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王子と魔道具屋(3)

短い。

更新が遅くて申し訳ないです。

魔道具屋イスリットとその妻のメイリース、冒険者リゼッタの協力を得て予定より早く完成した魔道具を手に、俺は城へと急いでいた。


「伯爵邸に連絡はついたか」


まだ社交シーズンであるし、今回は俺の花嫁選びで呼ばれたのだから社交界デビュー前のアリーリャでもまだ領地には帰っていないはず。そう思ってグレイに伯爵邸に連絡を入れさせ、なるべく早くアポイントを取ろうとしているのだ。やはりできるだけ早くこれを渡しておかなくてはいつ何時彼女が危険な状態になるかもわからないからな。油断は禁物だ。


「ああ、連絡はついたんだがな、アル」


神妙な顔でグレイが足を止める。


「どうした」


まだ城までは少しある。なぜ彼は足を止めたのか。


「イスリットの魔道具屋へ戻ろう」


「は?」


いきなり何言ってんの。


俺は城へ戻ってまずはアリーリャに遅延の魔道具を渡さないとならないんだぞ?


でもって、彼女の命を救う第二策目に取り掛からないといけないんだぞ?遅延の魔道具を渡したとして、彼女の命の期限にそこまで余裕ができるわけでもないんだからな。


そういう俺に、グレイは分かっている、とうなずいてそれでもとにかく戻ろうと急かしてくる。


ここまで言うからには何かがあるに違いない。ためらいながらも、俺はうなずいた。


「……わかった」


俺たちは急いできた道を引き返し、イスリットの魔道具屋の扉を無造作に開ける。


「いらっしゃい……って王子様じゃないですか」


イスリットは飛び込んできたフードを深くかぶった二人組に一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに俺たちだと気付き中へ招き入れる。すばやく動いたリゼッタが扉の外の準備中の札をかけて扉の鍵をきっちりしめた。


「なにごとですか」


騒ぎ?を聞きつけたのか、二階からメイリースも姿を現した。


「何があったの?出て行ってすぐに帰ってくるなんて」


周りを警戒しながらリゼッタが聞いてくるが、そんなの俺にだってわからない。何者かに襲われて逃げてきたとでも思われてしまっただろうか。かなり慌てて飛び込んだからなあ。


「さて」


俺が肩をすくめてそう言うと、視線が集中した。おっと、そんな変な目で見ないでほしいな。


「それは私から説明させていただきます」


フードを脱いで丁寧な口調そう言ったのはグレイだ。


「少々緊急の案件がございまして、もう一度皆様のお力をお借りしたく……」


丁寧ではあるが有無を言わせぬ威圧感。……うん、俺より王子様稼業、向いてそう。なんか落ち込むなあ。


ともあれいったん席に着き、メイリースが出してくれたお茶を手に取る。


「単刀直入に言えば、王子の婚約者候補であるアリーリャ嬢が何者かに誘拐されました」


「ぶほう!!!」


思わず口に含んだお茶を吹き出した俺は悪くないと思う。うん、リゼッタ、顔がお茶まみれになったからって睨まないでくれるかな。言っとくけど俺は悪くないよ?たぶん。


「その割には随分冷静でいらっしゃいますのね」


メイリースがまだ何かあるだろう、とおっとり微笑んでグレイを見る。笑顔が黒いと思うのは気のせいか?イスリットよく彼女と結婚したな。ある意味勇者だな。


「ええ、誘拐といってもすでに犯人は判明しており、アリーリャ嬢の身の安全も確認済みです」


すぐに害されるようなこともありません、と断言されて俺はほっと息を吐き出す。


「で、誰に拐われた?」


俺の言葉にグレイに視線が集まる。


もったいぶってないでさっさといえよ。


「アリーリャ嬢を拐った犯人はセシール様です」


その名前に俺は再びお茶を吹き出し、イスリット、メイリース、リゼッタは首を傾げていた。


「もう、いい加減にしてちょうだい、汚ないわね」


リゼッタに叩かれた。うん、ごめん。……ってちょっと待て、いつも思うけど俺、王子だよね?おかしくないか、この扱い。最近グレイ以外も俺の扱い雑すぎないか。


「しかし、そのセシール様とはどこのどなたですかな」


うん、しかもツッコミもない。誰かおかしいと思おうよ。むしろ姪の教育しなおせよ、イスリット。と思ったところで俺は首をかしげた。


「……あれ?イスリットは知ってるだろ」


二年前のパーティの翌日、こっそり城を抜け出してセシールをここに連れてきたはずだけど。彼は魔道具の技術には並々ならぬ関心があったので、イスリットにもいろいろと質問していたと記憶している。


「h?いえいえ、そのようなお名前の御方には心当たりがございませんが」


記憶力には自信がある、という彼は間違いないと断言した。おや?


「おかしいな」


「……アル、イスリットにセシール様を紹介したか」


グレイに聞かれて記憶をたどる。……おや、そういえば名前は言わなかったかな?


「おお、言われてみれば、連れてきただけだ」


「それじゃ伯父さんにわからないのも無理ないわ」


呆れたようにリゼッタに言われてしまった。面目ない。


「セシール様は魔属のホロイロード種であり、ウィステリア国の次期国王でもある」


あ、グレイの口調が元にもどった。


「ホロイロード種?」


メイリースがナゼか顔をしかめる。


「なんだ、ホロイロード種とはあまり会う機会はないと思うが」


もともと保守的であり、職人気質の種族なのでめったに国から出ることはない。もちろん中には例外だっているし、全くでないわけではないので出会ったことがあってもおかしくはないのだが。知り合いでもいるのだろうか。


「ええ、そうですわね。私も出会ったことがあるホロイロード種の方は一人だけですわ」


にっこり笑ってうなずくメイリース。目が笑ってないですよ。なんか黒い気配がもれてますヨ。


「お、伯母さん、落ちて!」


「あら、失礼いたしました」


ふふふふふ、と笑って肩を竦める。何があったのだろうか。怖くてきけない俺である。


情けないというなかれ。言っとくけど、旦那のイスリットなんて真っ青だからね?!今にも倒れそうだからな。それはそれでどうなんだ。


「でもホロイロード種って滅多に国からでないじゃない。しかも次期国王とか、そんな身分あるヒトがなんで誘拐なんて」


その拐われた女の子はよっぽどキレイだったのかしら?というリゼッタの言葉に俺とグレイは顔を見合わせて首を傾げる。


俺は彼女のことを嫁にほしいと心から思ってはいるが、だからと言って冷静な判断が下せないというわけではない。ぶっちゃけ、彼女よりキレイな令嬢は山のようにいる。彼女より賢い令嬢も。


「だったらなぜ」


俺の回答に、イスリット、メイリース、リゼッタはそろって首をかしげる。と言われても俺にも理由などわかるわけもない。グレイは何やら思うところがあるのか、もう少し突っ込んだ話を伯爵から聞いたのか何やら考えているが。


「まあ、行ってみればわかるだろう」


そうなんだけどな。気になるから持ってる情報は全部開示しておけよ、と言いたい。だがしかし、行けばわかる、というグレイは口をつぐんでしまったし、こうなればもう何も言うことはないだろう。


「っておい、メイリースはやめておけ」


何気について来ようとしたメイリースにぎょっとして声をかける。


「そうだよ。王子様の言われる通りだ。身重だというのになにかあったらどうするんだ」


イスリットも真っ青になってメイリースを止める。リゼッタもさすがによした方がいいとイスリットに同意した。


「そうよ。伯母さんはここにいたほうがいいわ」


俺たちの言葉にしかし、メイリースは首を横にふる。


「まあなにを言うの?こんな面白そうな……げふんげふん。捕らわれたご令嬢が心配だわ。私は大丈夫です。早く行きましょう!」


今、面白そうとか言った?しかもなんでそんなにやる気なの?


ごまかすように咳払いすると、俺たちをせかすメイリースなのだった。


こうして、俺たちはグレイの案内によりセシールのもとへと向かったのである。



















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