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王子と孤児の少年 1

俺の名前はアルフレッド・リュッセライト。先日十歳になったばかりだ。リュッセライト王国の第一王子であり、十歳になったときに次期国王として、国内外にお披露目をしたのだ。とは言うものの、亡くなった母親の身分は低いし、母親の実家には財力も権力もない。


さらにはっきり言うと、義母である王妃様には嫌われているし、王妃様や他の側室の子供である弟妹にも嫌われている。頼みの父親である国王陛下にも恐らく嫌われている。ちなみに、有力貴族の大半にも嫌われている。近衛騎士や、侍従や女官にも……もしかしなくても周り中から嫌われている。うん、さすがにちょっとへこむな。


まあ、何が言いたいかというと、俺が王位継承者としてお披露目をされたのは、ひとえに兄弟姉妹のなかで一番年上だからだ。ちなみに、俺と半年しか歳の違わない腹違いの弟も、第二王位継承者として、半年あとにお披露目をされた。この世界、子供は十歳まで生きられないことが多く、それは王族とて例外ではない。だからこそ、十歳になったら国内外にお披露目をするのがわが国の王族の慣習なのだ。


あとは、この国では母親の身分や男女の違いは問題にされず、長子が王位を継ぐものと決まっているのだ。能力が全くないとか、ものすごく愚鈍であればお披露目前に殺されるか、幽閉されるかなんだが、生憎俺は普通だった。


母譲りの金の髪に、父譲りの蒼い瞳。顔の造りは悪くはないと思う。だが、侍従が長続きせず一月毎にかわるのと、誰も彼もが俺の顔を見ると倒れるか、俯いてしまうか、顔を背けるので、いまいち自信がない。鏡は嫌いなのでほとんど見ないしなあ。


頭の出来も悪くはないはずだが、来る教師はすべて二週間程で「自信をなくしました」といってやめてしまうから、もしかしたら、凄くのみこみが悪いのかもしれない。自分では出来ているつもりなのだが、他の子供はもっと理解力があるのかも?比べる対象がいないからよくわからないんだよなあ。弟にもあまり会わないし。ただ、弟はかなり優秀であるという噂は聞くし、教師はずっと同じ人が務めているというから、やっぱり俺の理解力が乏しいんだろうな。


同じく運動神経も悪くはないと思うのだが、やはり教師が二週間でやめてしまう。なんでだ。


唯一の特徴といえば、この無表情だろうか。とは言うものの、別に好きで無表情なわけではない。もともと表情筋を動かすのが苦手なのだ。笑顔とか無理。人との会話自体俺にはかなりハードルがたかい。そもそも会話をする前に気絶されるか逃げられるからな!まともに会話になったことが少ないのだ。……なんでだ?


性格は面倒臭がりだ。そしてものぐさだ。一日中同じ服で十分だし、お茶会も夜会も面倒で仕方がない。ぶっちゃけ、人と話すこと自体面倒だ。だから表情も動かないのかな?やっぱり自分から近づかないとダメなのかも。


ただ、そんな俺にも趣味はある。魔法書や古代遺跡、魔道具の研究や作製だ。やりはじめると、食事をすることも忘れて没頭してしまうこともしばしば。しかし、それ以外のことにはあまり興味はないし、どうでもいい。


結果として、決して出来損ないではないが、優秀でもない王子が出来上がった。それが俺、第一王子アルフレッドなのだ。……いや、一応秀でたところはある。魔道具の開発だ。これだけは胸をはれる特技だろう。まあ、王位を継ぐにあたって全く必要ない特技ではあるが。


そんな俺の夢は、王位を弟王子に譲って(押し付けて)森か、山にこもって魔法書を読んだり、遺跡を探索したり、魔道具を造ったりすることである。実を言うと、魔道具作製ですでに個人的に一財産築いているので、今すぐ山奥にこもっても何の問題もない。王位さえ円満に放棄できれば、あとはやりたい放題できると信じている。まあ、その王位を放棄っていうのが意外に難しいんだけどね!放棄したって殺されたり、一生監禁、なんてことになっても困るしね!


そもそも、俺的分析によると王妃様も弟に王位を継承させたいと思っているし、国王陛下もそう思っているに違いないのだ。もちろん当の弟も王位を継ぐ気満々だろう。何せいつもギラギラした挑戦的な瞳で俺を見ているし。俺もそう思っているということは、もしや円満に王位を放棄できる?!とか夢見ていた時もありました。


実際は貴族連中の動きとか

思惑とか、他国の思惑とか、なんだかいろいろ面倒くさいことがあってうまくいかないのだが。


ともあれ、円満に王位を放棄するべく、今日も今日とて頑張る俺なのだった。






唐突だが、俺は行き詰っている。


何をかといえば、もちろん魔道具作りである。最近、新しいアイデアが全く浮かんでこないのだ。いわゆるスランプというやつだろうか。何だそんなこと、というかもしれないが、俺にとっては非常に重要なことなのである。


原因は分かっている。


刺激だ!新しい出会いだ!こんな毎日毎日城にこもってばかりでは新しい刺激なぞ望むべくもない。そもそも会話自体がまずない。完全に引きこもりである。まあ、もともと人と話すこと自体が苦手だからね、普段はそれでいいんだけどね。こういう時はそれではいけないのだ。


というわけで、明日は刺激を求めて王宮を出て街に行ってみることにした。


もちろん近衛騎士や侍従などぞろぞろついてきては何の意味もない。こういうのはお忍びで行くものだし、お忍びとはこっそり行くものなのだ。


翌日の朝、俺はさっそく出かけることにした。もちろん昨日のうちに、幼馴染であり、専属の近衛騎士でもある四つ年上の友人にも連絡済みである。さすがに一人で出るわけにはいかないからね!それくらいの分別は俺にだってあるのだ。


幼馴染の名前はグレイ。紫黒の短髪に、朱色の瞳の、美少年である。見た目は青年といっても差し支えないだろう。実際の歳よりも三つ、四つ上に見えるからね。彼は筆頭公爵家ウィスベルクの次男であり、弱冠十四歳にして大人顔負けの剣の腕前だ。俺の数少ない友人であり、腹を割って話せるうえ、俺のことをよく理解してくれている貴重な人材である。俺の顔を見て、気絶もせず、うつむくこともなくまっすぐに目を見て話してくれる人って少ないのよ、本当に。


というわけで、こういうお忍びの時はいつも付き合ってくれている。昨日もまた、いつものように彼の好きな少女の名前を出すと、快く承諾をしてくれた。俺がいない間の工作もぬかりなくやってくれている。今はちょうど、この前までついていてくれた侍従がやめてしまったところで、まだ次が決まっていないので、抜け出しやすいのだ。そろそろ侍従をしてくれる人材がいないんじゃないかな、と思うのだが、どうだろう。あ、ちょっと悲しくなってきた。……もう、いらないんじゃないかな、侍従とか。


「おい、やっぱりやめないか」


グレイの今更な制止など聞く耳持たない。ここまでばっちり工作しておいて、やめるという選択肢は俺にはない。俺にとっていま一番重要なことはスランプを抜け出すことなのであるからして。


俺は有言実行の男。行くと決めたら行くのである。弱気な幼馴染の言うことなど無視だ、無視。そもそも毎回お忍びで街に出るたびに同じこと言っていて飽きないのかな?俺、一度も聞いたことないのになあ。いい加減諦めればいいのに。


ともあれ、渋るグレイを従えて、俺は秘密の抜け穴を利用して誰にも見つかることなく城の外へ出ることに成功した。


「ほら行くぞ。もうここまで出てきたからにはいい加減腹くくれよ」


別に捕って食うわけじゃあるまいし。何をそんなに渋るのかね、こいつは。


「……待てよ、アル~」


ぶつぶつ言いながらもちゃんとついてくる彼は、良いやつだ。ヘタレだが。意中の少女を物陰からそっと見つめるだけで、声もかけることができないシャイな男だが。……どこの乙女だ?ちょっと気持ち悪いと思ってしまうのは俺だけか?さっさと交際を申し込まないと、せめて友人くらいにはなっておかないと別のだれかにあっさりさらわれそうな気もするぞ。何せ彼女は家柄もいいし性格もよく、さらには美少女だからな!まあ、どうでもいいけど。


「フード、フード」


意気揚々と路地を出ようとしたところで、後ろから駆け寄ってきたグレイにフードをかぶりなおさせられる。そう、実は俺はお忍びの時は厚手のフード付きマントを常に着ていて、顔を人に見られないようにしているのだ。いや、王族の顔なんてそうそう知られてないしね?フードかぶってる方が目立つと思うけどね。グレイがこれだけは外すなって、絶対に顔を人に見せるなって譲らないんだよなあ。そんなに人相悪くないし、不細工でもないと思うけどね。そういうとなぜかグレイは呆れたような顔をして黙り込んでしまうのだ。なんでかね?俺はうっとうしいから外したいんだけど。


「危ないとこだったな。いいか、絶対に顔は見られるなよ?」


「もう、わかってるさ」


そんなに怖い顔で念押ししなくてもいいじゃないか。むしろ俺よりも絶対グレイの方が目立つと思うんだよな。


このマント、実は思い出の品なのである。初めてお忍びに出た時に、グレイがどこからか買って来てくれたものなのだ。その時からお忍びの時はずっとこれを愛用している。とはいえ俺がいろいろ魔改造を施したので、すでにマントというより兵器といえるだろう。魔道具もいくつか持ってきてあるし、万が一にもさらわれてどうこうなるなんてありえないさ。


「だといいけどな。で、今日はどこに行くんだ」


しばらくぶつぶつ言っていたグレイであるが、やがてあきらめたようにため息をつくとそう聞いてきた。


「そうだな~、露店市に行きたいかな」


今日は月に一度の露店市の日だということを、俺は知っている。お忍びは思い付きだが、街の事情は定期的に仕入れているのだ。


露店市の日は、決められた区画内であれば、普段店を持っていない一般人でも商業協会から緋絨毯を銀貨一枚でレンタルすれば商売ができるのだ。主に引越しをする家庭とか、家のいらないものがたくさんあるときに利用するらしい。あとは家計が火の車の貴族が名前を隠して家財道具を売っぱらうとか。通常の店よりも安く買えるものもあるし、稀には掘り出し物もあるとかで人気のようだ。


実は俺はこの露店市、まだ一度も見たことがないので、一度行ってみたいと思っていたのだ。


表情は動いていないようだが、内心ニマニマしながら意気揚々と歩きだしたのに、グレイが腕をつかんで引き留めてくる。


「どうした?」


「どうした、じゃない!身分を自覚しろ。露店市が開かれる北区画にはスラム街もあるんだぞ」


治安も王都の中で一、二を争うほど悪いから行くのはよせとグレイは言うが、それくらい俺だって知っている。確かに普段はあまり治安が良くないが、この日ばかりはお忍びで貴族が来ることもあるし、より人を呼び込むために騎士団が要所要所に配置されている。あえてここで開催する理由は、もちろん普段治安の悪いこの区画の治安整備を兼ねているからだ。


「だから大丈夫!それにお前が俺をちゃんと守ってくれるんだろ?」


そういってグレイを見ると、なぜか顔を赤くして口をパクパクさせている。変な奴。






露店市は思ったよりも賑わっていた。他国の商人なんかも結構訪れるというし、なかなか活気に満ちている。人は苦手なのだが、こういう雰囲気は嫌いじゃない。だが長いことは無理だ。熱気にあてられて気分が悪くなってしまう。


区画に入ってすぐに魔道具特有の魔法の波動を感じ、興味を惹かれて素早く移動する。グレイのことなど頭からすっぽり抜け落ちていた。魔道具は高価なものだが、この露店市にはそこそこ金のある商人や、貴族の使いなんかも結構な数きているから、良いものであれば、多少高価であっても売れる可能性は高い。


果たして、やはり魔道具を売っていた。売っている魔道具は一つだけだったが、かなり質のいい攻撃系の魔法が込められた魔道具で、使い勝手の良さそうな小型のものだったので買ってみた。作るのは難しくなさそうだったが、知らない技術が使われていたのだ。話を聞くと、売っているのは流れの商人で、先日北方の国に行ったときに仕入れたものなのだとか。相手は北大陸の人間だったらしい。北大陸とは全くと言っていいほど国交がないため、知らない技術が使われていたのも納得だ。お値段は少々お高めだったが、良い買い物だったと思う。満足である。


だが人混みが苦手な俺は、二、三軒店を見て回ると途端に人に酔ってしまった。グレイとは人込みで、というより、たぶん初めの店に勢いよく突撃した時にはぐれてしまった。周りを見回しても姿がない。魔道具のことで頭がいっぱいだったので、いつはぐれたのかは全く分からないけどね。


「うーん、まずいな」


これは間違いなく、あとで長いお説教が待っているに違いない。説教を回避できる未来が全く浮かばない。どうしよう。アイツはしつこいから半日くらいねちねち続くうえに根回しも完璧だから、説教の間は誰も近づかないし。無駄に有能なのも考え物だよな。あれでまだ十四歳だなんて、末恐ろしい。


一応言い訳しておくと、俺だって少しは剣が使えるし、無手でも護身くらいならできるわけで。お手製護身用魔道具だってマントの中にいくつか隠し持っているし、そうそう変なことにはならないはずなのだが、あいつは真面目な奴だからな。はぐれた時点できっとすごく心配しているだろう。


そこで俺はよいことを思いついた。通信用の魔道具を作ればいいんじゃないか?思い返せば、通信用の魔道具は城やギルド会館に設置されているような大型のものしか存在しない。もっと小型の、携帯できるようなものがあればこういう時に連絡が取れて便利に違いない。なぜ今まで思いつかなかったのだろう。帰ったらさっそく研究をしなくては。


心はすでに自室にとんでいた俺は、もう帰りたくて仕方が無くなっていた。新しい魔道具の構想を手に入れるという目的は達したわけだし、ついでに北大陸の魔道具も手に入れた。早く研究したい。なんかいろいろ研究したい。


そうして浮かれ気分でいた俺は、なんとあっさりと誘拐されてしまったのだった。

























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