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王子と孤児の少年 2

言い訳をしてもかまわないだろうか。


確かに油断はしていたが、だからと言ってそこらのゴロツキに早々つかまりはしない。そもそも、よくよく考えれば、いくら俺が浮かれていたとはいえそう簡単にグレイとはぐれること自体がおかしいのだ。グレイが俺を見失うなんてこと、まずありえないのだから。


俺を捕らえたこいつらは、おそらく『業者』だ。見目のいい子供をさらって、他国のろくでもない貴族や金持ちに売り渡す。その際隷属の魔道具をつけられるので、子どもたちは逃げ出すこともかなわない。


もっとも、奴隷制度自体はあるが、奴隷にも制限もあるし、規制もある。今回のようなことは明らかな犯罪で、許されることではないし、もちろん、さらわれた子供たちはそれが証明さえできれば無条件で解放され、家族のもとに返される。だが、一度さらわれて売られてしまえば、取り戻すのは至難の業だ。


二年ほど前からスラム街だけでなく、上流階級の子どももさらわれているため、かなり問題になっている。毎日のように警邏隊が巡回をしているし、騎士団も必死になって犯人を探している。その犯人たちが、騎士団や王宮内で『業者』と呼ばれているのだ。かなり慎重かつ巧妙に動いているらしく、被害は大きいのに『業者』の手掛かりは一切つかめないときている。


先日、護身用魔道具をいくつも持たされていたスヴェント伯爵の三男がさらわれたので、さらに問題が大きくなった。しかもその三男は父親について王宮についてきていた時にさらわれているのである。父親の用事が済むまで、王宮の中庭を見るため案内兼護衛の近衛騎士が一人ついていたのだが、気が付くと姿が見えなくなっていたらしい。騎士の言葉に嘘はなかったし、彼自身相当動揺していた。


だが、それは本来ありえないことなのだ。場所が王宮の中庭、加えて騎士の中でも最も強い近衛騎士に全く気配すら悟らせない、子どもの持つ魔道具も何ら機能しない。そしてあっさりさらわれる。以上のことから『業者』は何らかの特別な【ギフト】を所持していると思われる。


【ギフト】とは神に与えられた特別な能力のことだ。十人に一人くらいの割合で何らかの【ギフト】を所持しているといわれている。【ギフト】二つを持っているのはだいたい二千人に一人、三つとなるとめったにいない。【ギフト】にはたくさんの種類がある。確認されているだけでも二千、未確認の【ギフト】もあわせるとその倍はあるといわれている。


ちなみに俺も【ギフト】を持っている。ただし、誰にも言ったことはない。言えば騒ぎになることは分かり切っているし、夢の研究三昧の生活が確実に遠のくからだ。俺が持っているのは、【魔道具補正】【運命干渉】【真実の瞳】である。


魔道具補正はその名の通り、魔道具に関することすべてに上方修正が聞く。例えば、魔道具を作れば、新開発のものでも失敗は少なく、魔道具使用時には威力が倍になるほどだ。


運命干渉は正直よくわからない。聞いたこともない【ギフト】である。あってなんか意味があるのだろうか。


真実の瞳は、上級鑑定よりもさらに上位の鑑定能力のようだ。物品だけでなく、魔法にも適用されるという驚きの【ギフト】である。魔法は、発動直前ではあるが、これから発せられる魔法の効果や範囲までわかるうえ、ものによってはキャンセル方法すらもわかる。魔方陣の解析にも効果を発揮する。魔導師にとっては天敵ともいえる【ギフト】だろう。


まあ、何が言いたいのかというと、俺の持っている【ギフト】は魔道具の開発、制作、発見、解析、それに古代遺跡の研究や魔法の解析に非常にお役立ち名【ギフト】であるということだ。王位を継ぐにあたってはたいして役に立たないけどな!一個意味が分からない【ギフト】もあるが、とにかく、これでも俺はとっても珍しい存在なんだ。何せユニークな【ギフト】を持っているんだからね。世界広しといえどもそうはいないよ。誰にも言う気はないけどね!


というわけで、話がずれたが決して俺が油断していたわけではない、はずだ。おそらくグレイが俺を見失ったとき、俺がグレイからはぐれた時にはすでに何らかの【ギフト】が使われていたのだろう。魔道具は魔法の波動がわかるが、【ギフト】はモノによっては全く魔法の波動が感じられないものもある。俺の【ギフト】もそのたぐいだしね。


にしても、いくら有用な【ギフト】があって自分たちの行為に自信があったにせよ、俺のフード付きマントもそのままとかどうなのか。魔道具も隠しに入ったままだし、絶対身体検査もしてないよね。誘拐やらかす割には随分とずさんだな。まあ、子どもだから縄でくくって転がしとけばいいだろうってところか。なめられたものだな。


改めてあたりを見回してみると、俺と同じように縄で縛られた子供が三人。


二人は双子のようで、そっくりな顔立ちの少女たち。二人とも身なりから察するに下級貴族の娘だろう。同じくらいの歳なのに、俺が見たことがないということは、まだ王宮にあいさつに来ていないからだろう。まあ、年齢的に微妙なところだよな。社交界デビューには早すぎるし。元は愛らしいであろう顔立ちは、今は涙にぬれ、恐怖をその面に張り付かせており、ボロボロだ。しかも何日かまともな食事は与えられていないのだろう。頬も少々こけて、やつれている。


もう一人は、かなりみすぼらしい身なりだ。かろうじて服と判別できる、というくらいの布をまとっており、その体は一目見てまともな食事をしていないと分かる。おそらく攫われる前からだろう。歳の頃は俺と同じくらいに思えるが、もしかしたらグレイと同じくらいかもしれない。体は小さくてもその瞳はぎらぎらとしており、何一つあきらめてはいない、と思える。絶望と恐怖に彩られている貴族の少女たちとは対照的な表情である。


部屋は意外に綺麗で、廃屋の一室、という感じではない。どちらかというと貴族の屋敷のような趣がある。クリーム色の壁にはシミ一つ無い。カーテンも高級そうな布が使われている。だが、調度品は一つもない。かなり厚めのカーテンのお陰で外は全く見えず、ここがどこなのかは見当もつかない。


お腹の隙具合からして攫われてからそうそう時間は立ってないと思うのだが、どうだろう。あまり時間をかけすぎるとさすがにまずい。これでも第一王子だからね!貴族の子どもがさらわれた時以上の騒ぎになるのは間違いない。早いところ解決して帰らないと。


近くに人さらいの気配はないようだけど、そもそも俺は索敵は得意じゃないんだ。手持ちの魔道具は攻撃するか、捕らえるか、といったものばかりで脱出にはあまり役立たない。こんなことならもっと転移系とか持ってきておけばよかった。そもそも人さらいの持っている【ギフト】が何かもわからないからうかつには動けないし。さて、どうしようかな?


考え込んでいた俺はふと顔を上げた。と、少年とばっちり目が合った。


「ここから出してやろうか」


唐突に少年が話しかけてきたと思ったら、思わぬ言葉。


「出られるのか?」


「ああ」


あっさりうなずく。しかし出られるならなぜ、彼はここに捕まったままなのだろう。どこまで信用できるかは怪しいところだ。最悪人さらいの仲間ということも考えられるのだから。ここは慎重に行動しなくてはならない。


「外に出られるならなぜおまえはここにいるんだ?それにその少女たちも。逃がしてあげればよかったのではないか?」


俺の言葉に、少女たちが顔を上げて少年をにらむ。どうやらすでに話はしたようだ。だが、少女たちの瞳には不信感がありありとにじみ出ている。ここから出られるなら少女たちにとっても願ったりなはずなのに、一体どういうことなのだろうか。


「あんた、小さいくせになかなかきついな。その平坦な話し方は癖なのか?まあいい。いいか、その小さな頭でよく考えてくれよ?俺は慈善事業がしたいんじゃないんだ。これはあくまでビジネスだ」


平坦とは失礼な。これでも精いっぱいの驚きと不信を表しているのだがな。ともあれ、ビジネスとはなかなかどうして、面白いことを言う。がぜん、このみすぼらしい少年に興味がわいてきた。


「ビジネスね」


「あんた、金持ちのお坊ちゃんだろ」


「まあね。なんでわかった」


「服装は一見普通っぽいが、布が上等で一般庶民はそんな上質な布で仕立てた服は着たりしない。それにしぐさも貴族っぽいからな」


なかなかどうして、良い観察眼をしている。フード付きマントに浸かってある布はそこらに普通に売っている布だから、マントの隙間から見えた服やズボン、靴で判断したのだろうが、普通はそこまではなかなか見ないからな。これはうまくすれば使い物になるかもしれない。


「それで、俺が金持ちだとここから出られるのか?」


それならあの少女たちも条件は変わらないと思うが。彼女たちもおそらく家には金があるのだろうと思わせる、仕立ての良いドレスを着ているのだから。


そういうと、少年はちらりと少女たちを見て首を振った。


「あいつらは話にならない。俺のことなんざごみにしか見えてないんだろうさ。契約するどころか、出せるなら出せと、その代わり役人には言わないでおいてやると喚きやがったんだぞ」


悪いこともしていないのに、むしろここから脱出させる代わりに正当な報酬を貰いたいといっただけなのに、上から目線で、むしろ役人に突き出さないことを感謝しろと高飛車に言われて気分が悪い、と吐き捨てる少年。うん、まあ、わからなくもない。きっと少女たちには少年も人さらいの仲間に見えたのだろう。攫っておいて、脱出させてやるから金を払えと言われるのは納得がいかない、と思ったのかもしれない。それにたいていの貴族はそうだが、彼らは貴族以外の人々を見下す傾向にあり、さらにスラム街の住人は人間とすら思っていないふしがある。なんとも困ったことだ。


「何よ!どうせあんたも人さらいの仲間なんでしょ?!父様からお金をむしり取りたいだけのくせに、偉そうに言わないでよ!」


「うるさい。俺は人さらいの仲間じゃなく、被害者だ。その耳障りなキンキン声でわめくのはやめろ」


確かに耳に響く声である。もう一人の少女は帰りたい、と泣き出してしまった。うん、うるさい。


「なるほどね。だったら俺もその契約内容を聞かせてもらおうか。時間がないので手短に頼む」


この際、ここから出られる糸口がつかめるなら、少年の言葉に乗ってみるのも悪くない。いざとなれば手持ちの魔道具でこのアジトごと吹き飛ばそう。それがいい。むしろ今すぐ吹き飛ばしてしまってもいいような気がしてきた。


「話が早くていいな。小さい癖にやるじゃないか。俺がここから脱出させてやる代わりに要求することは二つ。ここから出たらまとまった金を用意することと、俺に定職を斡旋すること」


「まとまった金とはいくらだ?」


「百万クローネ」


たいして高額でもない。俺からすればポケットマネーで払える金額だ。


「仕事は何でもいいのか?」


「ああ。きちんと給料さえもらえるなら選り好みはしないぜ」


少し考えたが、そこまで難しい条件ではないし、ここから今すぐに出られるならかなりいい契約といえるだろう。ちょうどいい仕事もあるしな!


「ふむ、では契約といこう。細かい脱出の方法を教えてもらえるかな?」


ごそごそと動いて少年の近くまで行くと、俺は契約に同意したとうなずいたのだった。




















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