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死期近き王国  作者: まっちゃ
創る者・壊す者・観る者
23/28

第15話 光神虚無共存理想

静寂。世界が息を潜めていた。崩壊しかけた第零宇宙の残骸は燻ぶる灰のように漂い、ひび割れた空間はゆっくりと軋む。

それでもなお、ひとりの少女が立っていた。


アリア。

肩まで垂れた銀白の髪は微弱な光を宿し、ただ立つだけで“世界側”が彼女を中心に形を保とうと歪む。


人が神を拒むように、神も人を拒む。

その狭間にいる彼女は、どちらにも完全には向けなかった。


「……兄さんは、どうしてそんなに遠くへ行っちゃったの」


胸元を抑え、目を閉じる。脳裏に焼き付いて離れないのは、白髪の青年――ルシウス。

世界を、因果を、自分自身すら壊し、“虚無”へ落ちた兄の姿。


彼の背を追っているのに、辿り着いたのは“何もない世界の断面図”。

光景に慣れることはなかった。


「私は……普通に、ただ兄さんと笑っていたかっただけなのに」


しかしその“普通”こそ、彼女にはもっとも遠い。


アリアは光の器。

光神の適性を持つということは、世界の構造と共鳴し、世界を“定義”してしまう存在だ。

強くなるほど、人間であることから離れてしまう。


だからこそ――彼女は怯えていた。

自分が神になってしまうことに。

兄と同じ“孤独”まで辿り着く未来に。


「アリア」


名を呼ぶ声。振り返る。ひび割れた空間の隙間から光の粒子が滲みだし、人影が歩いてくる。


砂嵐を割って現れたその男は、黒い外套に影を纏った存在。腕に巻かれた痕は血か、穢れか。

しかし彼は笑って言った。


「驚かせたなら悪い。君ひとりがここにいるのは危険だよ、アリア・ヴェノム」


アリアは息を呑む。

――ヴェノム。

兄と同じ“本名”。知る者はいないはずだ。


「あなた……誰?」


男は肩をすくめた。


「どう呼んでも構わないが……影を紡ぐ者。操影者(そうえいしゃ)と呼ぶ者もいる。君の兄が虚無に堕ちる前から、世界の裏側で動いてきた存在だ」


敵か味方か判別できない。

だが彼の気配は光でも闇でも虚無でもなく、どこか兄の残り香にも似ていた。


操影者は世界の亀裂に指をかざし、軽くつつく。

その奥に別の光景が映る。


白髪の青年――ルシウス。

虚無を纏い、世界の層を壊しながら歩く姿。


「兄さん!」


駆け出そうとした瞬間、操影者の指が肩に触れた。動きが止まる。


「行くな。今の君が触れれば、虚無に呑まれて消える」


アリアは悔しさに唇を噛んだ。


「でも、私しか兄さんを止められない……!」


「違う」


鋭く断ち切る声。


「君は“止めるため”に光を持ったのではない。光は君自身を救うためにある。ルシウスのために使えば、君も彼と同じ場所に落ちる」


「そんなの分かってる! でも、兄さんは――」


「君が世界を救うんじゃない。君が救うのは“君自身”だ」


心臓が痛むほど跳ねる。

分かっている。分かっているのに、認めたくなかった。


「私は……兄さんを置いていけない」


「優しいな。だから君は光神に選ばれた。だが“優しさだけの光”は脆い」


操影者がアリアの目元に触れた途端、視界が白に染まった。


――瞬間、アリアの意識は別の世界へ引きずられる。


真っ暗な空間。

その中央に、幼いアリアがうずくまっている。


兄を追いかけ、泣き、置いていかれ続けた少女。

弱く、光神の器とは思えないほど繊細な自分。


「見ろ。これが君の始まりだ」


操影者の声が響く。


「君は臆病で、泣き虫で、ひとりでは歩けない子供だった」


「やめて……」


「光神になるとは“自分の弱さと向き合う”ことだ。覚醒のために必要な過程だ」


アリアは拳を握る。

幼い自分は怯え、こちらを見ていた。助けを求めている。


――私も、こんな表情をしていたんだ。


「怖いか?」


「……怖い」


「なら認めろ。孤独も恐怖も弱さも、全部だ。そうすれば光は君のものになる」


アリアは幼い自分の前に膝をついた。


「……大丈夫。私が、あなたを守る」


触れた瞬間、光が弾ける。

幼いアリアは光に溶け、大人のアリアへ吸い込まれた。


操影者が呟く。


「――これが覚醒だ」


世界が戻った。


アリアはゆっくりと立ち上がる。

瞳は先ほどまでとは違い、光の翼のような輝きが背から広がっていた。


「……アリナ」


操影者がその名を口にする。


「君は“光神アリナ”へと至った。存在も名も変わった」


アリナは光る指先を見つめる。触れるだけで空間のひび割れが修復される。


「これが……私の力」


「そうだ。これは“兄を追うため”ではなく、“君が生きるため”の力だ」


アリナは顔を上げる。

遠い虚無の彼方で歩く白い背中に向けて。


「私は行く。逃げるためでも、すがるためでもない。私自身の意思で……兄さんを追う」


操影者は静かに見送った。


アリナは世界の外縁へ向かって歩き出す。

その歩みは迷いなく、光は揺らぎもしなかった。


「――光神アリナ、か」


操影者はその名を反芻し、唇の端を上げる。


「ようやく、駒がそろい始めたな」


その声は、光でも闇でも虚無でもない――

世界のどこにも属さない意志の響きを帯びていた。

今話で第2章が完結です!!

第3章も見てくださるとうれしいです!! 多分作らないことはないでしょう。

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