第6話 現実の操縦士
―(ダッシュ)を使うことが好きなので(?)多発していますが、お許しください。
血液が降り注ぐ。見ると目の前の隊士がひとり、”影ナル者”に喰われたところだった。あの国に住まう友人は”アンデッド”と呼んでいたか。しかし、今はそれどころではない。前線を張っているのは5人だけ。既に8名が死んだ。この国の軍事力に対し、影ナル者の強さは異次元だ。我が国最強・最凶を誇る砲でも傷一つつかないどころか、怯みさえしない。
「隊長っ!!!」
――気が付くと、目の前にはヤツがいた。
「 あ―――――――。」
骨がひしゃげる。内臓はつぶれ、恐怖は悲鳴として出ることさえ許されない。足が胴体からもがれ、腕は折れ、部下の悲鳴が聞こえる。 人は死を前にするとこんなにも冷静になるのだろうか。はたまた、パニックを起こし、一瞬で様々なことを考えているだけなのか。 しかし、こんなことを考えていられるのもあとわずかだ。既に熱いほどに感じていた痛みは感覚がなくなっていた。体は8割ほど喰われている。風景はすべてスローに見えた。ああ。これが”死”か。
辺りには文字通り血の海ができていた。前線を張っていた部隊は全滅。アンデッドは彼らの肉を喰らい、血を啜り、骨をしゃぶった。アンデッドは毒の死体へ進化した。―――が、「死期近き王国」の民がこのことを知るのは、まだまだ先のことである。
フォーローン王国、王宮にて。
「国王!ご報告がございます。先程、ディープスノー王国から伝達がございました。わたくしが代読させていただきます。
『【緊急】国王失踪の件について。』」
――――昨夜、ディープスノー王国にて、国王が行方不明になりました。国王が行方不明になったと他国に知られれば、国が壊滅してしまう可能性も捨てきれません。これは我が国一の事件といってもいいでしょう。しかし、本当の問題はここからです。昨夜我が王が就寝していた寝床に、成分不明の毒素が検出されたのです。ここからは私共の勝手な推測となりますが、おそらく我が国王は暗殺されたのかと。それも、”アンデッドに”です。数日前、我が国ではこんな研究結果が出ましたこと、ご存じでしょうか? ”アンデッドはヒト族の死骸を喰らうことで進化する。”これも私共の推測ですが、腐敗が進み毒素がたまった死骸を喰らったことで毒素を扱うアンデッドへと進化したと思われます。もう我が国は救われないのかもしれませんが、この件が貴方様の国の存続へとつながることを心から願っています。長文、大変失礼いたしました。―――――
話を聞いたフォーローン国王は深くうなだれた後、何かを小さく呟いてから言った。
「アンデッドの進化..非常に興味深いな。」
その時の国王は心なしか、―――楽しそうにしていた。
「聞いたか?昨日のニュース。」
「ん? ああ、ディープスノーの。」
「それだ。もっと早く、あの国にもアンデッドが出ていることを知っていれば、俺が殺りに行けたのに..」
―――《能力の使用を―――。》―――
「ディープスノーで謎の死が多発..?」
あいつはニュースを見ながらつぶやいた。が、気にかかるところはそこではない。
(最初の世界に戻った..?)
おかしい。全てが狂っている。あいつの能力は『現実改変』のはずだ。なら、自部にとって都合の悪すぎた、この世界に戻る必要はない。なぜなら、あいつにとって一番の友であるはずの俺は死んでいて、アンデッドについて話せるのは、あいつの能力を狙う、怪しげな博士だけ。ましてや、謎の勢力に家のオーブを狙われていた。 家が爆散したのは2つ目だったか? ―わからない。おかしい。世界そのものが狂っている。あいつの能力は、代償として、その能力を認識している人は別の現実の記憶が残されているはずだ。俺はあいつとは腐れ縁だし、幼いころからその能力については理解していた。なのに記憶が存在しない現実がある。どういうことだ?あいつの中には俺が存在しない世界線があるのか。 ―――世界線。その時俺は、あいつの本当の能力に気づいた。あいつは現実を書き換えているんじゃない。 ――――別の世界線に、本当は自分と、能力を認識している人の記憶を上書きしているんだ。本人が気づいていないのは謎だが。もしかすると、 ―いや、関係ないか。しかし、困ったものだ。もしこの仮説があっているならば、この世界線で俺は、記憶だけの存在になってしまう。魂ですらない。あるわけがないが、もし、あいつが俺のことをこの世界線のまま忘れてしまったら。別の世界線の俺は植物人間と化すだろう。 そして、もう一つ。もしこの仮説があっているのならば。 ―――――この並行世界たちはあいつを基準に動いていることになる。それが意味することはただ一つ。
あいつは神なんかよりも断然強い。
今回はルプス視点で話を進めてみました。そしてルシウスの能力の新事実。ここからどうなっていくのでしょうか。 ではまた、第7話で。




