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1.幼年期 父と対面する

「父上のご尊顔を拝し、恐悦至極にぞんじまする。吉法師にございます。こちら(那古屋)に戻りましたからには、父上のために、粉骨砕身、身命を賭して頑張る所存にございます。」

帰城後、早速父上と対面させられたもんだから、記憶の中にある時代劇のセリフを最大限動員して、もっともらしく言ってみだが、もちろん、尾張訛りなんてしゃべれないから、どうなんだか。

おやじは、一瞬、驚いたような顔をしていたが、すぐに気を取り直して、

「吉には、驚いた。しかし、祝着至極。久しぶりの名古屋はどうか?」

-- 久しぶりって、あなた、乳児のころの記憶があるわけないでしょ。ほんとは、あるけど。


心の中で盛大に突っ込みを入れつつ、俺は、答えた。

「父上のご下問とあれば、お答えいたします。那古屋は、田舎のようなところでございます。城下に町が見当たりませぬ。この寂れようは、いかがなものでしょうか。」

またまた、おやじは、驚いたような顔をする。

「それは、是非なきこと。そも、この那古屋は、今川が設けた砦。戦が起きるに易きこの地に、町人たちが集まる理はなかろう。わが城にしてから、未だ3年と経るにすぎず。」

なーるほど。敵の領国に食い込んだ最前線の砦の周りに、城下町などできようがないということか。まっ、これからってことね。


おやじは、得心がいなぬ顔色を浮かべて、再び聞いてくる。

「吉は、そのような賑わう城下など見たことがあるのか。おかつのところも、こことは、変わらぬであろう。」

やば、確かに、そうだな。この時代には、町人たちが集まって町を形成していたのは、京都と堺くらいか。そうだ、爺様の津島があった。これを使うか。

「おかつから、お爺様のいらっしゃる津島の港の賑わいを聞いております。」

「なるほど、さようであるか。おかつの話だけで、そこまで、考え及ぶとは、賢き子よ。」

なんとか、切り抜けられたか・・・。


「しかし、父上様、この那古屋の城下に町を作れば、よきことになりましょう。」

「町人など集めて、なんとする。戦の時にじゃまになるだけであろう。」

所詮、おやじは、いくさばかということか。このまま、戦の勝ち負けに明け暮れていたら、同じことの繰り返しだ。戦に勝って得たものなら、戦に負ければ、また失うということ。


俺は、生き残りを考えている。このまま、戦に強い父上が年取って居なくなったら、また今川家に取られるのは必至。リストラされた元しがないリーマンの俺が、強い武将になれるとは、思えない。

いつの時代も国力を上げるには、経済的な繁栄をベースにするしかない。金回りが良いところに、人が集まり、人が集まれば、国力が上がるというものだ。『人は垣、人は城』とか言った戦国武将がいたな。武田信玄か。本当は、国の広さが国力ではない。人口の多さが国力のはず。多くの人口を養うことができる経済力が、その国の力というものだ。幸い尾張は平野だ。食糧の自給に問題はない。また、山がないし、河川が縦横に走っているので、水運も発達してそうだ。海にも面しているし、津島という良港も持っている。経済発展のためのインフラは整っているはずだ。あとは、近代経済学を学んだ俺としては、経済を支える通貨が必要だということは、十分に理解している。フィッシャーの交換方程式ってやつですよ。経済的な発展を作るには、それを支える貨幣の流通量を増やしてやらねばならないということだ。簡単にゆうと、人々に遍く貨幣を持っている状態を作り出さないと、経済は回らず、社会は豊かにならないということだ。この時代、貨幣を流通させる日銀のような組織はないわけだし、統一政権も存在していなわけなので、十分に流通量のある貨幣をどうやって作り出すのか、まったくもって、わからない。今後の課題だな・・・・・


そんなこんなを考えていたら、おやじの事をしばらく放置してしまった。

「父上、人は垣、人は城と申します。城下が賑わえば、国の力が上がるというものです。この那古屋も、大きな城下町に囲まれれば、そう簡単には、敵に負けることはないでしょう。」

「吉は、良いことをいう。それなら、ぬしにこの城をやろう。お前が城主となって、存分に采配を振るうがよからあず。わしは、知多郡を今川から取り戻すため、古渡の城へ移る。吉の行く末は楽しみであろうぞ。わっはっはっは。」

おやじは、上機嫌で去って行った。

しかし、驚きだよ。三歳児に城主をさせるなんて、どうなのよ。いくら息子だからと言っても、あんまりだろ。織田家って、人材が払底しているのか。


そんなことを思っていたら、おやじが戻ってきた。

「そうそう、忘れていたが、ぬしが采配を振るい易きよう家来をやろう。平手正秀だ。お前の爺様の代から我家に仕えている忠義者だ。ぬしを存分に支えてくれるであろう。もっとも、表向きは、守役ということにしておくがな。それでは、気張れや。」

とりあえずは、三歳児の我が身では、なにもできないので、守役という名前の補佐役ができるのは、助かる。まずは、その平手の爺の洗脳から始めることにするか。



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