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死期近き王国  作者: まっちゃ
幕間 廻りだす運命と変わらない命運
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第-2話 水龍幼少観察記録

こんにちは。まっちゃです。

今話は、ルプス・ノヴァの過去についてです。  ..ん?ルプスのフルネームは今まで出てきていないのに、どうして急に出すのかって?”あえて”出してるんです。  特に意味はないけど。


森の朝はいつだって俺に優しい。

湿った土の匂い、木々のざわめき、ちりちりと枝を鳴らす小動物たちの気配。

同じはずなのに、毎日ちょっとだけ違う音がする。だから俺はこの森の朝が好きだった。

目が覚めると、周囲の水気が俺の皮膚に寄ってくる。

まるで挨拶みたいに。


「おはよう、ってか」


軽く手を振る。

すると朝露がふわりと浮き上がり、俺の周りをゆっくり回った。

別に命令したわけじゃない。水は俺を好いてくれる。

龍の血とかそういうたいそうな理由らしいが、よく分からん。


俺は岩場を飛び降り、いつもの川へ向かった。

川は森の命で、俺の遊び場で、時々は隠れ家でもある場所だ。

水辺にしゃがみ込んで、小石をひとつ拾う。

投げると、水面に落ちる寸前でぷくりと盛り上がった水膜が石を受け止め、逆方向へ押し返した。


「…… また俺に甘いな、水」


石は水膜に持ち上げられ、俺の足元まで転がってくる。

こういうのを見ると、なんとなく笑ってしまう。

水は――俺にだけ優しい。

それは幼いころから変わらない。

でも、それが“祝福”なのか“呪い”なのか、このときの俺はまだ知らなかった。


川に手を浸し、冷たい流れを感じていると、草むらがふわりと揺れた。

風なんて吹いていない。


小さな足音が――いや、足音がしなさすぎる何かが近づいてきた。

俺は振り返った。

そこに、白い猫がいた。


白、と言うにはあまりに淡い。

銀の光が毛先に散っている。

それなのに、地面の草一本も踏み分けていない。

足元の水も揺れない。


「……精霊?」


声に出してみたが、返事らしいものはない。


猫はただじいっと俺を見つめていた。

青く澄んだ目。だけど奥が妙に深い。


その奥で――


ピッ。


青白い線が、走った。

雷光の断片みたいな、微かな揺らぎ。


「……今、光ったよな?」


猫は小首を傾げ、唐突に倒れた。


「お、おいっ!?」


草の上にコテン、と倒れ込み、そのまましばらく動かない。

死んだのかと思って手を伸ばすと、何事もなかったようにむくりと起き上がった。


「……なんだそれ。心臓に悪いだろ」


猫は俺の周りを一周してから、川へ向かい――

水面に跳び乗った。


沈まない。

まるで空気の上を歩くみたいに軽やかに。


「やっぱり精霊……?精霊ならもっと気品あるだろ……なんなんだおまえ」


猫は相変わらず返事はしない。

ただじっと俺を見て、


――にゃぁ。


どこか耳に残る声をひとつだけ響かせた。


その鳴き声は、ただの猫のものにしてはあまりにも“強すぎる”気配を持っていた。


猫は森の奥、もっと深い方へ視線を移す。

そこには、子どもでも分かる“不吉”が漂っていた。

大人は決して近づかない。


魔が住まう村。


森の住民がそう呼ぶ場所だ。

呪術師がいるとか、異形が夜な夜な行進するとか、まあいろいろ噂はある。


猫はそこへ顔を向け――


ピッ。


また光が走った。


「……おまえ、俺を案内してるのか?」


試しにそう言うと、猫は――


こくり。


と、人間みたいに頷いた。


「うそだろ……?」


次の瞬間には自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回り始める。

いやどういうことだ。


「……変な猫だな。でも嫌いじゃないぞ」


猫は気にしていないのか、にゃあと一声あげて森の奥へ歩き出した。


ついてこい――そう言っているように。


**


猫についていくと、森の景色は徐々に変わっていった。

木々は古く、湿度が高い。

魔力が濃いのか、光がゆらゆら歪んで見えた。


俺は息をのみながら進んだ。


「……こんな場所、今まで来たことなかったな」


猫は時々振り返り、俺がついてきているか確認する。

その度に目の奥がチリッと光る。

あれはなんなんだろう。


水はずっと俺の足元を押し上げるように流れ、勝手に道を整えてくれていた。

まるで俺を守っているかのように。


森が開けた場所に出た時だった。


猫がぴたりと立ち止まった。

そして――

その視線の先には、奇妙な光があった。


「……光ってる?」


地面に、淡く脈動するような小さな球体。

“光る石”みたいに見える。

近づくと、石ではなく“結晶”だった。


透明で、内部に青い光が走っている。

まるで水の流れを閉じ込めたみたいな結晶。


「これ……なんだ?」


触れようとした瞬間。


――猫が俺の手に飛びついた。


「うわっ……?!お、おい、なんだよ!」


猫は爪も立てず、ただ必死に俺の手を押し返す。

拒むように、切実に。


その時、猫の目がまたピッと光った。


今度は短い光ではない。


青白い模様が、猫の瞳の奥で走り続けている。

まるで無数の線が交差し、何かを計算しているように。


「……おまえ、本当に何者なんだ……?」


猫は“触るな”と言うように俺から視線をそらし、

結晶を避けて森の奥へ進む。


そこは――


魔が住まう村の方向。


胸騒ぎがした。


でも、猫の尻尾は一切迷いなく揺れていた。

“行け”と導くように。


俺は深く息を吸い、歩き出す。


「……分かったよ。行けばいいんだろ」


水が足元でぽちゃんと跳ねた。

まるで背中を押すように。

猫は、にゃぁ、と優しく鳴いた。

その声は――未来のどこかへ、俺を連れていこうとしているみたいだった。


そのときの俺は知らなかった。

この猫が、時を越えて俺たちを“導く存在”だなんて。

そして、その瞳に走る光が単なる光として片付けていいものじゃないことも。


ただ――

俺は白い猫についていった。


その選択が、あの未来に繋がるとも知らずに。

最近、寒くなってきましたね。過ごしやすさと反比例に、私の執筆意欲が活性化していく。 ぜひ私の活動報告もご覧あれ。計画性皆無ですが、12月の予定を書いておいたので。来年はもっと見やすくします。

ではまた、第-3話で。

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