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たくさんの木々が青々と茂る森の中、たくさんの淡い光が、耳のとがった一人の少女を中心に集まっていた。
「ふふっ」
『ねえねえリェシアー、はやくあそぼー』
『きょうはなにするのー?』
のんびりとした口調で話す淡い光――精霊たちだ。
リェシアと呼ばれた少女、リェシア・エルティルヴァは、この世界でたった一人のエルフだ。見た目は十八歳くらいの少女に見えるが、それは人間よりも成長が遅いからであって、実年齢は百三十二歳である。
そんなリェシアは、この森――人間たちには"精霊の森"と呼ばれ、立ち入り禁止とされている森――に、一人で暮らしている。
なぜ、一人で暮らしているのか……。その理由は、はるか昔、約百年前にさかのぼる。
約百年前、リェシアたちエルフ族は皆、北の地の森にすんでいた。
「あははっ」
「待てーっ」
そんな声が飛び交う、平和な日々だった。
――そう、だった。
平和な日々が崩されたのは、何の予兆もなく、本当に突然だった。
「人間だ!人間の軍が攻め入ってきたぞ!」
北の地の国が、森に攻め入ってきた。
それを知ってからは、本当にあっという間だった。
逃げ惑う人々、飛び交う怒声、飛び散る血。
リェシア以外のエルフは、魔力は持っていたものの、生活魔法を少し使えるくらいだったため、対抗することが難しかった。
村の中で唯一魔法が使えるリェシアは、大切な人たちを守ろうとした。
「皆、死なないで!生きるの!殺されちゃダメ!私が守るから!」
――が。
結果として、リェシア以外のエルフは惨殺された。そしてこの時から、この世界のエルフはリェシアただ一人になった。
「まもれなかっ、た…?……おとうさん、いや、しなないで、せりる、おかあさん、いや……、いや、いやああああああっ!」
皆の死骸を見て狂ったリェシアは、人間の軍を壊滅させた。この時、彼女の心の扉は固く閉じられた。
それからリェシアは、軍が帰らなかったことから、エルフを殺すことに失敗したのではないか、と悟られ、また襲われる可能性のあるこの地は危ない、と考えた。そこで、以前祖父から聞いたことのある、世界中の精霊たちが集まっているという森を目指して、旅に出た。
身をひそめながらだったため、十年かかったが、ようやく件の森にたどり着いた。
森に入ったとたん、たくさんの淡い光に囲まれ、いきなり目の前が眩しくなった。
『わあ、この子すきー』
『ぼくもー』
眩しいながらも聞こえてきたのんびりとした声に、リェシアは困惑する。
「誰?」
『ぼくたちー?』
『なんだろー』
『――あ!もしかして、にんげんがよく言ってるせいれいってやつかな?』
「精霊……」
この森のことを祖父に聞いたとき、精霊が本当に存在するのかもわからなかった。だから、精霊なんて半信半疑だったが……。
本当に存在していた。
どうしてエルフが一人になってしまったのかを聞かれたリェシアは驚き、聞き返した。
「どうしてそれを?」
『んー、けはい!』
精霊はこの世界に存在するすべての命の気配を感じ取ることができるという。だから、エルフがリェシアただ一人になったことが分かったのだ。
リェシアは戸惑いながらも事情を説明した。すると、精霊たちは「悪意のあるものはこの森に入ることができなくなる」、「もし仮に森に入れたとしても、森内で悪意を持ったら即はじき出す」という、結界を張ってくれたのだ。リェシアには何故なのか分からなかったが、それがすごくうれしかった。
精霊たちと過ごしていると、徐々に心を開くようになったリェシア。今では家族のように大切な存在だった。精霊はよほどのことがない限り、自分を置いて逝かないという安心感も、心を開くきっかけになったのだろう。
昔のことを思い出していたリェシアは、精霊たちの騒がしい声によってはっと我に返った。
『リェシア、リェシア!』
『誰か来るよ』
「!」
この森に入ることができるということは、悪意はないということだ。だが、それで安心できるわけではない。この森に入り、エルフや精霊を発見すると、どうなるかはわからない。なんせエルフはこの世界に一人だけ。生け捕りにすれば大金だ。
リェシアと精霊たちは、すかさず警戒態勢に入った。
ガサッ
「……!」
物音がして、何かが視界に入る。
「……人間」
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