表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死期近き王国  作者: まっちゃ
第三章 見えぬ幻想に馳せる罪
32/35

第18-4話 世界破滅組曲壱章・影宵《えいよい》

宵は、光が死にきる直前の名だ。

昼でも夜でもない、その境界にのみ棲める影がある。


鴉は、そこにいた。


一般のそれより一回り大きな体躯。

闇を拒むように輝く、純白の翼。

右の眼は世界を測る黄金、左の眼は命を刈り取る紫紺。

嘴に咥えられた淡緑のオーブが、微かに脈動するたび、空間そのものが軋む。

観測者のしもべであり、同時に、ルシウスの意思を載せた神。


鴉は羽ばたかない。

宵の空気そのものが、自然とその高度を保っていた。

眼下に広がるのは、壊滅を免れた世界の残骸。

瓦礫は沈黙し、血は乾き、死はすでに声を失っている。


――遅すぎず、早すぎず。

すべては、予定通り。


黄金の右眼が、未来を読む。

紫紺の左眼が、過去を刈る。

その間にある「今」を、淡緑のオーブが保持する。


世界は、この鴉を認識できない。

だが、世界の歪みだけは、確かにそれを“見て”いた。


影が伸びる。

宵の名を冠する影が。


鴉の影は、地面に落ちない。

それは瓦礫の隙間、崩れた記憶、忘却された時間の縁にだけ、静かに染み込んでいく。

まるで、世界そのものに“影という概念”を再定義するかのように。


淡緑のオーブが、わずかに輝度を上げた。


――ルシウスの意思が、流れ込む。


言葉ではない。

感情でもない。

それは、「進め」でも「止まれ」でもない、ただの“理解”だった。


鴉は首を傾げる。

その動作ひとつで、宵が深まる。


地上では、もはや神が刃を振るう必要はない。

空にも、虚無は裂けていない。

癒しの光は、すでに世界に馴染み始めている。


――だからこそ。


この宵は、必要だった。


黄金の眼が、遠くを見る。

紫紺の眼が、影を選ぶ。

鴉は、世界の“裏側”へと滑り落ちる。


それは降下ではない。

世界が、鴉に追いつけなくなるだけだ。


宵は、音を立てない。

だが確かに、影は鳴いていた。


次の幕が上がる、その直前で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ