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王子と婚約者のご令嬢 4

短い。

魔道具を作るのは、実は一般の人たちが思っているほど難しくはないのだ。


基本となる術式はすでに確立されていて、それを基に設計図を引くだけなのだから。百七十ある基本術式の中から、必要なモノを一枚選ぶ。その隣に白紙を用意して、必要不可欠な効果や、あったらいいな、と思う効果をひたすら書き出していく。こういうのは欲張りなくらいにたくさん書きだした方がいいのだ。全部つけることは不可能だが、意外な効果がつけられることもあるのだから。


次にデザインだ。これはとても重要だ。なぜなら、どれだけ必要な魔道具であっても、使いづらいと結局使い続けるのをためらうからだ。使い続けるのが嫌になったり、気分がふさいでしまうこともあるだろう。そもそも趣味に合わない見た目のものを購入しようとする人はあまりいない。


今回は使用者が十歳の少女であるし、なおさら可愛らしく気に入ってもらえるデザインがいい。何せ【印】が消えるまでの間はずっとつけておいてもらわなくてはならないのだから。


「こうしてこうして、うんかわいいかな」


紙にデザイン画を何枚も書いて、最終的に一つに絞る。青い宝石のついた銀色のブレスレットだ。きっと似合うだろう。気にいってもらえるといいのだが。


さらに書き出した効力を術式を構築していく過程で少しずつ絞っていく。


だいたいのデザインと機能が決まったら、あとは必要な素材を書き出せばいい。


「ううーん、ダメだ」


いくつか素材を書き出したところで行き詰ってしまった。魔道具の素材は、実はこっそりと隣の部屋にかなりの種類と量を備蓄してある。だがしかし。今回の魔道具を作るにあたって、必要な素材がどうしても二つほど足りない。この二つがなくてはそもそも呪いを遅延させることができないので何の意味もなくなってしまうのだ。


「他の素材ならすぐに準備できるんだが……イスリットに連絡してみるか」


イスリットはいつも俺のお手製魔道具を適正価格で買い取り、販売してくれる王室御用達の魔道具屋だ。彼の店では、魔道具だけでなく、素材関係も取り扱っている。


俺はさっそく通信用魔道具で連絡を取ることにした。これは二か月前に完成させたばかりの新製品なのだが、イヤリング型とブレスレット、ネックレスの三種類があり、通信したい相手とついになる魔道具を持っていなくてはならないのだが、いつでも離れたところにいても連絡が取れるというすぐれものだ。距離的に言えば、一般販売しているものは王都と国境くらいの距離といったところか。小型化と値段を抑えるのに苦労したよう。もっとも一つの魔道具につき、ついになるもう一つとしか通信はできず、別々の場所にいる複数の人物に渡したい時は自分も複数対になる魔道具を所持していなくてはならないのが欠点といえよう。今後の課題だね。


お値段は多少張るが、それでも画期的な発明だと、発売以来大人気で、あっという間に在庫もなくなり、今では予約注文のみの販売となっている。しかも三年まちだ。俺は権利そのものを売って、イスリットお抱えの魔道具職人が総出で頑張っているらしいのだがさっぱり追いつかないとか。好調過ぎる売り上げにイスリットのいかつい顔が緩みまくっていたのが印象的である。


それはともかく俺はイスリットに早速連絡を取ることにした。俺が他に持っているのは父上、グレイ、リュート、それに……まあいくつかあるわけだがそれぞれに誰との通信用なのか分かるようにはめ込んである石の色を変えてある。これ結構かさばるんだよな。早いとこ改良しないと。


「イスリット、聞こえるか」


ネックレス型の魔道具を作動させると中心に埋め込まれている緑の石が点滅する。これは相手との通話がつながった、という意味だ。


「アルフレッド様、お久しぶりでございます」


「ああ、さっそくだが少し融通してほしい素材がある」


「何なりとおっしゃってください。用意できるものでしたらすぐにお届けに上がります」


「助かる。グレイゴルの牙とワイバーンの翼がほしいのだが」


注文を告げると、通信用魔道具の向こうでイスリットが息をつめた。


「ワイバーンの翼はすぐにでもご用意できますが、グレイゴルの牙となりますとさすがにストックはございませんね。あれはAランクの冒険者でもてこずる危険な魔物ですし。通常の方法で倒しても素材採取ができないので市場にはほとんど出回っておりませんからねえ。さすがにこればかりは依頼を出しても引き受けてくれる冒険者がいるかどうか……」


冒険者、というのはメイきゅや古代遺跡、危険な樹海などから珍しい素材を集めてきたり、商人たちを護衛したり、果ては街の何でも屋のようなことをしたりと依頼さえすれば様々な仕事を引き受けてくれる者たちのことだ。世界の中心、浮遊大陸に本部を構える【冒険者協会】が統括していて、各国に支部を構えている。その冒険者協会が認めたSクラスの冒険者たちには各国の王族ですら一目置くほどである。


ともあれ、依頼を出しても所属する冒険者たちが引き受けてくれるかどうかは分からない。特に今回のように命にかかわる危険な依頼は報酬も高いが、その分冒険者も全員が引き受けられるというわけではないからだ。


「分かっている。だがなるべく早く必要なんだ。何とかならないか」


「そうですね……おおそうだ。確かあさって私が懇意にしている冒険者パーティーが返ってくる予定になっています。ランクはギリギリAですが、一人Sクラスに上がってもおかしくないほどの実力者がおりますし、まあ、今はこの国にSランクはおりませんので彼らに依頼してみようかと思いますが」


おそらく引き受けてくれるだろう、とイスリットが太鼓判を押す。俺はほっと胸をなでおろした。グレイゴルの牙は最も重要な素材の一つであり、他の素材では代用できないからだ。


「助かる。費用はいくらかかっても構わないからなるべく急いで調達してくれ」


「心得ました」


イスリットとの通信を切ると、今度は別の魔道具を取り出す。つい先日、ホロイロードの次期国王たるセシールにも送っておいたのだ。セシールとは二年前のあの後も何度か会議や舞踏会で出会ったことがあり、会うたびに何かしら話はしていたから、俺は何となく年の離れた友人だと思っているのだ。話し方もフランクになったし。今手元に置いておいてくれればいいのだが。と祈るような気持ちで魔道具をつなげると、赤い石が点滅して繋がったことを知らせてくれた。


「お久しぶりです。アルフレッドです」


「久しぶりだね、王子。俺が遅れてしまったけれど貴重な魔道具をありがとう。少し遠出をしていてちょうどついさっき受け取ったところなんだ。それにしてもものすごい発明だね。今リュッセライト王国からだよね?まさか大陸をまたいで会話ができるなんて」


「ああ、これは特別性ですよ。通常は国境までで精一杯です。それ以上はコストがかかりすぎるのもあるけれど、そもそもかなり貴重な素材を使うことになるので量産ができませんから」


「なるほど、それはそうだろうね。こんな素晴らしい品を本当に貰っても構わないのか」


「構いませんよ。俺の持っている対の魔道具としか通信できませんし。ところでぜひセシールに助けてほしいのですが」


「何かあったのかい」


俺は今回の件をできるだけ細かくセシールに話した。


「分かった。できる限りのことはさせてもらうよ。クローフィス教には我々もかなりの迷惑をこうむっているからね。こういっては割るけれどちょうどいい機会だ」


彼のセリフに何やら黒いものを感じる気がするが気のせいだろうか。ともあれ助力が期待できそうでよかった。彼は【印】の詳しいことに関してもう一度古い文献をあたってみると約束してくれた。クローフィス教に関する情報も資料にまとめて送ってくれるそうだ。非常に助かる。


今までの動きから察するにクローフィス今日はフィストロードとリュッセライト王国を対立させたいようだが、そんな見え透いた思惑に乗ってやるほど俺は単純でも愚かでもない。もちろん各国の国王や、魔属たちとてそうだろう。これを機にクローフィス教をつぶしてやる。俺の婚約者(仮)に手を出したことを後悔するといい。
















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