そこに猫がいるから
私、水瀬亜希は猫が好きだ。夢はたくさんの猫に囲まれて過ごすこと。そんな夢を掲げているが私の家には猫はいない。だが祖母の家には三匹の猫がいる。尻尾が数字の6のような形をした体が大きな白黒の猫のロク。警戒心の強い耳が薄いピンク色をした白黒のミーコ。そして、撫でようとすると噛みついてくる黒猫のタマ。その三匹に会うため、休日の今日、一時間半ほどかけて電車で祖母の家へ遊びに来ている。
「ロクー、相変わらずもちもだねぇ。また大きくなったんじゃない?」
私は体の大きいロクをこねながらそう聞く。だが本人、いや本猫は何も言わずにされるがまま私にこねられ続けている。
「アキちゃん、お昼ご飯できたよ」
祖母が居間に焼きそばをもってやって来る。そして私がロクのことをこねるのをやめると、ロクは足早にどこかへ逃げて行ってしまった。
「あれ、そういえばおじいちゃんは?」
「今日は朝からゴルフに行ってるの。アキちゃんがこっちへ来る前に出て行っちゃったわ」
「おじいちゃん、ゴルフ好きだもんね」
昔からおじいちゃんはこうして朝早くに家を出てゴルフに行ったり、たまに大会に出ては良いお肉をもらってくるのだ。
「そうだ。おじいちゃんからこれ、渡すように言われてたんだった」
おばあちゃんは私にカメラを渡した。
「カメラ?」
「アキちゃん、もう少しで誕生日でしょ?だから早めの誕生日プレゼント」
「えっ!いいの!ありがとう、おばあちゃん!」
私は受け取ったカメラを一度机に置いてそれを眺めながら焼きそばを食べる。私は猫を見たり触ったりするのも好きだがそれと同じくらい写真に収めることも好きなのだ。今まではスマホを使って写真を撮っていたが、これからはちょっといいカメラで猫をより美しく、可愛く撮れるとなれば誰だって心躍る物だろう。そして焼きそばを食べ終えた私はすぐにカメラを使って座布団の上で居眠りをするタマの写真を撮ってみた。
「おぉ、スマホで撮るよりいい感じじゃん」
私はもう何枚かタマとロクの写真を撮った。ただ残念なことにミーコだけは出てきてくれず、写真を撮ることはできなかった。せっかくカメラをもらったことだし外に出ていろんな猫を撮ってみたい。そう思った私はすぐにカメラを持って外へ出てみることにした。
「おばあちゃん、ちょっと外行ってくるね」
「気を付けて行ってらっしゃい」
おばあちゃんは外へ出て行く私を暖かく見送ってくれた。祖母の家のある場所は田舎の閑静な住宅にある。この周りには昔から猫が集会している場所があると噂されている。私はその場所を見つけに行こうと思う。そして、その集会を是非このカメラに収めたい。猫の集会が行われるであろう場所は昔から調べていて、大方の場所は3つに絞れている。祖母の家から一番近い公園、小学校の裏にある空き地、街を一望できる展望台だ。まずは公園から探してみようと思う。
「あ、居た!」
しばらく公園を歩いていた私の視界の先に一匹のさび柄の猫が歩いていた。私はそっとカメラを構え、シャッターを切ろうとしたその瞬間、猫が私に気付き走り出していってしまった。カメラに残ったのは慌てて逃げ出していく、さび柄の猫の後姿だった。その後も周りを探しても猫の姿はなく、私は仕方なく次の場所へ移動することにした。次に向かう場所は、小学校裏の空き地だ。
この空き地は普段、学校帰りの小学生が遊んでいるのだが、休日である今日は誰もいない。だからこそここに猫が集まるのかもしれない。そんな期待をしながら私はカメラを持ち、猫を探す。だが十五分程、待ってみても猫が集まってくる気配はなかった。 ただ、蝶々を追いかける二匹の白い子猫をカメラに収めることができたので良しとする。
「ここもダメか……まぁ、いい写真が撮れたし、気を取り直して次に行こう!」
次と言っても最後の場所になる。そこは街を一望できる展望台だ。ただ、そこへ行くには少々時間が掛かるが仕方ない、これも猫の集会を写真に収めるためだ。そしてしばらく山道を歩きようやく頂上の展望台へたどり着いた。
「こ、こんなに動いたのは久しぶりだよ……」
長い山道を歩き、疲れた私は展望台にある、ベンチに座り、眼下に広がる街を眺める。
「この街をこの高さから見下ろせるなんて、まるで神様にでもなったような気分だ。そうなれば私は猫に愛される神様、猫神様になって、世界中の猫に囲まれたいなぁ……ふふっ」
そんな妄想を膨らませながら私は展望台から街の写真を撮った。さて、問題の猫だが、道中には何匹か居た。だがここの展望台には一匹も居なかった。それどころか道中にいた猫は皆、街の方へ降りて行っていたのである。そして気づけば日が傾き始めていた。
結局私は、猫の集会を見ることも写真を撮ることもできずにおばあちゃんの家に帰った。
「ただいまーおばあちゃん」
「お帰りアキちゃん。良い写真は撮れた?」
私が帰ると台所で晩御飯を作っているいるおばあちゃんがそう聞いてきた。
「うん!たくさん撮れたよ!だけど目的の写真は撮れなかったよ」
「それは残念だったねぇ。何を撮ろうとしてたんだい?」
「猫の集会だよ。猫の集会がありそうな場所には行ったんだけどね……」
「猫の集会?」
私にそう聞くとおばあちゃんは、少し考えて、何かを思い出したかのように口を開く。
「それなら、もうすぐ始まるからそこで待っていな。ばーちゃんはご飯作ってくるから。今日はサンマにしようかね」
そう言うと、おばあちゃんは冷蔵庫からサンマを取り出し料理を始めた。
「どういう事?」
私はよく分からないまま、おばあちゃんに言われた通り、待ってみることにした。待っている間は今日撮った写真を眺めていた。するとどこからか、ロク、タマ、ミーコの三匹が出てきて庭が見える網戸の前に座った。その後ろ姿を私は、カメラで一枚撮る。
「三匹が並んでるのを捕れたのは子猫以来だったかな?ラッキー」
そんなことを思って撮った写真を眺めていると今度は庭にたくさんの猫が集まりだした。しかもその猫をよく見ると今日の昼間会った猫たちだった。その猫たちが網戸の方に近づいて行儀よく座る。
「もしかして、これが猫の集会?」
私はカメラを構え、恐る恐る近づきシャッターを切った。猫たちは何をするわけでもなく、ただじっとお互いを見つめているだけだった。いや、もしかしたら人間には分からないようなコミュニケーションをとっているのかもしれない。
「どうだい、あれが猫の集会だよ」
おばあちゃんが出来上がった晩御飯をお盆に乗せて運びながらそう言った。
「ずっと探してたのに、こんな近くであったんだね」
「この猫の集会はね、見ようと思って見られるようなものじゃないんだよ。今日みたいに暑くも、寒くもない日に突然始まるの。だからばーちゃんもこれを見られたのは三回目とかなのよ」
「そうなんだ、じゃあもう少し写真撮っておかなくちゃ」
私は近づけるところまでゆっくり近づいて何枚か写真を撮った。その後、私は猫の集会を見ながらご飯を食べた。サンマの骨を綺麗に取れたとき、なぜだかいつも誇らしい気分になる。
すると約十分続いた猫の集会は突然終り、外にいた猫たちはそれぞれどこかへ行っていまった。そして家にいる三匹はなぜか私の近くに来てじっとわたしを見つめてくる。
「どうしたの?」
そう聞いても猫たちは何も言わないただじっと私を見る。
「あ、もしかしてサンマが欲しいの?うーん、じゃあ一口だけだよ」
私は醤油も、何もかかってない場所の身を少し小皿に乗せて三匹の前に置いた。すると嬉しそうに飛びつき食べだした。私はそんな三匹の写真を一枚撮る。
「うん、良い写真が撮れた」
私は思わず、そうつぶやいた。




