はじまり
ごく普通のサラリーマンだった俺は、ある日突然会社を解雇された。よくあるリストラってやつだ。子供たちも自立したし、妻とはとうに離婚した。この先、楽しい事も無いので、この世とおさらばすることにした。どうせ死ぬなら有名な東尋坊がいい。俺は、上越新幹線に乗って越後へ向った。でも、列車は新潟駅に着くことはなかった。大清水トンネルを抜けるとなぜかそこは戦国の世だった。
気がつくと、なぜか何も見えない。ここはどこだ。音が水の中の、そうだプールで潜水をしているようなもごもごとした感じ。遠くに人の話し声と近くに心臓の鼓動が聞こえる。突然、女性の呻き声が頭に響く。
「はじまったで、婆やをよんでまいれ。早く!」
聞きなれないイントネーション?尾張訛りか? どうやら、俺はこの女の腹の中にいる赤子のようだな。
それから俺は、苦しい中で、我慢を重ねてトンネルを抜けて外へでた。久しぶりに吸う外気がうまい。頭もはっきりしてきた。
その時に初めて俺は、転生したのだと悟った。それも、周りの女性の服装からするとテレビドラマで見る戦国時代のようだな。
いや、待て、じっくり見ている時ではない。産声を上げなければならない。
そこで俺は、不自然な嘘っぽい泣き声を上げたが、どうやら、皆に引かれてしまったようだ。顔が引きつっているし。
俺は、失敗したと気づいて、タヌキ寝入りをすることにした。