1.幼年期 じいにあう
「大旦那様がまいります。」
ある日お勝が俺に語った。大旦那は、隠居した先代当主のことで、俺の爺さんが、孫の顔を見に来るということだ。
「吉であるか。爺であるぞ。かわいいこであるな」
俺は、念のためにめいっぱい微笑んでおいた。どうやら、爺さん受けは、とても良かったようだ。
爺さんと言っても、見た感じ40代の精悍なスポーツ選手と言う感じだ。特に、その目が印象的だ。なんというか、深い湖のような、静謐で静かな色を浮かべている。この手の目には、前世で出会ったことがある。そうだ、海上自衛艦の艦長の目だ。俺のような、安楽な日常に流された人生を送ったのではなく、常に、生死の境をくぐり抜けて来たものしか持ちえない、覚悟をたたえた深く静かな瞳。これが、武将の持つ風格と言うものだろうか。静かだが、底知れぬ怖さがある。
すると、その目が、瞬く間に変化して喜色をうかべる。
「吉や。笑うたと思えば、早くも、何かを思案しているかのような。こやつは、赤子らしくないのー。ゆくすえが楽しみじゃて。」
やばい、爺さんには気に入られたようだが、ついつい赤ん坊の無邪気さを装うことを忘れてしまう。
「大旦那さま、お吉様は、とても聡いお子でいらっしいまする。生後間もないというに、ぐずることもなく、とてもお育てしやすいお子です。」
そりゃそうだ。お勝のような美少女に抱かれているだけで幸せなのに、何の不満があると言うのか。いや、あるか。抱かれるばかりで、抱きかえせないのが不満だ。
「確かに。じゃやが、土殿には懐いておらぬようじゃが、お勝殿のことは気に入っているようじゃて、執着至極。」
土殿とは、母の巨乳少女のことであろうが、別に母は嫌いなタイプでは無いが、なんか妹のような感じがして、どうもなんだな。いや、実際に母だし鑑賞対象には向いていないし。
「吉殿は、私が立派にお育ていたします」
頼むよお勝!
「よしなに頼む。五つになったら、わしの屋形に連れてまいれ。」
じいさんは、一言言い置いて、来た時のように爽やかに帰っていった。