6話:説明回的な話、そしてステータス、まあさすがに俺も学習してますよ……えっどゆこと
説明回です。
筋肉だるま達の魔の手から逃れた俺は目的であった冒険者になるために受付に向かう。
「何か見られてない」
「じ~、ってするよね~」
「さっきの戦いぶりを見たからだろ」
一ノ瀬や亜里沙みたいな綺麗な女の子が筋肉だるまを圧倒したら誰だって注目する。
「まあ、気にすんな。ほら受付に着いたぞ」
受付にいる受付嬢は茶色の髪に目の下に黒子がある色っぽい美人だった。
これぞ定番! しかも受付嬢は色んな情報をくれる異世界では欠かせない存在だ。
何としても仲良くならなければならない。
あっ、受付嬢が俺の方を向いた。
よ、よし、ここは一応イケメンの笑顔で……
「プッ」
笑みを浮かべる前に笑われてしまった。
くそ、そういえばギルド中に助けを求めて叫ぶという痴態を見られてたんだった。
しかも女の子二人に助けられたんだ。
今更取り繕っても無駄か……仕方ない、受付嬢とのフラグは一旦諦めよう。
「あの、冒険者になりたいんですけど」
俺は至って普通に声をかける。
「あ、はい、冒険者登録をなされるのですね」
受付嬢もプロだ。先程の笑いを消して真剣にこちらの話を聞いてくれる。
「はい、でも俺達田舎者なんで、冒険者についてよく分からなくて」
「なら、ご説明をしますね」
「はい、お願いします」
異世界ではよくある、普通に考えると少し怪しい説明をした俺にも受付嬢は優しく説明をしてくれようとする。
あーー、やっぱり受付嬢っていいなーー。
「では、冒険者は、狩り、採集、雑用等多種多様の依頼を受けて達成させるのが仕事です。依頼を達成させますと依頼人様から報酬の金品をもらえます。この際ギルドには仲介料として、一割程報酬から引かしてもらいます。もし報酬が金銭ではない場合は、申し訳ありませんが、ランクに応じた金銭を冒険者様からいただきます」
「その仲介料って、払わずに逃げたりする人は出ないんですか」
もし報酬の額が大きければ引かれるのもその分大きくなる。逃げる人がでると思うけど。
「はい、残念ながら仲介料を払いたくないがために、逃げ出す人はいます。ですが、仲介料をもらう代わりにギルドは、依頼人様が冒険者様に報酬を払わず逃げる等のトラブルが起きぬよう、安心の依頼のみをご紹介します。また、万が一冒険者様にトラブルが起きた場合はギルドも微力ながらサポートさせていただきます」
「なるほど」
確かに怪しい依頼を受けたくはないし、サポートもしてくれるなら安心できるギルドのがいいよな。
「ではご説明の続きを、先程ランクという言葉が出てきましたが、ランクというのは、SランクからGランクまでございます。初めはGランクからスタートです。このランクは依頼をこなしていくことで、ランクアップします。Bランクまでは自身のランクの依頼を十回失敗せずに達成しギルド側がランクアップさせるべきと判断した時ランクアップの試験を受けられます。依頼を受ける時はボードに貼ってある依頼書をこちらの受付まで持って来て下さい。では長くなりましたが、ここまでで何かご質問はありますか」
受付嬢の説明が一旦止まり質問があるかを聞かれたので一ノ瀬と亜里沙を見るが、
二人とも黙ったまま動かない。
「質問しなくていいのか」
てっきり、質問をすると思っていた俺は二人に確認する。
「別に質問するような事なんてないでしょ」
「亜里沙もないよ~」
確かに今の説明で充分だけど、俺は気になる事があって手を上げる。
「じゃあ一つだけ。Bランクまでのランクアップの仕方は聞きましたけど、その上のランクになる方法は何ですか」
「はい、それは知りません」
ニッコリと微笑みを浮かべながら受付嬢は知らないと言う。
「え、どういう事ですか」
「Aランクから上になるには女神様が決めますから」
受付嬢によると職業と同じく神様がAランクに相応しいと思ったら突然ランクが上がるらしい。
何か女神様を理由に細かい所を誤魔化そうとしているのは気のせいだ。
「では次はステータスを測りましょう」
ステータス。異世界物ではほぼ必ずというほどでてきて、ステータスを測る時主人公の力が発覚して騒ぎになるものだ。
……まぁ、ヒモの俺じゃあ多分ないけどな。
何度も想像と違うこの世界にさすがの俺も学習する。
「では、ステータスを測りましょう。このステータスプレートに触れると冒険者様の実力が数値として写ります。では先ずはお名前を聞きます」
受付嬢はそう言って三枚のプレートと名前を書くための紙を差し出してくる。
幸い、都合よく言葉と字は地球と同じか、知らないうちに変換されてるのかで不都合はないので紙に名前を記入していく。
「へー、実力を数値に出来るって本当にこの世界はすごいわね」
名前を書き終わりプレートを受け取った一ノ瀬もファンタジーの様なこの世界に改めて感心しているようだ。
まぁ、確かに凄いよな。
え~っと、ステータスプレートの項目はと、名前、レベル、体力、魔力、力、耐久力、脚力、魔法力、魔法耐久力、なるほど分かりやすいな。
「項目のレベルは経験値をためる事により上がります。体力はその人の生命力を、魔力はその人が持つ魔力量を、力は攻撃力を、耐久力は防御力を、脚力は速さを、魔法力は魔法での攻撃力を、魔法耐久力は魔法に対しての防御力をそれぞれ表します」
受付嬢の説明は俺の予想と合っていた。
「ねぇねぇる~くん」
「うん、何だ?」
ステータスプレートをまじまじと見ていると亜里沙が声をかけてきた。
「経験値ってなに~、それにこのステータスプレートってどういう仕組みなの~」
亜里沙的にはただ疑問に思った事を言ったのだろう。だけど俺は一瞬固まった受付嬢を見て思った。
そこは魔法や神がいるファンタジー世界って事で納得しておいた方がいいと。
「あ~、うん。そこは気にするな」
「る~くんがそう言うなら気にしな~い」
亜里沙は朗らかに笑って疑問を消し去った。……こいつ、俺になつきすぎだろ。
「あ~、こほん。それではステータスを測り終えましたか」
受付嬢は先程の亜里沙の質問をなかった事のように話を進める。
「私は終わったわよ」
真っ先に測り終えた一ノ瀬が受付嬢にステータスプレートを差し出す。
「渡してもいいのか」
俺は耳元で一ノ瀬に囁く。
こういうのはあまり見せるものでもないと思うけど、まぁ、受付嬢ならいいか。
「ちょっと、くすぐったい。……渡してもいいかって、何言ってんのよ。私達にどれくらいの数値が普通か知っている人なんていないでしょ」
「ああ、なるほど」
一ノ瀬もちゃんと考えているんだな。
「じゃあ私も~。灯ちゃんと同じ~」
無邪気に笑いながら受付嬢に渡す亜里沙と違ってな。
「はい、では、拝見を……って! 何ですかこれ! どの数値もレベル一の平均を軽く越えていますよ。一ノ瀬様は何者なんですか、それに水無瀬様も魔力関係の数値がずば抜けて高いです。本当に何者なんですか」
職業はステータスプレートには写らないので知りたいのは分かるが、本来あまり素性を探る様な真似はしちゃだめだと思う。
それだけ驚いているのだろう。
それほど一ノ瀬達は凄い数値をだしたのだ。
だけど、俺はむしろやっぱりという思いだった。
……明らかにあの二人は物語の重要人物的だもんな。そして、俺は多分一人平均よりも数値が低いのが見えている。
おっ、ちょうど数値が出た。ほらっ、俺はやっぱり数値がひく……えっ何これ。
「あ、あの~、俺のプレートなんですけど、壊れてんすかね」
俺は受付嬢にステータスプレートを差し出す。
「壊れて? いえ、ステータスプレートは故障なんて事は聞いた事ありませんけど……ってええ!」
またしても受付嬢は驚きの声を上げる。
だけどそれは俺の数値が高いわけでも低すぎるわけでもない。
「な、何でステータス欄が見えないのでしょう」
そう、俺のステータスプレートはーーーこう写っていて見えなかったのだ。
受付嬢も驚いているし、こんな事は初めてなのだろう。
今の俺の状況を一言で言うと、えっ、どゆこと。
てか、本当にどういう事なんだ。
結局俺のステータスは分からないままで話を進める事になった。
「スミマセン。ギルド長にご報告しておきますので、ステータスについてはまた後日という事で、冒険者登録については問題はないので」
「ああ、はい。まあ、問題がないならいいか」
どうせ数値が低いと思ってたんだ。隠れてるならまだ希望が持てる。
「そうですか。では冒険者登録を行います」
受付嬢が紙に何かを書いていく。ああ、本当に冒険者になれるんだな。
冒険者までもうすぐと思うと嬉しくなってくる。
「はい確認を終えました。冒険者おめでとうございます」
この瞬間俺は冒険者になった。
うぉぉぉぉぉっっっしゃゃゃゃ。
俺は心の中で歓喜の叫びを上げる。
「うるさい!」
「いたっ」
何故か突然一ノ瀬に叩かれた。な、なんでだ。
「嬉しいのは分かるけど叫ばないでよ」
「え、声にでてた」
どうやら嬉しいあまり自覚のないまま叫び声をあげていたらしい。
「じゃあ伊勢、宿代のために急いで依頼を受けようよ」
「ああ、そういえばそうだったな」
忘れてはならないが俺達の目的は宿代だった。
「ねぇ、る~くん。お外真っ暗だよ~」
「はっ、そんなわけないだろ。さっきまであんなに明るかっ……えっなんで暗いんだ」
「今は冬なので直ぐ暗くなるのは当たり前ですけど?」
受付嬢は不思議そうに話す。
しまった。俺達の住んでた場所とは時季がずれていたのか。あれ、でも外寒くなかったよな。
「でも、本日は暖かいのでよかったですよね」
よくないわ! まぎらわしい。
くそ、こんな暗いんじゃ初めての依頼は危険か。
「ちょっと、どうするのよ伊勢! 私野宿なんて嫌よ」
「わ、わかってる、な、何とかするからゆさぶるな~」
一ノ瀬が涙目で俺を揺さぶってくる。
お金を稼ぐにはどうしたらいいんだ。
お金お金お金お金……あれ、まてよ。
ある事を思いだし俺の顔から、サーと血の気が引いていく。
「あああ、あの、受付嬢さん。少しいいですかね」
「はい、何でしょう?」
俺は一ノ瀬に確実に怒られる事を覚悟しながら、受付嬢さんに質問する。
「報酬は金銭以外にもあるっていってましたよね。たとえば宝石なんかもあったりします」
「はい、依頼人様が報酬を宝石にする場合もありますよ」
「そ、そうですか。それはもしかしてギルドでお金に変えたりできましたりします」
「はい、ギルドでも鑑定し買い取る事はしますよ」
今、俺が一ノ瀬に怒られる事が確定した。
「何、伊勢。あんたどうにかできるの!」
「うわ~。る~くんすご~い」
一ノ瀬と亜里沙が期待に目を輝かせる。
あ~、でもあれを見せたら絶対に怒られるんだよな~。
「少し出てくる」
俺は門番のオッチャンの所に向かった。
場所はギルドの外、急いで戻ってきた俺が見せたものにやはり一ノ瀬が反応する。
「な、何なのかなーーこれは」
一ノ瀬が頬を引きつかせながら言う。
「うわ~~キレイ~」
亜里沙が目を輝かせてながら声を弾ませる。
「あ、はい、見ての通り宝石っす」
俺が門番のオッチャンから受け取った鞄から出した宝石の数々を見て。
「宝石っす、じゃないわよ! こんな物があるなら何でさっさと出さないのよ!」
「異世界に来た興奮で忘れてたんだよ」
「あんたこれ、異世界に来たときのために持って来たんでしょ、忘れたら意味ないじゃないの!」
やはり一ノ瀬は怒った。まぁ、忘れてた俺が悪いんだけどさ。
「はぁー、もういいわよ。早くそれを受付に渡したら」
よ、よかった。一ノ瀬の怒りが思った以上に早く怒りが収まってくれた。
「わ、わかった。急いで渡してくる」
俺は急いで受付に渡しすため、走って受付に向かおうとする。
「あれ~、でもる~くん。異世界は雰囲気も大事って亜里沙に言ったけど、宝石持ってくるのはいいの~」
亜里沙のその声を聞いて俺は決めていた速度を上げて走る。
いや、だってお金って大事だろ。
異世界に行くと決めてたら対策は練るよな。
俺は間違ってない。俺は間違ってないはずだ。
俺は何かを振り切るように受付に全力で走る。
「はい、では十万ゼニーです」
俺は宝石の一つを売ったのだが、受付嬢がくれたお金は一万ゼニーと書いてある紙幣十枚だった。
「あの、もしかして一万ゼニーの下って五千ゼニーだったりします」
「え、あ、はいそうです。五千、二千、一千、五百、百、十となっていきます」
受付嬢にこいつ何言ってるんだって目で見られた。これでもう受付嬢と仲良くなるフラグは完全に無くなったな。
まぁ、普通お金の事を知らないなんておかしいか。
それにしても、随分と都合よく俺達の通貨に似かよってるよな。
……これは気にしたら負けか。
俺達はさっきまでの慌てようはなんだったのかというほどあっさりと金を手にした。
明日こそ依頼を受けるぞ!
じ、次回こそ、初依頼に行きます。