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ep.6
お墓の中の渚さんに声をかけようとして、やめた。そりゃあ、そうだ。声をかけても返事なんか返ってくるはずも無い。しばらくして、僕がそうやって判断するまでの時間が、驚くほど短くなっている事に気が付いた。いつの間にやら、渚さんが居ない事が当たり前になってしまっていた。心の奥底で、忘れてしまうことも残酷だけど、それに慣れてしまうことも僕には残酷だと思えた。
僕の目の前を桃色の花びらが通り過ぎて、僕は思考を中断した。熱くなった頭を冷ますように、ふわりと春の風が僕の頬をかすめる。空を見上げれば、透き通るような空が僕の事を見つめている。そのまま見上げていると、僕の目の前をさらに幾つもの薄い桃色の花びらが通っていく。僕は目を瞑る。柔らかな太陽の光が僕の瞼を通ってきて視界が赤くなる。目を開けて手を太陽に透かしてみる。これもまた赤い。ふと嫌な記憶が脳裏をよぎり、僕は目を逸らした。吐き気がして喉の辺りが胃酸を思い出した。僕は逃げるようにごろり、と寝転がって空を見渡す。ただ、雲一つもなく嫌なほどに澄み渡った空があるだけだった。
「渚さんは居ないのに、世界が綺麗なのが、腹立つんだよなぁ、」
僕はただ、呟いてみた。やはり、返答は無かった。




