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王子と孤児の少年 3

少年の名はリュートといった。


彼が口約束では信用がならない、といったので、ささっと得意(?)の縄抜けを披露すると、耳に着けていたイヤリングを契約のあかしとして渡しておいた。売れば一千万クローネはする高価なものだ。もちろんそう簡単に売りさばけるような品物でもないが、契約の手付としては十分だろう。無事、契約が履行されれば返してもらうしな。


ともあれ、詳しく話を聞くと、どうやら大した拾いものだったようだ。


リュート少年は何と二つも【ギフト】を所持していたのだ。それもどちらもかなり珍しいユニークな【ギフト】である。いつかは【ギフト】の研究もしてみたいものである。


ともあれ、彼の持っている【ギフト】は【看破】と【盗聴】。


【看破】はかなり優れた【ギフト】であり、設置してある罠を見破ったり、植物や物品の情報を読み取るだけでなく、なんと他人の所持している【ギフト】まで見破ることができるらしい。ということは俺の持っている【ギフト】もバレバレってこと?


「いや、あんたの【ギフト】は分からない。【ギフト】にもランクがあるようでな。読み取れる【ギフト】と読み取れない【ギフト】があるんだ」


リュート少年の言葉を聞いて一安心。やっぱりバレると何かと厄介だからな!


もう一つの【盗聴】もまた恐ろしい【ギフト】である。離れたところで交わされる会話が聞き取れるうえに、通常は半径百メートルほどの範囲でなのだが、条件さえ合えば、十キロ離れた場所の会話も聞き取れることもあるというから驚きだ。


この二つの【ギフト】を使えば、うまく相手をやり過ごして外に出会られる、とリュートは言う。彼もまた縄抜けができるようで、あっさり自分の縄を外していたし。


この二つの【ギフト】を使用すれば、良い職につけたのではないだろうか。何せ二つも【ギフト】を持っているのはそれだけで稀なのだから。と思ったが、どうやら、スラム街出身ということと、【ギフト】の内容に問題があり、犯罪組織に引き入れられかけたり、だまされて奴隷にされかけたりとろくな目に合わなかったらしい。確かに犯罪にはもってこいの【ギフト】だな!それにしても世の中にはろくでもない大人が多すぎるけどな。


それでも一通りのことは知っておこうと、彼の生い立ちをある程度聞いておくことにした。それで人さらいの仲間かどうかを判断しよう。割と俺の直感って当たるんだよな。


リュートには、体を壊して寝付いている元娼婦の母親と、双子の妹、それに弟二人がいるようで、なんとか彼の稼ぎで家族を養わないといけないんだとか。だが、彼と手間だ十三歳という幼さ。俺みたいに環境に恵まれていればともかく、スラム街に住んでいる十三歳の少年では、いくら【ギフト】持ちでも大勢の家族を養うなんて不可能に近い。それでも今までは体を壊している母親が何とか日々仕事をし、リュートの日やといの仕事と弟妹達がそこらの商店からくすねてくる食糧で何とかなっていたのだが、それも限界だったようだ。とうとう明日にお食べ物もそこを尽き、さらわれた時にはもう三日も何も食べていなかったのだとか。


それでも彼はあきらめることなく、これを逆に好機ととらえ、同じように攫われてきた金持ちの子どもに目をつけ、自分の【ギフト】を売りにして金を稼ごうというのだから何ともたくましい。


ここまでギリギリでありながら、有用な【ギフト】も持っていながらそれでも最後の一線は守り通し、犯罪組織には加わることなく、せいぜいが万引き程度でそれ以外の犯罪はすることなく過ごしてきたのは馬鹿正直というか、なんというか。しかも万引きだって傷んでいる果物や野菜を店主たちに目こぼしされながらくすねていたようだし。だからこそ、スラム街の住人たちも自分たちの生活もギリギリだというのに、何かと親子を助けてくれたのだという。俺も、こういうやつは嫌いじゃない。なかなか見どころのある少年である。その諦めないまっすぐな瞳はグレイによく似ていると思うのだ。


ともあれ、彼は人さらいではなさそうだ。まあ、こうも正直に所持している【ギフト】を言ってしまうあたり、犯罪者には向かないな。


「よくわかった。ではここから出るとしようか」


脱出に成功したら、騎士団に通報して全員捕まえてしまわなくては。このままでは警備も厳しくなる一方だし、こっそりいろいろ計画してもこのままでは動きにくくて仕方がない。


「話が早くて助かる。さすがに俺も限界だからな」


ちらっと貴族の少女たちを見て舌打ちするリュート。確かに彼女たちがさくさく契約に応じていたら今頃は金と職が手に入って彼もほくほく顔で家族のもとに帰れたかもしれない。だがその前に人さらいに見つかる、とか貴族の父親にこっそり殺されてしまうという可能性もあるわけで、俺が相手でよかったともうよ?俺はそんなひどいこと、しないからな。しかし少女たちはうるさいし、脱出の邪魔になるのでとりあえず手持ちの睡眠誘導魔道具を使って眠らせておく。すぐに騎士団に助け出されるだろうし、問題ない。たぶん。だからそんな尊敬するような目で見るのはやめてくれないかな、リュート少年よ。なに、そのお前やるな、みたいな。


気を取り直して。


「一応、俺が確認したところによると、この屋敷にいるのは六人だ。そのうちの三人は【ギフト】を持っていないが、魔法が使える。二人は火炎系統の魔法、一人は水魔法のようだな。残りは魔法も使えるし、【ギフト】も持っている。スキンヘッドの男は【透明化】【気配消失】のダブル。紅い髪の女は【中級鑑定】長い黒髪の男は【魔力威力増(小)】【魔力増(小)】【魔法合成】のトリプル」


リュートの話を聞いて、正直驚いた。ダブルにトリプルとか。


【ギフト】は一つであればそこまで珍しくないが、二つも持っているとなるとかなり珍しく、三つはそうそういない。二つ持っているものは俗にダブル、三つもちはトリプルと言われ、たいていどんな職業についても歓迎される。もちろん、持っている【ギフト】と相性のいい職業、というのが一番ではあるが。


しかも持っている【ギフト】は有用なものばかり。なのに犯罪にしか使わないなんてもったいなさすぎる。宝の持ち腐れとはまさにこのことであろう。しかも【魔法合成】とかこれもユニークスキルであり、めったにあるものではない。条件はかなり厳しいと聞くが、それでも使い勝手がよく、魔法師ギルドは喉から手が出るほどほしがる【ギフト】なのは間違いないだろう。頑張ったら【賢者】の称号すら手に入れられたかもしれないのに、なぜ闇の奴隷商。本当にもったいない。


ともあれ、【ギフト】から察するにスキンヘッドの男とやらが誘拐を担当しているのは間違いない。あの人ごみの蚊化や、王宮内での近衛騎士に気づかれない手際の良さから、おそらく【透明化】【気配消失】の【ギフト】は他者にもかけられるのだろう。もちろんそれなりに条件はあるのだろうが。


だいたい、効力が高く、有用な【ギフト】ほど発動させるには条件付けが厳しいものだ。無条件で高い能力を使えるほど、世の中は甘くはない。もちろん俺の【ギフト】にも発動条件が設定されている。


そろそろ行動するかと、念のため眠らせた少女たちを見るが、いまだよく眠っている。ついでに何かあったときの為に魔道具を使って簡易結界を敷いておく。さすがにうっかり殺されでもしたら寝覚めが悪い。魔道具を取り出したときはリュートにかなり驚かれたが。


それはそうだろう。魔法が使えるのは基本的には十四歳から通う王立学院魔法部に入学してから。貴族だけでなく、才能さえあれば一般市民も無料で通える学院であるからして、才能や魔力があって学院に通わないものはまずいない。逆に言えば、俺みたいな子供が魔法を使えることはほとんどない。魔道具もしかり。魔道具は基本的には十五歳以下には販売禁止である。もっとも貴族や王族は幼いころから魔道具の所有を認められているし、使い方もみっちり教え込まれるのだが。誘拐などの危険から身を守るため、という理由で。俺も教師には二週間で逃げられたが、独学で図書室の本を読んで勉強したのだ!そもそも魔道具には興味あったからな。おかげで今はいっぱしの魔道具職人である。


ともあれ、いつまでもここにいても仕方がないので、俺はフードを採ることなくリュートを連れて部屋を出る。もちろん部屋の外に誰もいないことはリュートの【盗聴】を使って確認済みだ。なんとこの【ギフト】、ある程度なら気配も察知できるというから驚きだ。そして思ったよりも便利。


ちなみに俺のフード付きマントは、ある程度なら気配を消してくれるし、魔法も初級程度なら防げる優れもの。魔改造したかいがあったというものだ。顔が見えたってそうそう王族の顔なんて知っているものはいないだろうとは思うが、見られないほうがいいに決まっている。魔道具もわんさか隠してあるし、とられなくて本当に良かったよ。子供だと思ってなめてると痛い目見ることになるのさ。


部屋を出ると、老があるのは当然として壁際に高そうなつぼや絵画が飾ってある。やはり貴族課題商人の家か別宅、という可能性が高いな。黒幕まではたどり着けないかもしれない。面倒なことにならなければいいが。


こんな奴らのせいで俺の大事な研究時間や魔道具作成時間が削られたらどうしてくれようか。普段からがんばって時間を捻出しているのであって決して暇なわけではないんだが。王子って結構忙しいのよ?教師がみんなやめてしまったせいで時間的には他の王子王女よりは余裕があるけどさ。……言っててちょっと悲しくなってきた。







ところ変わって。


とある部屋で六人の男女がこそこそ密談している……のを俺たちは盗み聞きしていた。しかものぞき見もしている。


こんなこともあろうかと(?)作っておいた携帯用魔道具【遠視くん六号】とリュートの【ギフト】である【盗聴】を組み合わせれば屋敷の中は丸裸も同然である。ちなみに【遠視くん】が六号なのはお察しの通り。……【ギフト】があったって失敗しないわけではなのだよ。


それはそれとして、せっかくだからと渋るリュートを説得して、俺たちは少し離れた部屋で人さらいたちの様子を見ることにしたのだが。


「こいつら、アホだな」


会話を聞いていた俺の容赦ない一言に、リュートが肩をすくめる。


「こんなもんだろ?なまじ騎士団の裏をかいてうまく事が運んでるから余計に気も大きくなってるんだろうさ」


「だからと言って貴族の子どもを集団で攫おうとするか?」


ただでさえ、貴族の子どもが攫われて騎士団も躍起になって捜索しているのだ。これ以上貴族の子弟が誘拐されようモノなら、それも集団で攫われようモノなら間違いなく今度は王国諜報部が出てくる。彼らが出てきたら、逃げるのは難しいだろう。今ですら諜報部を動かすかどうか検討中なのだから。騎士団が嫌がっていてなかなか動かす、という決断を父王もくだせないでいるが、ある程度は情報を集めさせているのは知っている。ぶっちゃけ、いま俺が通報しなくてもこいつらが捕まるのは時間の問題だろう。彼らはやりすぎたのだ。完全に引き際を見誤っている。


彼らは何と、七日後の貴族の子どもたちが集まるパーティーで、一気に攫ってから国外逃亡をしようというのだ。もうだいぶ稼いだだろうに、欲をかくとろくなことはないと思うけどな。どっちにしても今日俺をさらった時点でこいつらの行き先は牢獄か処刑台に決定だが。


しかし。


「七日後っていうと王子主催の狩りパーティーか」


この国では、王族、貴族の子弟はある程度の年齢になると『メイズ』と呼ばれる迷宮に行き、魔素狩りをしなくてはならない、という決まりがある。魔素がないと魔法は使えないし魔道具も作れない。とはいえ、魔素はそのあたりにも微量ながら漂っているし、そう特殊なものではない。通常はそれを特殊な保存容器に集めて保存しておき、日常生活において魔道具を使うときに使うのだ。もちろん魔道具屋でも魔法屋でも売っているし。まとまって必要な時は買うのが一般的だ。少々高価ではあるが。まとまった魔素は『メイズ』の魔素だまりで手に入れるか、魔物を狩って手に入れるものだから。その辺に漂っている魔素を溜めるのでは、保存瓶一つ一杯にするのに二か月はかかるからな!


だがもちろん今度の狩りパーティーでは魔物を狩ったりはしない。せいぜい『メイズ』の一番浅いところにある魔素だまりまで行って保存瓶に溜める程度だ。魔物にも出会わぬよう、近衛騎士団が先行して狩っているはずだし。


当然だろう。将来国の中枢を担うであろう第二王子や貴族の子弟たちに何かあっては大変だからな。このパーティーはあくまでも十歳を無事に迎えた王子たちのちょっとしたイベント。王族と貴族の子どもたちの親睦を兼ねた顔合わせ兼交流会、といったところか。……一応主催は第一王子である俺だけどな?俺参加するけどな?絶対一人遠巻きになる気がするから行きたくはない。面倒だし。まあ、これも仕事だから行くけどな。


というか、あのパーティーが狙われるとか冗談じゃない!いつか俺の代わりの国王になってくれる(予定)の大事な弟が行くんだぞ。彼の将来のために渋るグレイをつき合わせて、完璧な人選、完璧なパーティーを計画したというのに。姉弟妹の中で最も優秀な彼に何かあったら俺のバラ色な将来計画が夢のまた夢になるじゃないか。


心の中で騎士団に通報するよりも今ここで犯人たちを半殺し決定にした俺の耳に、さらなる会話が聞こえてきた。


『ところで、今日最後にさらってきたあの子供、どうします』


『ああ、アレか。あの顔はな』


『あれは犯罪よね。直視できない顔とかありえないわ。思わずフードかけなおしちゃったもの』


『ないっすねえ。あのフード、俺ももうとる勇気ないっす』


『さすがの俺も驚いたわ。あれじゃ売れねえなあ』


などなど。


「……あんた、どんだけ不細工なんだ」


若干引き気味に聞いてきたリュートを一睨みし、心の中で犯人たちの処遇を半殺しから抹殺に決定した瞬間だった。

































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