マッチョに投げ落とされる話
授業が終わって、そのままバイトにはいって11時まで働いて…
眠すぎる…が、家に帰ったらレポートを仕上げなければならない。
最悪…。
そんなことを思いながら静かな住宅街を歩いていた俺は、ふと道の先が騒がしいことに気付いた。
なにやら大勢の人の声…?
喧騒がこちらに近づいてくる。
まるでラグビー部のやつらが走りこみでもしているような……。
なんとなく街頭の下で立ち止まり道の先に目をこらしていると…。
「なに?!」
マッチョだ。
しかも細マッチョじゃない、ゴリマッチョだ。
ゴリマッチョの集団だ!
ビキニパンツ一枚で、覆面をつけたレスラー系ゴリマッチョの集団だ!
一人、二人、三人、四人…十人以上いる!
そいつらがまっすぐにこちらに向かって走ってくる!
何事だ…?いや、しかし俺には関係がないはず。
そう思い端の方に身を寄せたのだが……なんか俺を目指して走ってきてやしないか?
ドッドッドッドッという足音とともにゴリマッチョ集団が少しずつ大きくなる。
まさかぁ~、俺には関係ないしー…関係…ない…
「ですよねーーー?!」
あと5メートルというところで俺はたまらず彼らに背を向けて走りだした。
だが、そのゴリマッチョ集団の足は俺よりも早い。
一生懸命走っているのにその距離が広がらない…どころか縮まっているような気がする。
まずいまずい、なんだか非常にまずい気がする!!!
俺は片方の肩にだらしなくぶら下げていたデイバッグを道端に放り捨て身軽になると一気に加速した。
だが敵もさるもの。俺が速度を上げたとみるや、「うおおおお」という雄叫びとともに、ヤツラもまたダッシュをかけてきたのだ。
「やめろ!来るな!!!くるんじゃねぇ!!!」
ひぃぃぃいいい!!!
俺は一生懸命走った。
小学校の運動会でだってここまで必死に走ったことはないというくらいに一生懸命に走った。
だが…
ちらりと肩越しに振り返ると、ゴリマッチョ集団との距離が縮まっている!!!!
しかも、ゴリマッチョ集団の人数が明らかに増えてる!!!!
「いやああああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」
俺は絶叫を上げて走った。
だがここでなんという不幸だろう!!!
俺はコンクリートの凹凸に足を取られどっと倒れこんでしまった。
あまりに勢いがついていたせいかゴロゴロっと転がる俺。
手の平はすれ、うちつけた膝小僧や背中のあたりが痛い。
「つぅ…」
顔をしかめ、それからハッと顔をあげると…
息一つあがっていないゴリマッチョ集団が俺を囲み、見下ろしていた。
「ヒィ」
喉の奥で情けのない悲鳴があがった。
マスクを付けたゴリマッチョ集団は俺を無表情に見下ろすと、おもむろに両手をこちらに伸ばし…
「や、やめろ!!!なんだお前ら!!!やめッ!!!」
俺を担ぎ上げた。
まるで胴上げでもするように俺を数人がかりで抱え上げ、そしてまたもや走りだしたのだ。
「なにすんだよ!!!!」
ぐらぐら揺れる視界。乗り心地(?)は決していいとはいえない。
「やめっ、うわっ…って!!!舌噛んだぞちくしょう!」
ゴリマッチョは俺がどんだけ文句を言おうが暴れようが全く反応はない。
ただひたすら走り、古いビルに突き当たるとその階段をどんどんと登りはじめた。
1F、2F、3F…10Fくらいは登ったか?
「なんだよ!何する気だよ!」
もう本当にかんべんしてくれ。
泣きたくなってきた俺だったが、彼らが屋上の扉を開けた時、まさか…と血の気が下がった。
「おいおい…嘘だよな?!嘘だよな!?俺は何もやっちゃいねぇぞ!」
ゴリマッチョは焦る俺をよそにまっすぐに柵の方に走り寄ると…
「嘘だろーーーーーーー!!!!!!!!」
全くなんの躊躇もなく、俺を柵の外へ放り投げた。
このあと異世界トリップするかと思ったけどそんなこともなかったぜ。…かもしれないし、違うかもしれない。