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5話:ギルドでテンプレになりました……と思ったら違いました

第5話始まるよ~

神殿に帰る道すがら俺は自分の職業の事について考えを巡らせる。

ヒモについての大まかな事は分かった。

しかし、ヒモという職業の力はどんなものなのか、また発動条件は何なのか。

結局大事な所は何もわかっていない。


「他の職業に力を与えられるだもんな」

ヒモで現在唯一使える怠惰の眼によると、職業ヒモは他の職業から力を与えられる事で力を発揮すると見える。

ということは発動条件を調べるには他者に協力してもらうのが一番いい。


「はぁー、やっぱ一ノ瀬と亜里沙に協力してもらうしかないよな」

異世界に来て頼れるのは一緒に扉を潜りこの世界に来た友人と幼馴染みだけだ。

先程泣きわめいて逃げ出した事を思い出すと憂鬱になるが職業を知るために頑張れと自分を心の中で叱咤し無理矢理奮起させる。


それから暫く歩くと神殿が見えてくる。


「あっ、伊勢!」

「えっ! ああ、一ノ瀬か」

突然後ろから声をかけられてビックリしたが聞こえてきた声は知っている者の声だった。


「よかった。戻ってきていたのね」

「何だ。探していてくれたのか」

見ると一ノ瀬の頬にはいくつもの汗の滴が頬を流れており制服は肌に引っ付いている。そうとう、急いで探したのだろう。


「当たり前でしょ! こんな知らない町を逃げるなんて正気じゃないわよ」

「わ、悪かった。もう、逃げたりしないよ」

「当然よ。もう、亜里沙も今必死であんたを探してるのよ」

「本当に悪かった」

二人をこの世界に来たのは元は俺のせいなのに知らない町で二人を置いて逃げるなんて本当にバカだった。


「なっ、そんなに落ち込まないでよ。わ、私もあんたに謝る事があるんだから」

「えっ、何を?」

落ち込んだ俺に一ノ瀬が早口で捲し立てるが職業の事と二人を置いて逃げた後悔が頭を占めており謝られる理由が直ぐには浮かばない。


「ほら、あんたをバカにするように笑っちゃったでしょ」

「ああ、あれはしょうがねえよ」

先程は逃げてしまったが冷静になると異世界で職業ヒモになってしまった者を見たら笑ってしまってもしょうがない。


「でもあんた傷ついたんでしょ。ならやっぱり謝らなくちゃダメだよ。ごめんね」

「……ああ、こっちも逃げてごめん」

「うん」

いつも元気な一ノ瀬がしおらしくなると反応に困る。やばい、お互いに話せなくなって空気が重たくなってきた。


「る~くん~~!」

「うわっ」

重たい空気にそぐわない明るい声が聞こえてくる。同時に明るい声を上げた者が俺にぶつかるように抱きついてきた。


「あっ、亜里沙!」

「よかったよ~。る~くん、何処かに行っちゃったのかと思ったよ~」

「へ、平気だ。俺はもう何処にも行かない。だ、だから俺から離れろ」

俺の身長は172cmで亜里沙は150ちょっとだ。何が言いたいかというと、亜里沙が前のめりで抱きついて来るので胸が俺の大事な所に当たるのだ。

もちろん幼い頃から兄妹同然に育った亜里沙に恋愛感情は持っていない。

しかし、心はそうでも健全な男子である俺の体は亜里沙の豊満な胸に正直に反応してしまう。


「やだー、もうる~くんを離さないー!」

「なっ、何で! いつもは言うこと聞くのにこんな時にかぎって……こらっ、離せ!」

くそ、亜里沙の奴本気で力を入れて抱きついて中々離れないぞ。


「頼む! 後生だから、俺から離れてくれ」

じゃないと俺の元気な息子が反応しちゃうーー。


「いやだぁー、る~くんからもう離れないの!」

「いい加減にしないと怒るぞ」

どうだ。ここまで怒れば亜里沙もさすがに離れるだろう。


「何でそんなに離れたがるの~、る~くんは亜里沙のこと嫌いなの?」

「うっ」

やめろ。そんな捨てられた犬みたいな潤んだ目で俺を見るな。くそ、俺が亜里沙を嫌いな訳ないことくらいお前自身知っているだろう。


「嫌いなわけないだろ」

「ほんとう!」

俺に嫌われてないのが余程嬉しいのか亜里沙が俺の胸に頬を擦り付ける。


さっき犬みたいと思ったけど本当に犬みたいだ。亜里沙のお尻から尻尾が左右に揺れているのが見えるような気さえしてくる。


「何かどうでもよくなったな」

先程の一ノ瀬との重い空気も俺の大事な所が反応しそうになってたのも気づいたらいつの間にかに消失していた。

亜里沙はその無邪気さで昔から周りをほんわかさせる。


「ったく、相変わらずお前は凄いよ」

「る~くん。急になでなでしてどうしたの~」

亜里沙が気持ちよさそうに目を細める。

やっぱり犬みたいだ。


「ゴッホン、……私も居ること忘れないでね」

「……ああ、もちろんだよ」

俺はすっかり一ノ瀬の事を忘れていた。



「それじゃあ、次は宿を探すということか」

三人そろった俺達は今日泊まる宿を決めていなかった事に気づいた。


「ねえ、宿を探すのはいいけどお金はどうするの?」

もちろん俺達の中でお金を持つものなど一人もいない。だけど金を得る方法ならすでに俺は見つけていた。


「ふふふ、そんな事はとっくに考えているに決まっているだろ……そう、冒険者だ!」

異世界に来た者が金を稼ぐといったら冒険者が鉄則だろう。

まぁ、商人になるという方法もあるが俺達に向いているとは思えない。


「でも、冒険者って危ないんじゃないの」

一ノ瀬は職業が勇者なので強力な力は持っている。だけど戦いと無縁な生活を送ってきた少女がいきなり異世界に来て危険な事をするぞと言われれば躊躇するのも当然だ。


「安心しろ。冒険者になるのは俺だけでいい」

俺は親指を自分に向けてどや顔で宣言する。


「なに言ってるのよ。一番危ないのはヒモのあんたでしょうが」

「じゃあ何か? アルバイトでも探すのか? 自分から異世界に来たのに」

俺は自分から異世界に来たのだ。バイト何かしたら異世界に来た意味がない。


「た、確かにそうだけど、命には変えられないでしょ」

「大丈夫だよ~、灯ちゃん。る~君は亜里沙が守るから~」

のほほんと亜里沙は自分も冒険者になると言う。


「まあ、亜里沙は伊勢の味方よね。……分かったわ。私も冒険者になるわよ」

溜め息を吐きながら仕方ないと一ノ瀬は冒険者になることを認めてくれた。

何だかんだいって、俺の我儘を聞いてくれる二人には本当に感謝している。

だから俺も無理はしない。


本当に簡単な依頼しか受けない事にする。

万が一にも二人が傷つかないように俺が冒険者を諦めればいいだけなんだけど、どうしても胸の内で燃えさかる異世界への憧

れがそれを許さない。

「よし、なら早く行こう、あと数時間くらいで暗くなっちゃうからな」

感謝と罪悪感を持ちつつ、俺はギルドへ二人を連れて向かっていく。



「原初の神の神龍に最強の可能性を持つ~……て何、あんたついに壊れた?」

「ついにって何だよ! って、そんなことよりもまじなんだって、俺には怠惰の眼という能力があって見えるんだから」

先程神龍に会ったときの事を俺は二人に話した。しかし、返ってきたのはごらんの通り俺の言うことを全く信じていない一ノ瀬の言葉だった。


「じゃあ、私の頭にはなんて浮かんでいるの」

「……勇者」

「そんなのは知っているわよ。それより詳しい情報を教えなさいよ」

「……見えない」

「ほらみなさい」

そう、俺の眼には一ノ瀬の頭の上の文字が職業名以外がはてなマークになっており見えない。

俺の眼の能力では見えないのか、ただ今はまだ能力が弱くて見えないのかは今は分からない。


「まぁ、信じないならいいけどさ。でも見てろよ、俺が成長すればきっと見えるようになるからな」

なんたって最強の可能性を持つのだ。能力も同じように強くなる可能性は高いと思っている。


「はいはい、私には確認の仕様がないんだから、好きなだけ喚きなさいよ」

「くっ、自分達は天使を見たとか言ってたくせに」

俺は小さくそう呟く。


「る~くん? 天使がどうかしたの~」

「何でもないよ」

小さく呟いたんだけど耳がいい亜里沙に聞き取られてしまったようだ。

……天使か、もし天使が現れたのが神龍みたいにただ力を与えたと知らせるくらいならいいんだけど。もし、何かさせるために現れたのだとしたら……そしてそれが何か大変な事だったとしたら俺はどうすればいいんだろう。

胸に抱いた不安を何の確証がない今、俺は二人には話せない。


「る~くん。ギルドってあれ~。大きいね~」

「へー、さすがに大きいわね」

「えっ、あ、ああ。そうだ」

亜里沙と一ノ瀬が驚きの声を上げるまでギルドが見えてくる所まで来ていた事に気づいていなかった。


「何ボーッとしてるのよ。調子でも悪いの?」

「大丈夫? る~くん。どっか痛いの」

「ああ、何でもないよ。だから亜里沙。泣きそうな顔をするな」

駄目だ。ボーッとしてたら直ぐに二人に気づかれてしまう。

亜里沙にも心配かけてしまったししっかりしなきゃ駄目だな。


それに憧れのギルドに来たんだ。楽しまなきゃな。


「よーし、二人共。ここが異世界の定番、冒険者ギルドだ。全力で楽しむぞーー」

腕を突き上げて、ギルドの扉の前まで駆けていく。




************


「何だ。やっぱ、伊勢はただの異世界バカよね」

扉に向かって走っていった渉を見て灯は溜め息を吐く。

「何だ。心配した私がバカみたいじゃない」

先程の渉の様子に灯は心配していた。だけどギルドに駆けていった渉を見ていつも通りだと灯は一安心する。


灯の前では渉が腕を突き上げて喜色満面の笑みを浮かべて早く灯達が来るように促しているところだった。

「たく、子供みたいに笑っちゃって」

笑顔の渉につられるように灯も笑う。


「る~くん。楽しそうだよね~。よかった~」

「ええ、そうね」

亜里沙もまた同じように凄く嬉しそうに笑っている。亜里沙は人が喜ぶと自分まで笑顔になるような子だ。

伊勢の事になると他の人とは比べ物にならないくらい笑顔になるけど。

そこまで考えた灯は思う。

やっぱ好きなのよね。

あいつの何処がいいんだろう。

確かに気は合うし、顔は可愛いし、勉強も運動もできてああ見えて優しくていざというとき頼りになりそうで、何より真っ直ぐ……て、何よこれ、私がすごい伊勢を好きな様に見えるじゃない。

伊勢はあくまで友達だ。それに亜里沙の想い人を好きになるはずがない。しかし、そう思っても灯の頬はうっすらと赤く染まっていく。

「灯ちゃん?」

亜里沙が灯を心配して名前を呼ぶ。

スッと、亜里沙の声を聞いた灯の心が冷めていく。

―――そうだ。私は三人でいるのが好きなんだ。



「おーい、二人も早く来いよー」

いつまでもこない灯達に待ちかねた渉が手を振りながら呼んでくる。


「今いくよ~、る~くん」

亜里沙は渉に呼ばれてすぐ走っていく。

その様子は本当に飼い主の言うことをよく聞く犬みたいだ。

少し進んだ亜里沙が急に立ち止まる。

……どうしたんだろう?


「灯ちゃん。行こう」

亜里沙は満面の笑みで灯を呼ぶ。

その笑顔はいつも人を和ませる。本当に凄い。


これなら大丈夫。きっと伊勢も亜里沙の事を好きになる。私がどうこう考える必要はなかった。

今はただ、三人で異世界を楽しもう。


「ったく、今いくわよ」

灯は渉と亜里沙のもとへと駆けていく。





「よし、じゃあこれからギルドに入るけど、一つ気をつけてくれ」

「気をつけるって何がよ」

「うん、わかったよ~」

「亜里沙、ここは俺に合わせなくてもいいぞ」

「じゃあわかんない~」

こほん、一度咳払いをしてから俺は異世界のギルドのテンプレを説明する。


「いいか、ギルドってのは、男だらけの場所なんだ。そんな所に俺みたいなガキと二人みたいな女が行くと、絡まれる可能性がある」

俺がイメージする異世界なら確実に一ノ瀬と亜里沙を連れてる俺は絡まれる。


「最後に聞くぞ、二人は嫌なら冒険者にならなくてもいいんだぞ。もちろん、二人が俺を心配してるのも分かる。だから俺は自分の力に見合った依頼しか受けない。だから、俺が心配という理由でなろうとするなら安心してくれ」

これで二人がギルドに入る理由はなくなった。後は本人次第だ。


「る~くん。亜里沙は入るよ~」

亜里沙は両手を前でぎゅっとして、がんばるよ~と鼻息荒く言う。


「まぁ、私も付き合うわよ。勿論亜里沙のためにね」

一ノ瀬は腕を組んでそっぽを向きながら、亜里沙のためだと仕方なさそうに言った。

前から思ってたけどコイツって結構ツンデレだよな。


「……わかった。なら、いよいよギルドに入るぞ」

俺はギルドの扉に手を伸ばし取っ手を握る。

「いくぞ」

そして、扉を開ける。


先ず最初に感じたのは威圧感だった。

何人もの鍛えられた男達による圧力は、今まで感じた事のないほどの重みをもって襲いかかってくる。

想像では味わえない重みだ。

……コレが、荒くれもの達の集まる冒険者ギルドなのか。

何かわくわくすんな。


「はー、何なのここ、汗臭いし何か熱気が凄くない」

「そうだね~。何かお風呂入りたいね~」

ギルドの空気に、俺がワクワクしていると後ろから冷めるような事を一ノ瀬と亜里沙が話している。


「なぁ、分かる。暑いのもお風呂に入りたいのもわかるよ。でもそれ、今言わなくてもいいじゃん」

「あっ、ごめん」

「る~くん、ごめんね」

さすがに二人も今のは悪いと反省していた。


「おうおう、人前で見せつけてくれるじゃないの」

「こちとら、疲れてんのによー」

一ノ瀬と亜里沙と話していると、異世界のギルドに必ず現れる、やたらガタイがよく体が大きい男二人組が絡んできた。


「テン――何の用だ」

あぶねぇ、テンプレきたーーって、叫ぶ所だった。こういう時はクールになるんだ。


「いや、何、可愛い子がいるなとおもってね」

「ああ、まじでタイプだぜ」

やはり狙いは一ノ瀬と亜里沙か。


「なっ、何よあんたら」

一ノ瀬も男達の狙いが分かったようだ。

まぁ、普通分かるだろう。


「ふぇぇ~、この人達どうしたの~」

亜里沙を除いてだけどな。亜里沙は昔から鈍感だ。


まぁいい、今は先ずここをどう切り抜けるかだ。

初めはこいつらの職業を確認するか。

……なるほど、ただの市民のようだな。

それならば俺でも勝てるかもしれない。

市民には職業冒険者等と違いその職業に特化した補正のようなものがない。

これでも、異世界に行く日を夢見て体は鍛えていた。


「コイツらに指一本触れてみろ、……殺すぞ」

あまり喋ると弱く見えるような気がするから短く声を低くするようにして言う。

まぁ、あんまり意味はないと思うけど牽制にはなるだろう。……何かクールに言う主人公みたいでカッコいいしな。


「手をだすなね~」

「いいぜ、出さないでやるよ」

俺の啖呵を聞いた筋肉だるま達はあっさりと手をださないと言った。

いやにあっさりだな。てっきり殴りかかってくるくらいは覚悟してたのに。

さすがに一般人に暴力はやばいからか?


俺が冒険者は一般人に下手に暴力を奮うのは駄目だから男達は手を引いたと考えた。


「「私達が手を出すのは」」

「えっ」

男達は俺の肩を同時に掴んでくる。

くそ、動けない。そうか俺を殴るのか確かにそれなら二人には手をだしていないことになる。よし、俺を殴るだけで済ますならどんとこい!


「「最初から坊やと決めていたのよ~ん」」

「へ」

ぞわぞわぞわー、体に嫌な感じが蠢いていく。

な、何だ。こいつら、何か熱っぽい目で俺を見てるような。


「やっぱカワイイ顔してるわ~」

「んもう、タイプもタイプよ。手をだしたいくらいだわ」

「えっ、えっ?」

な、何だこのやりとり。これじゃあ、こいつらは俺を狙っていたかの様に聞こえるぞ。ま、まさか……


「あら、なら手をだしましょうよ」

「そうね、なんたって、後ろの二人には触れないもの。いっぱい、手をだしまくりましょう」

やっぱりーーーーー。

うわぁぁ、俺を抱き寄せるな!

やめ、顔を舐めないで。


「ペロペロ、ん~、おいしいわーん」

「早く服も脱がしましょうよ」

一人が俺の顔をなめて、もう一人が服を脱がしにかかる。

「やめ、やめて、ふ、服を脱がさないで」

ああ、ああ、あああああ、俺の貞操がヤバイ。


「たっ、助けて! 誰かたすけてくれーー」

俺はギルド中に全力で叫ぶ。

今の俺は主人公ではなく生娘の様に叫びまくる。主人公? クール系? 何それ。今は、この筋肉だるま達から貞操を守りきるのが一番大事だ。


「はぁー、しょうがないわね」

「えっ」

泣き叫んでいた俺の耳に一ノ瀬の声が届いたと同時に俺が真っ正面から抱きつかれてるからだろう。俺よりも頭一つ分は大きい筋肉だるまの頭に手を乗っけてそのまま顔に飛び膝蹴りをかましていた。ゴキッ、と音がなったことから威力の高さが見てとれる。


「なっ、美しいかお……が」

鼻から血を吹き出しながら後ろに倒れる一人の筋肉だるま。

俺は抱きつきから解放された。

「い、いぢのぜ~」

「な、アナタ! よくも御姉様をやったわね」

仲間をやられたもう一人の筋肉だるまが一ノ瀬に狙いを定めた。

「何? あんたもやるのって……あっ、伊勢! 離しなさい」

恐怖から解放された俺は一ノ瀬に抱きついて足を引っ張っていた。その時スッと、俺と一ノ瀬の前に亜里沙が立つ。

「る~くんを泣かした人にはお仕置きだよ~」

亜里沙がのんびりと喋っているが本当に怒っているのを雰囲気から感じる。


「はっ、御姉様の時のように不意をつかれなければ、あんたのような小娘にやられるもんですか」

「亜里沙も負けないよ~」

シュゥゥという音と共に空気のようなものが渦を巻いて亜里沙の手に集まっていく。

「とりゃあ~」

亜里沙は気の抜けた声で掌のものを前に放つ。

「ふぇ」

放たれたのはのほほんとした声とは全く逆の猛々しい威力を持つ風の弾丸だった。


「な、何なのこれーー」

風の弾丸を食らった筋肉ダルマは扉付近から奥の壁まで一直線にぶっ飛んでいった。


あっという間に筋肉ダルマを倒した二人を見てやっぱり筋肉ダルマは直ぐにやられんだなと、俺は呆然としながら思っていた。


俺と同じように可憐な二人の少女が見せた力にギルド中が静まり返る。


「ふん、これに懲りたら、もう伊勢に近づくな」

「る~くんに手をだしたら、亜里沙も怒るよ」

どーーんと、二人は仁王立ちをする。


かっ、かっこいい。何だこいつら、スゲー物語の主人公達みたいだ。

それに引き換えただ泣き叫ぶだけだった俺といえば悪漢に襲われる町娘がいいところだ。

うん、わかってるよ。俺、ヒモだもんね。

悲しくなんてないさ、はは、ははは。

ああ、神龍。俺は本当に強くなれるのだろうか。


「……あっ、受付に行かなきゃ」

色んな衝撃で当初の目的をすっかり忘れていた。




次回、初めての依頼です。


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