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ボムの助と私  作者: アマタキ
9/11

第9爆「ボムの助とスタジオ」

 その日はWEB配信による番組、「世界の情勢でレッツ・ゴー!」の生収録が行われていた。


 パルテ魔竜王支配域のマリオネンにて。キッズ・スター・スタジオでは皆様お馴染みのパーソナリティであるマロッコ=マドリーノ氏が軽快なトークで客席を沸かせている。煌びやかなセットに囲まれたマロッコ氏は、お決まりの“近況漫談”を行っている最中のようだ。


 話の流れの中で、氏が満員の客席に向かって問う。


「それで、魔竜王は何て言ったと思う?」


“ザワザワ……”


 マロッコ氏の問いに客席がザワついた。誰一人返答する者はなく、皆がゴクリと息を呑んで傾聴した。


「なんと! 魔竜王ったら、“それじゃぁ僕のシャツが縮んでしまうじゃないか~”なんて、慌てた様子で止めに入ったんだよ!」


“ドッ―――!”


 客席が笑いに包まれる。魔竜王とはいえ、乾燥機の前では形無しではないか! と、堪えられず零れたスタッフの声もマイクに入った。


 マロッコ氏のトークは以後も軽妙に続き、客席は存分に温まったことだろう。これは漫談家である彼の芸でもあるわけだが、同時に番組としてその日のコメンテーター、ゲストの登場を助ける意味合いもある。


 毎回、各分野の専門家を呼んで意見を聞くことがこの番組の醍醐味ではあるのだが、所詮彼らはメディアとして素人なので、お膳立てをしておく必要があるのである。この日に控えているゲストもまた、緊張した面持ちでセット裏に控えていることだろう。


“ドワッ――ハハハ!”


「あっははは……いやいや! 骸天魔王のことなんて、どうだっていいんだよ!」


“ドッ――キャハハ!”


「今日も大事なゲストがお待ちでいらっしゃる! ――さぁさ、皆さん。拍手でお迎えください!」


“パチパチパチパチ……!”


 盛大な拍手が打ち鳴らされる。セットのカーテンが開き、門を潜って現れた私とボムの助は拍手の雨あられに打たれた。私の表情から緊張の心境が伺える。しきりにペコペコと頭を下げながら、私はセットの中央に歩み出た。


「ど、どうも皆さん……」


「ンモォ~~~!」


 興奮したボムの助が唸る様に鳴く。数百キロもある図体ながら、数千の観客を前にしてビビってしまったのだろう。仕方がない、ヤツは現在どのような状況なのか、この人間共は何がしたいのかちっとも理解できないのだから。そんなことより、きっとボムの助は今、草を食べたくて仕方がない心境に違いない。


“キャー、カワイイー!”


 客席からボムの助に向けての賛辞が届くが、そんなものでは腹が満たされない。仕方がなく、ボムの助はセットに備え付けられた造花をムシャムシャし始めた。


「あっ、こ、こら! 駄目じゃないか、それは無機物だぞ!」


「いやぁ~~、ご登場から数秒にしてセットを壊したゲストは初めてですよ」


“ドワァッ――ハハハ!”


「・・・・・お、お恥ずかしい……」


「ンンンモゥォ~~」


 飲み込んでは吐き出しての反芻を惜しげもなく披露するボムの助の有様を、さすがはベテラン! パーソナリティのマロッコ氏は華麗なトークでフォローした。とは言え、飼い主の私はあんまりな身内の失態に恥ずかしそうである。


「まま、席に腰かけてください。でないと、セットの床が涎の水たまりになってしまう!」


“ワッ――ハッハハ!”


「・・・・・は、はい……」


「クチャクチャ……ベフッ!」


 さすが、どのような状況・ゲストであれ、番組を進行してきた氏のことだ。スムーズな誘導で私とボムの助は椅子に腰かけることができた。続けて氏は番組の本題に入るべく、話題の軌道修正を行った。


「さてさて――本日博士をご招待したのは、何もうちのセットの味を評していただくためでは御座いません」


“ドゥワッ――ハハハ!”


「・・・はい、存じ上げております」


「ええ、それは良かった。本日はならず者の研究を行っている博士に、ならず者化についての知識を披露していただきたく、こうしてお招きしたのです。――ああ、ちょっとスタッフ。お連れさんに花束でも差し上げてください」


“ギャッ――ハハハ!”


「・・・これはまた、ご迷惑をおかけして……」


 椅子に腰かけていたボムの助が吸引によって周囲のセットを腹に収め始めたため、機転を利かせたパーソナリティがスタッフにエサの用意を指示した。全世界数億数十人が見守る中の体たらくに、思わず私の顔も紅潮してしまっている。


 客席はボムの助の間抜けに夢中となってしまっているが、マロッコ氏は構わず質疑応答を開始した。


「それでは改めまして……まず、ならず者とはどのようなものなのでしょうか?」


「はい。ならず者は、自欲を制する術を失い、他者の物を如何なる手段によっても得ようと発作する略奪者である――と、私は定義しております」


“ドッ――ハハハハハ!!”


 ボムの助が座っていた椅子が壊れた。その衝撃によってステージに穴が開き、落ちたボムの助がもがいている。客席は爆笑の渦に包まれた。


「なるほど……では、ならず者化とはどのような現象なのでしょうか?」


「はい。ならず者化は、人に限らず各個別の存在が自身を失い、ならず者という統一観念へと迎合される不可避の現象であると考えられます」


“ワッ――ハハハハハ!!”


 落下に驚いたボムの助が糞を垂れたらしい。自分のそれに驚いて穴から飛び出したボムの助の姿に、客席は爆笑の渦に包まれた。


「なるほど……そうなると、ならず者化の原因としてはどのようなものが考えられますか?」


「はい。ならず者化は“何かが欲しい”と考えることが原因の1つと思われます。よってその想いを抱く可能性がある限り、ならず者化は起こり得ます」


“キャッ――ハハハハハ!!”


 暇を持て余したボムの助はステージのセットで積木遊びを始めていた。筋力を活かして素材を問わず積み重ねられた光景に、客席は爆笑の渦に包まれた。


「なるほど……つまり、そういった欲望が無ければならず者化はあり得ないと?」


「いいえ。先ほども申し上げたように、“思いを抱く可能性がある限り”ならず者化はあり得るのです。例えその時そういった欲望がなくとも、なんらかの原因でそれが生じる可能性がある存在は全て、ならず者化の脅威から逃れることはできません。現時点で有か無かではなく、先に有となり得るか、がここでの条件となります」


“ウワッ――ハハハハハ!!”


 積み重ねられていた物が崩れ去った。ボムの助は自分で積木の山を崩しておきながら、驚いて逃げだした。ボコボコとステージ装飾がボムの助の頭に落下する有様を見て、客席は爆笑の渦に包まれた。


「なるほど……ということは、あなたのその横にあるものは――もしかして?」


 ガラガラと落下するステージ装飾の中。自由落下状態のパーソナリティが逸早く着地を決めたゲストへと質問を継続する。


「はい、なんでしょう?」


 マロッコ氏の視線の先。ゲストである私はガラクタに埋もれたボムの助を掘り出し、背中を撫でてあげていた。


「それって……いや、きっと間違いない……っ!!」


“ザワザワ……”


 客席がザワついた。パーソナリティの指し示したボムの助に客席の視線が集う。


 口々に、客席から疑問が零れてステージに降り注いでくる。



(なぁ、あれって……)

(ああ、もしかして……)

(ねぇ、そうよね……?)

(ええ、間違いねぇわ……)

(まぁ、あれがそうなの……?)

(そう、あれって伝説の……!)



「――間違いねぇ!! そいつぁ“伝説のマイク”、ボムの助に違いねぇぜぇぇぇ!!!」


 パーソナリティのマロッコ氏が声を張り上げた。


「・・・は? 何ですって?」


 私はさぞ戸惑ったことだろう。いきなりそのような事を問われても、私としては即座に返答することができない。だからこそ、私はボムの助に確認するのである。


「そうなのか、ボムの助?」


「ムッシャムシャムシャ……ンモゥ~~~ッシュン!」


「・・・・・くしゃみしたな」


「いいや、間違いねぇ! へっへへへへ、さぁ、そいつを渡してもらおうかぁ、哀れなゲストさんよぉぉぉ!?!?!?」


 ならず者のパーソナリティは立ち上がって私に掴みかかった。呼応するように客席から「違いねぇ!」「違いねぇ!」と発言が飛び交い、全員が立ち上がってステージへと迫りくる。迫真の迫力に、私はどうにもこうにも困り果てて、ならず者のパーソナリティを投げ捨てた。


「え、え、え―――??? な、なんなんですぅ、あなた達は一体!?」



 ――同時刻。


 全世界に中継されている「世界の情勢でレッツ・ゴー!」は視聴率100%。この日この時、世界の全てがキッズ・スター・スタジオ発の番組に注目していた。世界の空に展開された広大で無数に存在するビジョンには、セットの瓦礫に塗れて尻を舐めるボムの助の姿が映し出されていた。


 人間も魚も魔王も昆虫も、猿も猫も兎も鼠も車も飛行機もティッシュボックスも鉛筆も椅子も法律も法則も炎も稲妻も海も大地も……全てが1点に注視する。


 そして、視聴者達は口々に言うのである――



「ぐえっへへへ、渡せぇ!!」


「ボムの助は俺のものだぁぁぁ!!」


「あちきのモノよ、そいつは力ずくでも奪ってやる!!!」


「うははっはは、どぉこに行く気だぁぁぁ~~!?」


「逃がさんぞぉォォォォォォ!!!!!」



「 ・・・・・ひ、ひぇぇぇぇ~~~~~~! 」



 パックリと開かれたビルの穴。壁を破壊されたスタジオから、無数のならず者達がワラワラと手を伸ばしている。


「ンンモゥォ~~」


「あわわ、恐ろしい! 次々と落下していくぞ……」


 空駆けるボムの助にしがみついている私は、己の身も顧みずにボムの助を求めるならず者の群れに恐怖心を抱いていた。


「待て~~~!」


「いたぞぉ、そこに飛んでいる!!!」


「撃ち落せぇーー!!」


 栄に栄えた高層ビルの窓ガラス越しに、ならず者共が一斉に私とボムの助を指差す。注目される恥ずかしさに耐えきれず、高度を下げた私の足元……。そこにはこれまたワラワラと、都市マリオネン全域から集ったならず者共が跳びはねて手を伸ばしてきた。数千万の掲げられた腕から逃れようと、巨体のボムの助の尻をひっぱたいて「それ、高く上がってくれ!」と願う私。


「ンモッゥ~~」と唸りながらボムの助は再び高度を上げ始めた。そこに、高層ビルの遥か上空より隼の如く獲物を狙う一機が急降下してくる。


<デルタ3、標的を補足した。……ひぃっへへへへ!! キサマを殺してでもボムの助はいただくぜぇぇぇ~~~!?>


 高層ビルの狭間を縫って、射角を得た戦闘機が私目掛けて空対空ミサイルを射出した。いっそ、ボムの助もろとも吹き飛ばすつもりなのだろう。


「み、ミサイルだって!? じょじょじょ、冗談じゃないよっ!?」


 音速を超えてホーミングしてくるミサイルに対して、一個人がどうこうできる術は少ない。私は燃え盛る分身体を発生させてそこに誤射させることで奇しくも凌ぐことができたのだから、不幸中の幸いである。


 諦めることを知らない戦闘機は機銃を掃射して付け狙ってくる。音速を超えて追跡してくる狩人から逃れる術など限られており、私はボムの助の背中を叩いて急かし、光の粒子となって光速のままに惑星の裏側へと身を隠すことで精いっぱいだった。


 ワープによって惑星の反対側に出現した私とボムの助だが、それは大国ガンタラシアの国防省が誇る衛星群にとっては容易い補足対象である。


「げっへへっへ、見える見える、そこにいるのがよぉぉぉ~~~~~っく、解るぜぇぇ??」


 ならず者のナビゲーターが舌なめずりをした。国防省の本拠に備えられた最新鋭のモニタールームでは、既に私とボムの助の姿が映し出されている。移動を終えて安心したのも束の間、ならず者の蜂の群れに襲われて周囲を焼き払う私の姿が、くっきりはっきりと大統領官邸へと配信されている……!


「OK、ソコニイマシタカ……。グェッヘヘヘ、ナラバコレデ死ヌガイイデ~ス!!!」


 ならず者の大統領が高価な机の天板を動かすと、そこにスイッチが現れた。ビニールテープで作られたラベルには「核です、危ない!」としっかり表記されている。ならず者はそのボタンを「ポチッ」と押した。


 大国ガンタラシアの外に設置された射出施設から、轟々とした地響きが鳴り渡る。


 この惑星に在る限り、あらゆるものを射程距離に収めている巨大なミサイルが今、爆炎を残して大空へと飛び上がった。猛然と青空を貫いて飛び上がるそれは、ぐるりと星を半周して破壊対象へと突き進んでいく。とてつもなく太い核ミサイルが接近したことを私が理解した時――もう、状況は手遅れであった。



「―――あっ……!」



 先ほどの戦闘機よりも速いミサイルが目視できたということは、当然として回避する時間など皆無であることを意味している。つまり、ミサイルの頭を掴まえ、反転させて投げ返すことくらいしかできないということ。そんな芸当が普通の人間にできるであろうか? ……絶望的である。


 投げ返されたミサイルは来た道を戻って星を回り、自分が発射された大陸へと戻って行った。外交的に誤魔化されていた実際のところ水素爆弾であったそれの爆発余波が、私の元に僅かな音波となって到達する。


「もし、直撃していたら……ぞぉっ!」


 怖気によって震える。私は先ほどに迫った脅威が直撃した場合、間違いなく衣類を失って変態な有様で空に浮かんでいたであろう事実に怯えていた……。


「ンモォォ~~」


「・・・はぁ、まったく。のん気なものだよな」


 横でムシャムシャと雲を食んでいるボムの助。それに対して私は冷めた視線を送ったが、きっとヤツはまるで気にしないだろう。鈍感なのだ。


 しかし――空はなんて静かなことか。遥か下にある海も穏やかで、あれだけ群がっていたならず者共が全て幻想だったのか、とも思える静寂がここにある。


「良い風だなぁ……故郷を思い出すよ。覚えているかい? ほら、出会ったあの日に河川敷まで一緒に散歩しただろう? あの雰囲気だよ」


「ンモゥゥ~~」


「・・・・・」


 お話にならない。思い出話にでも浸ろうとした私も、僅かにすら風流を解さないボムの助にはお手上げ。溜息を吐いて首を振った。風の音が、ソヨソヨと私の鼓膜を刺激する――。




「―――ん?」


 何か聞こえたのだろうか。私は自分とボムの助、それに雲くらいしかない空を見渡した。




「ああ……え、なんですって? ――はぁ、伝説の? なんですか??」


 耳を澄ませば波の音。常人の100万倍まで聴力を引き上げられる私は、よくその音も聞いてみた。




「そうなのか、ボムの助?」


「ウゥゥンンンモォォゥ……ックシュン!」


「・・・・・くしゃみしたな」


 偉大な空の下に深遠の海。その遥か下に、下に、地下から――この瞬間も流動し続ける膨大な熱量の波長が響いてくる。




「ちょっと、それはいけません。だって私とボムの助には強い絆がありますから」


 いきなりそんなことを言われたって、誰だって当然断るだろう。何処の誰だか知らないが、そのような無礼な物言いで要求するなど、あまりに社会の常識が無さすぎる。


 ただ、困ったことに……。どうやらこの“略奪者”は何がなんでも欲望を叶えるつもりらしい。




「えっ……ぅ、うわわ!?」


「ムシャムシャグゲェップ、ンモォ~~~!」


 それまで穏やかだった空が、突然として騒然とした様相と化す。気流は乱れ、雷は響き、氷点下の大寒波が全てを凍らせにかかる。しかもそれはこの星におけるおおよそ「空」と呼べる領域全てに生じており、何処にワープしたとて逃れることは不可能!


「ひ、ひゃぁっ……こんなものは、たまったものではないよぉ!」


 慌てふためいた私は海中に潜ることで寒波を凌いだ。――しかし、相手は一枚上手。その海中もまた水流が荒れに荒れて至る所に深海まで抉る渦潮が発生。生物の進化が強制的に短期サイクルで繰り返され、怪物と化した生命体が次々と私を襲った。つまり、シロナガスクジラを餌として丸呑みした生物をスナック感覚で食べる怪物を一日に千体は食べないと満足できない肥大化した海底人の大群が、全て私目掛けて襲い掛かってきたのである!


 どうにかパンチやキックで凌いでいるものの……このままだと私は海中の塩分を摂りすぎて健康を害してしまう可能性が考えられる! 海底人の大群を払いのけながら、私はやむなく海上へと飛び出すしかなかった。遥か彼方、大陸の至る所や海中深くからも次々炸裂する火山の爆発音が聞こえてくる。たぶん、全部爆発した。


「く、くそっ……このままでは!」


 私は長閑な天気が好きだ。静かな状況が一番落ち着ける。平穏の中を、ボムの助を枕にスヤスヤ眠るのが夢なのだ(ボムの助が抵抗するのでまだ夢は叶っていない……)。


 それがどうだろう。この現状にある惑星の気候では、とてもそれらを望めないであろう。大体、そこら中風の音や波の音や火山の音や異常気象や地殻変動の音でやかましくってたまらない。スヤスヤ眠れるにしても、それは思い描いていたビジョンとは異なる。


 草原にシートを広げて、ランチバックから取り出したサンドイッチを頬張りながら、それを羨ましそうに見上げてくるボムの助をからかうことは……もう、できない?


「そんなのはっ――嫌だ!!」


 私は悲しくなった。凍てついて氷に覆われた地上に、所々温かいと思いきやそれはマグマ。惑星規模で高速に渦巻く海流……到底理想とは異なる状況に、思わず私が癇癪を起しそうになる――――そんな状況の中。


 私のボムの助が、 “ ンモゥ~~~! ” と叫んだのである。



 内側からの変動が始まり、崩壊を始める惑星。星の軋む音を掻き消すほどに響き渡った、ボムの助の声。私はヤツが何を言っているのか解らないが、何が言いたいのかは理解できた。


「いけるのか、ボム!?」


「ベフッ、ムシャムシャ……」


「ようしっ!!」



 ――私とボムの助には秘密がある。

 それは私達の隠された信頼関係による連携技……動物図鑑ではこれを、“―神獣変化―”と表記していた。



「はああああああああああッ!!!」


「ンンンンモゥォォォォォォ!!」


 バケツと化したボムの助。その中に溢れんばかりに満ちた黄金の塗料を髪に塗りたくる私。湿気を利用して髪を逆立てると、私の周囲に黄金のオーラが目に見えてバチバチとスパークし始めた。それに伴い、風圧によって服は破れて半裸の状態となる。




 ならず者の地球は驚愕している。それは当然の反応で、いきなり目の前で大胆なイメチェンをされたら誰だって変な気持ちになるだろう。


「よぉ、ならず者。おめぇ、中々強かったぜ……」


 大気圏外にまで浮き上がったボムの助と私は、月の上でならず者を指差した。ならず者は風を吹かせ、波を起こしたが……どうやったって何も届かない。しかし、それでも諦めないならず者は己の中央で炸裂する膨大な熱量を一点に集め始めた。


 遥か地底からの熱によって、地球の一部が溶け落ちて巨大な穴が開く。深々と開いたはずの穴だが、ボムの助と私の視界から、その中で繰り返される核融合の輝きが煌々と確認できた。開かれた地球の穴は砲口であり、全てはそこから放たれるのであろう……だが、その程度のこと。


 たったそれだけのエネルギー量ではっ、既に太陽系を末梢できるまでに高められたボムの助と私の手元にある光球への対抗策として――まるで物足りないのであるっ!!!


「次元が巡ったら、また戦ろうぜ。――アバヨ!」




 解き放たれる地球のエネルギー。同時に撃ち放たれるボムの助と私のエネルギー。


 互いの熱量がぶつかり、ほんの一時の均衡こそあったものの。あれよあれよと地球は飲み込まれて、圧倒的に凌駕したボムの助と私のエネルギーに押し出される形で宇宙の彼方へと消えて行った……。




 遠ざかるならず者共の叫びを感じ、安心した私の脳が思い付きのイメージチェンジを思い直させる。しばしの思案の後、私は恥ずかしそうに髪の染料を落とした。バケツとなっていたボムの助はすっかり元の様子で、「……派手にやるじゃねぇか」と肩を竦めている。


「まったく、死ぬかと思ったよ……」


「へっ、相変わらず軟弱な奴だ。俺がいなけりゃ、今頃お陀仏だろうぜ?」


 ボムの助の言う通りだろう。私はもし、隣に彼がいてくれなかったら……と想像して身震いした。


 というか宇宙なので、そうでなくとも身震いしそうだ。私は慌てて自らを火炎の世界と化して暖をとる。


「おう、ところで……」


「ん、なんだい、ボムの助?」


「一仕事終えたら腹が減ったぜ。何処か食いにいかねぇか?」


「そうだなぁ……じゃ、スパゲッティなんてどうだろう?」


「俺は小麦アレルギーなんだよなぁ……」


「おっと、すまない。そうだったね」


 おいおい、しっかりしてくれよ――と、ボムの助に小突かれながら。私はうっかりを恥じ、苦笑いで誤魔化していた。ところで、彼らは忘れているのだろうか? 肝心のスパゲッティ屋はもろもろと共に今や彼方に飛んでいった事を……。


 それから間もなくして。状況に気が付いた彼らは慌てて宇宙を駆けて行った。



 やれやれ。ボムの助がしっかりサポートしなければ、やっぱり私は頼りない。

 どうやらこれからも、ボムの助には助けられることになりそうである………。





~ボムの助とスタジオ~ END



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