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死期近き王国  作者: まっちゃ
創る者・壊す者・観る者
22/28

第14話 紫電一閃黄泉黒鳥 (後編)

1エピソードにしたら6700字あったので分けました。「分けないほうがいい」って意見があれば合わせたバージョンも作るかも。流石に前編後編のコピペだけにはしないですけどね。

Ⅳ.無慈悲な晩餐


――――風が止んだ。

まるで、世界そのものが息を潜めたように。


砂の海が暗色に染まり、荒野の中央にぽつりと立つ影があった。

ルシウス。神化の兆しをその身に宿し、白い髪を風に散らしながら立つ青年。


だが彼の瞳は、もはや“人”の色ではなかった。

銀に沈むような光。燃えもしないのに熱を帯び、凍りもしないのに冷たい。

どこにも焦点を合わせておらず、しかし世界全体を“俯瞰”している視線。


かつて彼が抱いていた優しさも、迷いも、怒りも――

そのほとんどが、神化の代償に溶けて消えた。ただ、”普通”でありたかっただけなのに。


あるのは創造者としての宿命と、

世界に存在する全ての“可能性への接続”だけ。


「……まだだ。まだ、届かない。」


呟いた声には、かすれた苦悶と、わずかな人間らしさの名残があった。

ルシウスはゆっくりと手を掲げる。


すると、空間がざわりと震えた。

彼の周囲には霧のような亀裂が走り、音もなく“別世界の断片”が滲み出す。


荒野の空が、静かに反転する。


上空では、黒鳥がゆるやかに旋回していた。

その存在は暗闇を裂かず、光にも触れず、ただ“あるべき場所にある”ように見える。

人々が見上げても気づかない――そのはずだった。


だが、ルシウスの目は一瞬だけ黒鳥を追った。


「……お前は、まだ言わないのか。」


黒鳥は鳴かない。ただ羽ばたきもしないまま、風に溶けるように移動した。

まるで、答える必要などないと言わんばかりに。


その瞬間、地面が爆ぜた。


遠方から疾駆してきた“何か”が一斉に襲いかかる。

形は獣に近いが、骨格は人に似ている。

影のように黒く、炎のように揺れ、金切り声をあげる――“喰らう者”。


世界の端で蠢き、崩壊を呼び込む存在。

だが、ルシウスの前では敵ではない。


一歩。

たったそれだけで、空気が変わる。


地表の砂が逆流し、天の光がねじれ、獣たちの動きが鈍った。


「無駄だ。」


白髪が舞う。

そのたびに、空間から細い裂け目が生まれる。

音のない雷光が走り、獣の一体が真っ二つに裂けた。


だが――血も肉も飛び散らない。

“概念”が削ぎ落とされるように、獣の存在そのものが消えた。


二体目。三体目。

振り返りすらしない。

ルシウスの動きはまるで舞いのようで、残酷なまでに整っていた。


まるで、世界が彼の手によって“編集されている”かのように。

黒鳥はじっとそれを見ていた。

しかし何も言わない。


そのとき――

砂の陰が、ぬるりと揺れた。


“影”が起き上がる。

人のようで、人ではない。

だが明確に“意志”を持った影の輪郭。


影の主――操影者。


ルシウスの背後に立ったその影は、声にならぬ囁きを漏らした。

言葉では理解できないはずなのに、意味だけが直接脳へ突き刺さる。


〈まだ早い〉

〈まだ、壊すな〉

〈まだ、食卓は整っていない〉


ルシウスは振り向かない。

ただ、一度だけ目を閉じた。


「……それでも、俺は進む。」


その言葉に、影が静かに形を崩す。

砂に溶け、風に散り、何事もなかったかのように消えた。


黒鳥だけが、わずかに羽を鳴らす。


戦いは終わった。

しかし、世界はますます静かに“死へ近づいていく”。


ルシウスの白髪が、月光のように冷たく揺れていた。


――――無慈悲な晩餐は、まだ始まってもいない。


Ⅴ.終わらぬ輪廻


夜ではない。昼でもない。

光の死骸が降り注ぎ、闇の残響が風に溶ける――ここは、かつて“第零宇宙”と呼ばれた場所の末路。


白髪の青年がただひとり、その廃墟に立っていた。

ルシウス。

神化によってその身はひとつの“原理”と化し、彼が息をするだけで世界のひびが震えた。


(――ここには…もう何もない。だが、終わりでもない。)


彼の掌に、淡い蒼い光が灯る。

それは祈りにも似た、世界再生の火種――しかし揺らぎ、消えかけては戻り、まるで意思を持つように震えていた。


その震えに応じるように、空が裂ける。


黒い影が一羽、降りてきた。

黒鳥。

ただの観測者とも思えず、しかし敵とも味方とも形容できない“揺らぎ”。

光の残骸が黒い羽に触れた瞬間、まるで拒絶されるように消滅した。


ルシウスは視線だけを向ける。


「……また来たのか。

 お前は何を見ている?」


黒鳥は答えない。

だが、返事の代わりに羽根が一枚、彼の前に落ちてきた。

触れようとした瞬間――世界が裏返る。



場面が切り替わる。

砂漠。

水の奔流が天へ逆巻き、地をえぐい取る。

中心にはルプスがいた。

サイスを引きずり、水の神として覚醒しながらも、心は人のまま。


「どこまで……くるんだよ、アンデッドども……ッ!」


砂丘の上から、朽ちた兵が雪崩のように溢れ落ちる。

骨が砕け、肉が剥がれ、血が沸騰し、再び立ち上がる。

死の意味をとうに捨てた者たちが、彼の覚醒を喰らおうと群がる。


ルプスはサイスを横薙ぎに振る。

水の刃が洪水のように奔り、群体の上半身をまとめて断ち切る。

だが倒れない。

骨を失った者は肉を這わせ、肉を失った者は影となって襲いかかる。


(……ルシウス、お前の気配が……遠い。)


彼は空を見上げる。

ひび割れた天の隙間から、ひとつの黒い影が横切った。


黒鳥。


それが何を意味するか、ルプスは知らない。

だが――“世界に外側がある”ことを、薄く察していた。



同時刻。研究塔。


アリアは震える指を止め、静かにページを閉じた。

白衣は血に濡れ、涙で重たくなっている。

崩壊の音は塔の外から、ほとんど途切れず響いていた。


「……ルシウス、ルプス。

 あなたたちの軌道が、今日は交わらない。

 でも――」


天井が軋み、黒い羽がひとつ、彼女の足元へ落ちた。


「……あなたも、見ているのね。黒い鳥さん。」


その声は震えていたが、恐怖だけではなかった。


「教えて……。

 私たちは、いつまで“見られ続ける”の……?」


返答はない。

けれど、塔の内部に“誰かの影”が揺れた。

操影者。

黒鳥よりも深い闇。羽根すら持たず、形も定かではない。


しかしアリアはその気配を“理解できてしまった”。


(……この影は、私たちの敵じゃない。

 でも味方でも……違う。

 まるで、道を整えているだけみたい。)


塔の奥で、記録媒体がひとつ、淡く光った。

まるで“輪廻の始動スイッチ”のように。



再び、崩壊の中心――ルシウス。


黒鳥は彼の頭上を旋回し続ける。

その軌道は、ルプスともアリアとも違う。

世界に属さない何者かの動き。


蒼い光が、ルシウスの掌で震え、そして強く脈打った。


「……見ているなら、教えろ。

 俺たちは……“またやり直す”のか?」


黒鳥の影がその瞬間だけ、わずかに揺れた。


まるで――

「そうだ」と頷いたように。


世界が震え、ひび割れから光が噴き出す。


そして黒鳥は静かに羽ばたいた。

その羽ばたきが“終わり”の合図なのか

“始まり”の鼓動なのか

誰にもわからない。


だがただ一つだけ確かだった。


――この物語は終わらない。

――輪廻は止まらない。

――観測される限り。


ルシウスは白髪を揺らし、崩壊する宇宙に向き合った。


(……まだ続くのか。

 ならば――俺は進む。)


黒鳥が鳴かずに去る。

しかしその影の奥に、より深い“操影者”の気配が潜んでいた。


世界は、また廻り始める。

それではまた、第15話で。

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