナは当然だとばかりに腰に手を当てて威張る。
……そんな態度をとる時点で子供なんだけどな。もちろんこの考えは口にださないけどな。べ、別に言ったら殴られるからとかじゃないぞ!
「……なぁ、カンナ。話戻るけどさ、俺が帰ってくるのを待っていてくれないか。何かそっちのが俺も頑張れるような気がするんだ」
こんな事を言ったら死亡フラグになるのかもしれない。だけど時には言葉にしたい事があるものだ。
「えっ、それって……うちに?」
「ああ、カンナにだ」
「ぇぇぇぇぇぇ、それって……それってぇぇぇ」
「もちろんおばちゃんもな」
俺の知り合いっていったら二人しかいないし、この宿は落ち着くからな。
……ん、あれ? 何かカンナが頬を赤くしながらクネクネしている。なにしてんだこいつは?
「お前に待っていてほしいって、そういうことだよな。えぇぇぇぇ、まだ会ってから1週間なのに……で、でも嫌ってわけじゃないし、むしろうれしいかんな」
何か一人ブツブツ喋ってんだけど……まじで急にどうしたんだろう。
……なんて事を考えていたらバッと勢いよく後ろを向いて独り言を言っていたカンナがこちらを振り返る。
「う、うちもだかんな」
「えっ?」
うちもだから、何の事だろう。
「うちもワタルと同じだかんな」
俺と同じ。そうか、そういうことか。
「……カンナ」
「……ワタル」
カンナは何かを覚悟したような顔をして目を瞑る。
わかったよ。カンナ、もう何も言わなくていい。
「でも、友達は作った方がいいぞ」
「…………………………えっ」
「確かに宿の事で忙しいのかもしれないけど、一人はときに寂しくなるからな」
あー、カンナは覚悟を決めて打ち明けてくれたのに説教みたいになっちゃったな。
いや、でもこれは言わないとだよな。
「と…ともだち?」
「ああ、俺と同じ、つまり知り合いが少ないって事だろ」
あれ? 何かカンナ固まっているけど違ったのか?
「知り合いが少ない……うちに待っていてほしいのはうちしかいないから?」
また一人でブツブツ呟きだした。
だ、だけどなんだこれ。さっきと違いどす黒い雰囲気になったような…………プツン、えっ、今のは何の音だ。
「アハハは、そうかそうか。ぜんぶうちの勘違いということ……まぎらわしいんだかんな!!」
「へっ――――」
何の前触れもなくカンナに殴られた俺の意識はブラックアウトした。
な、何でなんだ。
「――せ――い――、伊勢!」
「あ、あぇ……一ノ瀬」
名前を呼ばれて目覚めると目の前には怒り顔の一ノ瀬がいた。
「って、目覚めると……何で俺は寝てるんだ?」
何だろう。何かを忘れているような気がする。俺がそうして不思議そうにしていると怒り顔の一ノ瀬がさらに顔を赤くして怒鳴ってきた。
「なーーーにが俺は寝てるんだ? よ! あんた昨日自分から依頼を受けたいっていったんでしょーが! なのに何でそのあんたが呑気に寝てんのよ」
「いや、だからその理由がわかんないんだけど」
まじで何で俺は眠ってたんだ。
「あれ? 亜里沙は」
のほほんとした声が聞こえないと思ったら亜里沙の姿がなかった。
「亜里沙なら先に向かっているわよ。昨日言ったでしょ」
一ノ瀬は呆れたような視線を俺に向けてくる。
そういえばそうだったな。
でも、それにしても、
「……ていうか、以外だな」
「はぁ? 何よ急に」
突然の俺の言葉に一ノ瀬は不思議そうにする。
……自覚がないのか。
「いや、昨日はあんなだったのに、今はずいぶん依頼について前向きだし」
「ちょ、ちょっと! 昨日の事を言うのはやめてよ。……う~、何で私ってばあんな恥ずかしいことを――じゃなくて!」
一ノ瀬は頬を染めてから直ぐに顔を真面目なものにする。
「伊勢、あんた勘違いしているわよ。確かに私は昨日は反対したわ。でも、あんたは本気だった。だから多分もう私にはあんたを止めることはできない……だから、私も決めたの。あんたを死なせないって、……だから今は一分一秒も無駄にはしないわ」
「一ノ瀬……」
まさかここまで俺の事を考えてくれてたなんて……死ぬ覚悟はしたつもりだけどこりゃ、やっぱ死ねないな。
「よし! 分かった。なら時間を無駄にしないためにもさっそく始めよう!」
昨夜、一ノ瀬と亜里沙を説得した時俺は二人にクエストに行く前に一つのお願いをしていた。
「じゃあ始めるわよ――――魔法と剣の特訓を」
それは弱い俺が少しでも強くなるための修行をつけてほしいというものだった。
「おう!!」
異世界といえば魔法と剣。俺は興奮しながら亜里沙の待つ初依頼で行った大草原に向かっていく。
はい、次回は少しの訓練が入りますね。
そして危険な依頼とは何なんでしょう!
あっ、わたあめTwitterを始めてみました! 一度眼にしてもらえると嬉しいです。
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活動報告からも簡単にとべます。