勇者製造ノ過程ヲ説明スルト
この小説は作者の「シリアス書きたい!戦闘描写挑戦!魔法込みで!一回やってみたかった設定!」なノリで書き上げられたお話になっております。
戦闘描写は、努力しておりますが拙いことをご了解ください。
死別表現もありますので、ご注意ください。
読んでくださる、というお方の御心が広いことを願います。
後悔は、していないっ!
『ユウシャヲ<ツクロウ>トオモウノダ』
神と名乗ったモノは、高笑いしながら、至極面白そうにそう言った。
人のような形を取っていながら、その顔はなぜか、判別などできない。見つめたならば、そのまま吸い込まれそうな暗黒がそこには広がっている。
まるで発光しているかのようなローブをはためかせ、神はその手を、広げた。
一体何代目の王だったか、その平衡が崩れたのは。
人間と、絶大な力を持ちながら理性を持たぬ魔物。危うい均衡の上で成り立っていた両者の関係は、儚くもあっけない終わりを告げたのだ。
いや、積もり積もった矛盾が、亀裂を生み、己を破滅へと追いやっていっただけの話。
確実に、確実に。
気づけば世界は魔物であふれ、人の欲に煽られたそれらによって国は崩壊状態。村は襲われ、土地は侵され、作物は取れなくなり、少しずつ、それでも確実に、終わっていく世界。
そこに突然現れ、告げられた神の言葉。人々が歓喜の声を上げた。
嗚呼、これで、国は、私たちは、救われるのだ。
そうして、二人の人間が予定勇者として選ばれた。
あくまで、予定。全てを終えるその時に、勇者となる約束で。
二人の人間は、それぞれの道で、人を助け、魔物と戦い、時にともに剣を取った。
平和の為と声高に。
そして、最後に。
約束が果たされる、その最後に。
神は、嗤った。
ドチラカダケガ、ユウシャ。
カタホウダケダ。
カタホウノ功績モ、ヒトビトノ記憶モ、チカラモ、ソシテコレカラノ生モ、カタホウニノマレルダロウ。
ナァ、オモワナイカ。
ヒトハ、<ユイイツ>ヲモトメルモノダ。
フタリノユウシャハ、イラナイ。
ヒトリナラバ、平穏ハ、ヨリ、タモタレヤスイ。ヨリ、信仰ヲアツメヤスイ。ヨリ、安定スル。
ユウシャハ、ヒトリデデキナイコトヲシテコソユウシャ。
ナラバ、フタツヲ、ヒトツニスレバ、スゴク、スゴク、ツクリヤスイ。
ヒトリヲ、悪ニ。
ヒトリヲ、善ニ。
ヒトリノ、タメニ、ヒトツノ、平穏ノタメニ。ドチラカヲ、ユウシャニ。ドチラカヲ、アクマニ。
サァ。
そして二人は、最期に、ただ一人の仲間に、ただ一人の友に、ただ一人の愛する者に剣を向けた。
勝った方が、勇者。
負けた方が、悪魔。勇者にその剣を向けた、最後の敵になる。
予定勇者Aは地面を蹴った。右斜め横へと剣を構え、走る。
予定勇者Bは左手を開き、力を込める。体を縦横無尽に駆け巡る血脈から流れ、溢れ、凝縮される力。所謂、生命エネルギーを用いた、魔法。
呪文を呟き、手を突き出し、その力の塊を放つ。
ドゴッ。
余りの波動に予定勇者Bの体の周りの石が吹き飛び、予定勇者Bの体すら押されて地面に食い込んだ。
目を焼くような光が、地面を抉り、岩を吹き飛ばし、予定勇者Aへと向かう。予定勇者Aはその速度を緩める事無く、光の剛球へと真正面から向かう。
その目を煌かせると、構えた剣を気合いの声と共に下段から放つ。
剣に込められた魔法が発動。その刀身から金色の光が溢れだす。
剣が光にめり込む。
拮抗する二つの魔力により、常人ならばその目を潰されるだろう激しい光がスパークする。しかし、その拮抗も一瞬のことである。
力任せに振りぬいた予定勇者Aの剣により、光の球は真っ二つに切られ、二つに分かれたそれらが背後の二つの山を消し飛ばした。
予定勇者Aの頬や、妖精族によって作られた鎧が、光の球に接触したのか焼け焦げる。
それを気にも留めず、予定勇者Aは跳躍した。太陽を背に、剣を振りかぶる。
重力に任せ、その体をしならせ、剣を振り下ろす。
予定勇者Bは、腰の剣を抜くと、それを受け止めた。ごうん、という重い音とともに、予定勇者Bが足を付けていた地面が陥没する。
二人の口から、苦悶とも威嚇ともつかない声が漏れだす。
ぶつかり合う魔力により、剣から、二人の勇者の体から放電が起こった。赤と青の光が、二人の体をでたらめに傷つけ、地を抉り、樹を焼き払う。二人の周囲から全てのものが吹き飛ばされていく。
予定勇者Bが獰猛な唸り声をあげ、その腕を振りぬく。予定勇者Bの力に、その場で疾風が巻き起こった。その風は、塊となって予定勇者Aの腹を突きぬける。華奢な体が回転しながら宙を舞った。
予定勇者Aは地面すれすれに吹き飛ばされていく。滑空する予定勇者Aは、勢いそのままに地面へとその体を打ち付け、酷い砂ぼこりを立てながら周囲の物を吹き飛ばしていく。
岩を砕き、樹を吹き飛ばして尚、その動きは止まらない。
大木へとその身を打ち付け、その動きはやっと終幕を迎える。
どごん、という地面を震わせるような衝撃の後、べきべきと裂ける音とともに、大木が倒れる。
余りの衝撃にその肺から空気が押し出され、苦痛にその体を縮める予定勇者A。
びくり、びくりと痙攣するのは、予定勇者Aの限界を超えた全身の筋肉。痛みへの拒絶か、荒い呼吸を繰り返す。
何の感慨もないような表情で、予定勇者Bは予定勇者Aへと近づいていく。
その顔はまるで死人のようであるのに、その瞳から一粒、涙が流れた。
それにも気づいていないかのように、予定勇者Bは剣を両手で握り直す。そして、走る。
予定勇者Aは、がはっ、と血を吐きだすと、口元の血を拭って、その手をつき、体を震わせながら全身に力を込めた。骨が何本か、いや何十本かーやられたらしく、その体はふらつき、まだ視界もはっきりしていない。
背骨を駆け上がり、脳髄を焦がす激痛に、予定勇者Aは悲鳴を上げる。しかし、その体を動かすことを、止めない。
予定勇者Aの妖精族の鎧は、右肩が外れ、右手のガントレットがぼろぼろになり、予定勇者Aが立ち上がった途端にその部位が紙の如く霧散した。
向かってくる予定勇者Bに射抜くような視線を向けると、予定勇者Aはその剣に自身の魔力を集中させー
突きの動作と共に、凝縮させた魔力を放つ。
まるで、雷光のようなそれは、轟音とともに真っすぐに予定勇者Bへと向かって突き進む。
獰猛な肉食獣のように、荒れ狂いながらそれは予定勇者Bへと食らいつこうとその口を開いた。
予定勇者Bが振りぬいた剣が、その半身を奪うもそれは止まらず、予定勇者Bの左側面へと食らいついた。
驚愕に目を見開く予定勇者Bの、脇腹のプレート、そして血肉が食いちぎられる。途端に噴き出す、血。
予定勇者Bのドワーフの鎧をもってしても、止められない魔力は、役目を終えて虚空へと消え去る。
血が噴き出す脇腹を押えて、予定勇者Bが膝を地につけた。ひゅぅひゅぅと音を立てながら、気管から呼吸が漏れる。
「こ、の位の、怪我・・・慣れたもんのはずなのに・・・くぁッ・・!!」
「・・・ッッあァ!そ、うだね、」
笑うしか、ない。
なんて、お互いの剣は重いのか。
背中を預けたその剣の強さを、改めて知る。
どうして、味方だったものに、剣を向ける必要があるのか。
濁った瞳に、二人は互いの姿を映す。
見ていられない、ような、姿になってしまった、ただ一人の、味方。
自分、がそうした。
彼らを縛るのは、誓い。
いや、呪い。
『我等は、神の御意思に従って、人々を救済します』
サァ、マヨエルコヒツジヲ、救済セヨ。
ヒトビトハ、モトメテイル、タダヒトリノ、ユウシャヲ。
嗚呼、どうして。
『ただ一人、あなただけが、私の仲間』
そう言ったのは、まだそう、遠くはない、過去の筈。
予定勇者Aが再び魔力を放つ。それに呼応するかのように、放たれる予定勇者Bの魔力。
二人の体から、魔力と同時に血が噴き出した。全身の血が、魔力が奪われ、眼が白く霞む。荒い自分の呼吸だけが今ここにある全ての音のように、耳に響く。
二人の絶叫とともに、二つの魔力はぶつかり合い、互いの主の力を貪りながら、相手の首を噛み切ろうと牙をむく。
ただの破壊では、まだ足りぬとーその地をも貪欲に食らうように。
全てが、破壊され。
そして、力尽きたように消えゆく二つの獣。
決着がついたのは、それらが消えると同時。
貫くは、Aの剣。貫かれるは、Bの心臓。
勇者はA!
悪魔はB!
少女のように、赤子のように、老人のように喜ぶ神の声は、この時はなぜか、片言ではないように聞こえて。
予定勇者Aは、何事かを口にしようとした。
けれど、何も言葉にならない。
空気を吐き出すだけのこの口に、何の意味があるのか。
溢れるだけのこの涙が、自分に何を与えてくれるというのか。
ごめん、も言えない。
謝罪なんて言えない。
何も、言葉がでない。選べない。
嗚呼、私のただ一人の、唯一の、ひと。
彼は笑った。その瞬間に口から溢れた血が、彼女の頬にかかり、彼女は茫然と眼を見開く。べたり、としたそれは、まだ、温かくて。頬を伝って、流れ落ちていくそれが、彼女の涙と交じる。
彼は震える手で、彼女の髪を梳く。
さらりとしたこの髪が好きだと、言ってくれて。
「ごめん・・・な」
それは、私が、貴方、に。
そして、力を失った、彼の手。
だらり、と垂れ下り、一気に温もりを失う彼の体。
流れ込んでくる彼の記憶。彼の力。彼の、気持ち。
「あ、あああ、ああ、あぁぁあぁぁぁ・・・・っ!!!」
嫌だ!いらない!
いらない!!いらない!!いらない!!
記憶なんて力なんて気持ちなんていらない!!!
余りの苦しみに、身を引き裂くような辛さに、絶叫しながら胸をかき毟る彼女。
止まら、ない。
そして、最後の一片まで、彼は、彼女になって。
彼は、死んでしまった。
何が、勇者。
何が、悪魔。
二人でしかできないことをしたのではなかったのか。
どうして、一人にしか与えられないのか。
どうして、一人にならなければならないのか。
『天ハ、人ニ、ニ物ヲ、与エナイヨ。ソレガ、タトエ、<勇者>デモ』
嗤う声が。
頭の中に。
崇められる彼女。
足蹴にされる彼。
まるで、本当の悪魔のように、彼の行った功績も忘れて、人々は彼を貶すのだ。
声を張り上げても、止まらない。誰も聞こうとしない。誰もが、自分しか見えていない。
何が違ったというの?
何も違わない。
彼は、
同じ境遇ゆえに、求めあったただの人。
唯一の、にんげん。
だから。
『ワタシタチニ、オレタチニ、ワシラニ、ソノ剣ヲ、ムケルノカ?』
ええ。
『アレハ、スデニ、オマエダロ?』
違うよ。
『アタエテアゲタジャナイノ、チカラヲ、エイコウヲ、カレヲ』
「もう、何も言わないでいい」
右手に、彼女の愛剣を。
左手に、彼の愛剣を。
そして、彼女は。
『カエシテ』
『アナタヲコロシテ、ワタシハ、神ニナル。ソウスレバ』
彼は、帰って来るかも知れないじゃない。
同じ生を歩めないというのなら。
勇者が一人でなくてはならないというのなら。
私は人ではなくなろう。
そして彼を取り戻そう。
私が、人ではなく、神ならば、彼の人生は、そのままに。
だから。
『最期に勇者が剣を向けたのが悪魔なら、あなたが悪魔よ』
『ナント、愚カ』
嗤え。好きなだけ。
そして彼女は、神へとその剣を向けた。
・・・・・・
・・・・・・・・・・修正します。
悪魔、予定勇者Bから、神Cへ移行。
神、神Cから予定勇者Aへ移行。
勇者、予定勇者Aから予定勇者Bへ移行。
・・・・
この度の勇者製造は終了いたしました。
均衡の修正を行います。
これにて、再びの平穏が訪れます。
では、またの勇者製造の時に。
注意は、前書に書いたつもりですので、読者の皆様、大丈夫ですよね?(何が
このような作品にここまで目を通していただいた皆様に感謝を。
皆様の暇つぶしにでもなれたなら幸いです。
追記
分かりにくい点も多々あるとは思いますが、これだけ。
勇者製造を二人行うことにより、片方に功績を集めると、より勇者らしい、勇者になる、ということ。また、勇者ができあがる過程において、世界の魔物が処理されるから安定する、ということです。






