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王子と孤児の少年 5

「……というわけだ」


グレイの説教の合間に、今までの出来事を説明する俺。リュートはグレイが一睨みしたら俺の後ろに隠れてしまった。いや、本当は逃げ出そうとしたところを俺が捕まえたんだけどな。というか、報酬ももらわずに逃げようとするなよ。逃げようとしたときに手付に渡した宝石も俺の手に押し付けてきたし。


「へえ、事情はだいたい分かったけどね」


いやいやいや、笑顔なのに怖いですよ、グレイさん。リュートもこんな猛獣もはだしで逃げだしそうなグレイの前に俺一人残して逃げようだなんて、そんなことは許さないよ?説教を受けるときは一緒に頼む。一人よりは二人の方がましだよね!たぶん。まあ、そうはいても俺たちは被害者なわけだし、グレイの説教もそこまで長くならないに違いない。


とりあえず、グレイには騎士団に連絡を取ってもらって、屋敷にいまだ転がっているであろう『業者』を捕縛する手配をしてもらう。迅速に動いてあっという間に手配を終えたグレイは、やはり優秀なのだろう。そのうえリュートから家族の場所や一家の名前などお聞きだし、自分の屋敷に連れてくるように手配も済ませてしまったようだ。


普段のヘタレ具合からは想像もできない優秀さである。というか、これが本来の彼なのだが。


「さて手配も終えたことだし、帰るぞ、アル」


「そうだな」


今の彼には逆らわないほうがいいだろう。長年の付き合いで彼の怒り具合がよくわかる俺は素直にうなずく。俺としては通信用魔道具の開発というアイデアも得たし、携帯用の魔道具も改良しないといけないしとやること盛りだくさんで、しかも露店などの店をのぞくのは好きだが、人込みは苦手だから帰ることには全く異論がない。


「って、おい、待てよ」


しかし、リュートは違ったようだ。


「あんた俺の家族に何したんだ」


引きずられそうになったところを足を踏ん張り、グレイをにらみつける。


「なに、とは?お前はあるを助けてくれた。その見返りとして仕事と当座の生活費を要求したと聞いたが?」


「あ、ああ」


淡々とした口調のグレイに気おされつつうなずく。


「なら黙ってついて来い。仕事を紹介してやる。家も提供しよう」


住み込みでの仕事だから家族も探させて先に向かわせているのだというぐれに、不信感のこもった視線を向けるリュート。とはいえ今ここで離れてもすでに家族は抑えられているし、何の得もないとついてくることにしたようだ。


だがしかし。今度は俺が物申す番である。


「おい、待てよ。こいつは俺のものだぞ?」


既に俺の中ではリュートを専属の従者にすると決めている。今更グレイに取られてなるものか。


「……確かにい加減アルにも専属の従者は必要だから、それには異論はない。私も助かるしな。お前が見込んだのなら反対はしない。だが、ひと月は俺のところで預からせてもらう。専属にするならなおさら教育が必要だからな」


「そうか?仕方ないな」


確かにリュートはスラム育ちで額もなければマナーもなっていない。俺の従者にするならある程度は必要だろうから仕方がない。


「君の家族にも良い仕事を紹介しよう。ちょうど我が家でも人手が不足していてね」


グレイのところはもともとギリギリの人数しか雇っていないから、一人やめただけでもなかなかの痛手なのだろう。先日二人やめたといっていたから、人手不足というのは本当なのだと思う。とはいえ、変な人物をホイホイ雇うわけにはいかないし、リュートの家族のことは渡りに船、といったところなのだろう。スラム育ち、とはいえ、俺が認めた人物である、というのがグレイにとっては重要なことらしかった。これでも人を見る目はあるし、グレイもそこのところは認めてくれているのである。


「君にはあるの従者という仕事を、そして君の家族には我が家の使用人としての仕事を提供しよう。住居としては使用人等の家族部屋があいているからさしあたってはそこを使うといい。手狭なようなら言ってくれれば善処しよう」


「え、ええ?!良いのかよ、俺も家族もスラム街の住人だし、母さんは元娼婦だぜ」


「だから?」


「だからって……」


小首をかしげて聞き返したグレイに、絶句するリュート。まあ、お貴族様がスラムの住人なんて下働きでも雇うなんてありえないからなあ。


「アルが君を信じて従者に望んだ。だから何の問題もない」


「そういうもんか?」


腑に落ちない、と言いたげなリュートは、それでも腹をくくることにしたらしい。それ以上は何も言うことはなかった。俺にもいまいち謎な理由ではあるが、グレイがそれでいというのだからあえて異論をはさむことはないだろう。




その後、ひとまずグレイの屋敷へと向かう。


リュートの家族は一足先にグレイの家の家令が連れ帰っているはずだ。


「……なんだ、これ」


まるでお城のように豪華だ、とリュートがぽかんと口を開けて屋敷を見上げている。それも当然といえるだろう。何せここはウィスベルク筆頭公爵家なのだ。どの貴族の屋敷よりも大きく立派なのである。


「何をしている、さっさと入れ」


グレイに促されて、リュートと俺は屋敷へ足を踏み入れた。玄関のわきで待ち構えていた家令は、にこりともせずにグレイに一礼すると、何事かを耳打ちし、リュートと俺に頭を下げる。


「リュート、彼は我が家の家令、シリールだ。今から彼が君の住み込む部屋と家族のもとへと案内する。仕事や給金なども彼から聞いてくれ」


「え、あ、ああ」


リュートはすでに驚きすぎて、返事もままならないようだ。ふらふらとシリールの後へついていく。


「さて、アルは城へ帰るぞ。これ以上はごまかしがきかない。下手をすれば街中大捜索されかねない」


「そ、そうだな」


確かにそろそろ日も落ちそうだし、これ以上留守にするのはまずい。仮にも第一王子。城のどこにもいなければ騒ぎになるのは間違いないだろう。そうすれば今後部屋をぬけ出しにくくなる。


グレイとともに急いで城へ帰ったときにはすでに日も落ちかけていた。さっさといつもの王子風衣装に着替えて部屋で落ち着いていると、侍従長が夕飯に呼びに来た。この国の王族はよほどのことがない限り、夕食は家族でテーブルを囲むことになっているのだ。いつものように目線を宙にうろうろさまよわせながら、侍従長が今晩お夕食の内容を告げに来る。彼も徐館長も俺が生まれる前から城勤めの仕事人間で、非常に優秀なのだが、なぜか俺とは目を合わせてくれないのだ。それにいつだって顔が赤い。赤面症?でも俺意外には普通なんだよなあ。


「グレイは帰らないのか?」


「ああ、この後用があるんだ。近衛の控室で待たせてもらうよ」


用って何だ?とか思った俺はやっぱりバカでした。


夕食後、部屋にやってきたグレイによって延々と説教を食らった俺なのだった。


俺、王子だよね?一応今のところ次期国王だよね?忘れがちだけどそうだよね?なんで夜通し説教食らってるのかな、おかしくないか?





後日、例の『業者』と黒幕の男爵は家族もろとも処刑されました。もちろん奴隷売買組織の全容を洗い出して、さらわれて売られた子供たちも出来る限り買い戻した。


宰相が目をつりあがらせてひたすら頑張った結果、ありえない速度でのスピード解決だったらしい。その宰相の怒りは、各騎士団団長たちを青ざめさせ、震え上がらせるほどだったらしい。とある騎士団長などは「宰相の怒りを買うくらいなら、竜の谷へ単身飛び込んだ方がまだましだ」とぽつりと漏らしたとかなんとか。どんだけよ。


俺としては、グレイの説教は食らったものの、非常に役に立つ専属従者を一人と、通信用魔道具を作成するという画期的なアイデアを得たわけで、非常に有意義な外出だったといえるだろう。


うん、満足、満足。








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