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王子と魔道具屋(2)

話を聞き終わったリゼッタは肩を竦めて苦笑した。


「そう、肝心なところが抜けているなんてね。完璧すぎて面白くないと思ってたけど、アルも案外可愛いところもあるじゃない。ねえ、グレイ様」


「ああ」


生暖かい笑みを浮かべてうなずきあう二人。どうでもいいが、なんでグレイは様づけで、俺は愛称呼び捨て?別にいいんだけど、なんか釈然としないな。


「で、協力してもらえるか」


「もちろんよ。ついでにメイリース伯母さんにも手伝ってもらいましょう」


「先程の倒れた女性か?大丈夫なのか」


体が弱いのか、出会い頭に倒れられたらさすがに手伝わせるのはどうかと。だがリゼッタは笑いながらうなずいた。


「ええ。きっとノリノリで手伝ってくれるわ。伯母はあれでも港町ホリアークでは有名な魔法使いなの」


自慢げなリゼッタの言葉に、俺の記憶にも引っかかるものがあった。


「ホリアークの英雄か」


五年前、港町ホリアークにオクルスというイカの化け物みたいな魔物が大量に押し寄せたとき、騎士団到着まで一人の犠牲者も出すことなく、水際で魔物を防いだ一人の魔法使いがいた。その魔法使いが確かメイリースという名だった。


「五年も前のことなのにほんと、よく知ってるわね。アルはそのとき五歳でしょ?」


ナゼか呆れたように言われたが、あんな大事件知らないほうがおかしいだろう。ましてや俺は王子なのだから。まあ、所詮五歳だったからちらっと話を聞いただけだけどな。


「申し訳ありません、お待たせいたしました」


五年前を思い返していると、二階からイスリットが下りてきた。後ろに先程の女性もいる。よくよくみればお腹が大きい。


「ん?彼女はイスリットの奥さんか?」


てっきり独身だと思っていたわ。いや、だっていままで一度も見たこともないし。結構イスリットとの付き合いも長いと思ってたんだけどなあ。


「はい、メイリースと申します。いままではホリアークの実家に帰っていたのですが」


ちらっと奥さんを見て苦笑したイスリット。話をきいてみれば、どうやら仕事の関係で結婚当初から月に五、六日しかここにはいなかったらしい。どうりで。


イスリットはそれでも良かったらしいが、妊娠した辺りからメイリースの体調は思わしくなく、イスリットに妊娠を内緒にして(色々ウザい……もとい心配性のため)実家に帰っていたのだとか。イスリットは妻に逃げられたと落ち込んでいたようだ。


いままで見たこともないような輝く笑顔がまぶしわ!


上機嫌で妻の話をし続けるイスリットは正直ウザい。なんか帰りたくなってきた。


「あなた、いい加減にしてちょうだい。うるさいわ」


奥さん笑顔でバッサリ。激しく同感だが、いいのか?イスリットが床に座り込んでいじけてるぞ。


「申し訳ありません。この人は放っておいて話を伺ってもよろしいでしょうか?」


常ににこやかな笑顔なのになんかコワイ。うん、敵にはまわしたくないな。


ついじっと観察している間にリゼッタがかいつまんでメイリースといじけているイスリットに事情を説明してくれた。


「あら、そういうことでしたらよろこんで協力させていただきますわ。ねえ、あなた」


「も、もちろん」


いまだにいじけていたイスリットが慌ててうなずく。


「だがお前、体調は大丈夫か」


「つわりの時期も過ぎましたから。さっきも言ったでしょう。今は体調はいいのよ」


「そ、そうか」


とはいえ、メイリースはあくまで魔法使いであり、魔道具作りのことはわからないらしい。魔力は豊富なので、手伝ってもらうのは問題ないが。そもそもリゼッタのように魔法使いであるのに、魔道具作りにも詳しいのが珍しいのである。


「それより急ぐんでしょう」


「そうですな。とりあえず、魔道具の設計図を見せていただけますか」


さっと復活し、真剣な表情になったイスリットに俺は懐から設計図を取り出すと机に広げた。


「これなんだが」


「「なっ……!」」


設計図をざっと見て、イスリットとリゼッタが絶句する。


「これだけ高度で完璧な魔道具の設計図を引けるとはさすが……」


「これで十歳ですって?あたし魔道具職人なれなくて良かったかも」


「お世辞はいいから」


「「いやいやいやいや」」


ん?なんで揃って首をふるんだ。本当にお世辞はいらないぞ。


「で、見てもらうとわかると思うが、この部分にだな」


「ああ、確かにこれは」


「うーん、これを一人で作ろうと思えたのがスゴいわ」


イスリットとリゼッタと細かいところを煮詰めていく。ついでにいくつか修正もくわえた。


納得いくまで話し合い、ようやく作業にとりかかる。


「ようやく出番かしら」


グレイと茶を飲みながら楽しそうに話をしていたメイリースに声をかけると、待ちくたびれたわ、と立ち上がる。ちなみに、彼女の希望で俺はフード着用である。グレイはフードをとっているのに、俺だけ!「破壊力が……」とかいわれたが、そんなに可愛くないかなあ?ひそかに落ち込んでしまったよ。いいけどさ。


ともあれ、こうして準備は整ったのだった。






魔道具を作るための特別な部屋に様々な属性の魔力が飛び交う。


「もう少し出力を調整してください、王子」


「伯母さん、力半分くらい抑えて」


「イスリット、炎に偏りが出過ぎだ」


「加減が難しいわね」


それぞれ注文をつけながら調整を加えていく。ぶっちゃけ、多人数で魔道具を作るのは初めてなのだが、案外楽しいものだ。そういったらこれが基本ですとイスリットに苦笑されてしまった。え、そうなの?


「出来た」


ようやく出来上がった魔道具を手に、俺は満面の笑みを浮かべる。これでアリーリャも一先ずは安心だ。


「助かった。協力感謝する」


「こちらこそ、貴重な経験をさせていただきました」


俺がいうと、イスリットがにこやかにそういってくれた。


「ほんと、楽しかったわ。魔道具職人にはなれなくてもちょっとした手伝いならできるわね」


「そうだな。リゼッタは核の調整スキルさえあれば立派な魔道具職人になれたんだろうな」


「ふふ、そういってもらえるとうれしいわ」


すこし寂しそうに笑うリゼッタ。もともとはスキルをもっていたらしいのだが、何があったのだろうか。いつか聞いてみたいものだ。


「では俺は行く。報酬はまた後日……」


「ああ、王子。その報酬のことなのですが」


「なんだ?」


イスリットが、言いにくそうに切り出してきた。何か欲しいものでもあるんだろうか。


「なんでも言ってみろ」


王子なだけに大抵のことはできると自負しているぞ。


「はあ、では先程の魔道具に使われていたこれと、この技術を他の私の抱えている職人にも使わせていただきたく」


設計図をひらき、二ヶ所指差してイスリットがそう言った。なんだ、そんなことか。


「?いいぞ」


別に好きに使えばいいんじゃないか。


「よろしいのですか!」


「あ、ああ。だがそれでは報酬にはならんだろう」


「なりますとも!」


「なるわよ!」


ずいっと顔を近づけてきてイスリットのみならず、リゼッタも叫ぶ。耳が、耳があ!


「そ、そうか?」


「十分すぎますよ。では今回の報酬は技術提供ということで」


輝く笑顔でそういうイスリットのよこで、リゼッタがぼそっと呟いていた。


「伯父さん、報酬もらいすぎ」


「そういうリゼッタとメイリースの報酬は……」


「いいわよ。あたしたちはアル王子から伯父さんがぼったくった報酬からふんだく……じゃなかった、もらうから」


「そ、そうか?」


なんか、逆らえない。まあ、それでいいというのだから、いいか。


みんな無欲だなあ。


俺はなんといい知人に恵まれたんだ。出来たばかりの魔道具を手に、俺はグレイを従えて意気揚々と城へと帰ったのだった。











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