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死期近き王国  作者: まっちゃ
創る者・壊す者・観る者
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第14話 紫電一閃黄泉黒鳥 (前編)

こんにちは。まっちゃです。

タイトルの読み方は『しでんいっせんよみがらす』です。

それと、ローマ数字を使用しているのですが、環境依存なのでもしかしたら正確に反映されないかもです..

各章のサブタイトルの数字はすべてローマ数字だと思ってください。

Ⅰ.幻影貫く閃光


――世界にはまだ、死が足りない。

誰が言ったのでもないその声は、風の隙間に紛れ、空へ溶けていく。ひび割れた天蓋の合間を、色彩の抜け落ちた影がすべる。夜より黒い羽。光を拒む双眸。だが、それを鳥と呼ぶにはあまりに異質だった。黒鳥――いや、黒鳥の形を借りている“何か”。


滑空は音さえ置き去りにし、ただ観測だけが目的であるかのように、影は沈黙のまま世界をなぞる。

それはどこにも属さず、しかしどこかへ従っているようにも見える。影を操る者――“操影者”の意志を帯びているのか、それともまったく別の目的を秘めているのか。誰にも、黒鳥自身にも、その答えは落ちてこない。


ひび割れた大地の上。

ひとりの青年が歩いていた。“創る者”と呼ばれる存在。静かな熱を抱きながら、世界の形を調整するためだけに進むその背は、人ならざる孤独を背負っている。

黒鳥はその肩越しに漂う残滓を読み取る。(……未完成。)

それを哀れむでも、嘲るでもなく。まるで、自分の“計画”の一部を確かめるような、淡々とした観測。


次に黒鳥の視線は、別の荒野を切り裂く疾走へ向けられる。

砂丘を吹き荒らす灰風の中、水気を纏って駆ける影があった。“壊す者”の力を宿しながらも、破壊ではなく守るために走る青年。怒りの熱よりも切迫した使命感の気配だけが、彼の体温を形作っている。

黒鳥は降りない。近づけば、均衡が崩れる。変えるつもりは、まだない。

(――疾く。だが、お前も間に合わぬ。)

心の声は風に飲まれ、砂へと吸われていった。


そして、さらに遠く。

螺旋状に歪んだ空間の中心、研究塔の奥。白衣の少女が震える指でページをめくり続けている。“観る者”と呼ばれながらも、まだ何も見通せていない不安が背中に滲んでいた。

(……その答えに触れるのは、お前ではない。)

黒鳥は囁くように口をわずかに開くが、その声は少女へ届かない。届かせる気がない。ここでもまた、ただ観測だけが黒鳥の仕事だ。


三つの点は、決して交わらぬ軌道のまま動いている。

だが世界は彼らの意思など待たない。崩壊は手順を飛ばし、強引に形を変えようとしていた。

黒鳥は三点を見渡しながら、自分がどれにも属していないことをふたたび確認するかのように羽をすぼめる。操影者の意図を反映しているのか、自分自身の判断なのか、その境界は曖昧で、霧に似ている。


(さて……今日の“観測”はどこから始めようか。)

それは独白か、報告か、あるいは誰かへの呼びかけなのか。黒鳥の嘴が開く。鳴き声ではない、意味を帯びた音がこぼれ落ちる。

「幻影はまだ散らぬ。ならば――閃光はここからだ。」


その瞬間、ひび割れた空が音をあげて震えた。

紫電が奔り、世界の縫い目を貫く。雷ではない。魔法でもない。世界そのものが発した“予兆”。

黒鳥はその中心へ、音なく滑り込む。導かれるようにでも、命令されているようにでも、まるで自分が望んでいるようにでも見える曖昧さを抱えたまま。


紫色の閃光が収束する刹那、影は世界へ溶けるように消えた。


観測が始まる。

それが、救いのためなのか、破滅のためなのか――

今はまだ、誰にも分からない。


Ⅱ.疾駆の影狩人


――砂が哭いていた。


荒れ果てた砂丘の上、灼けた大地を切り裂くようにひとつの影が駆ける。

ルプス。水ノ神(オケアノス)としての力を背に負い、乾いた世界に似つかわしくない蒼い残光を尾のように残して走る。

彼の足元には一滴の水もない。それでも砂は溶け、蒸気を上げ、蹴り上げられた瞬間に水滴へと変わり、蒸発していた。


(――間に合え。誰かが、呼んでいる。)


呼んだのが何者なのかは分からない。ただ胸の奥で、世界そのものが悲鳴を上げているような感覚が渦を巻いていた。

蒼い閃光は砂の海を裂き、ルプスは目指して走る――遥か彼方、崩れた塔の残骸が黒い風を吹き上げている場所へ。



同時刻。

黒鳥は大地のずっと上――壊れかけた雲の裂け目から、その走る影を見下ろしていた。

羽は夜より黒く、しかし光を吸い込むように淡い紫の線を帯びている。


(……やはり動いたか、蒼き狩人。)


だが黒鳥はルプスへ降りることはしない。触れればルプスの軌道は変わり、物語は狂う。それが“観測者”の掟。

代わりに視線を別の方向に向ける。


ひび割れた空――その向こう、裂け目を抜けた最深部。



第零宇宙の残骸。


そこに、青年が立っている。

神となり、なお人間であろうとしている存在――ルシウス。

足元には砕けた世界の破片が散り、そのひとつひとつが微細な光を放ち、彼の周囲を漂う。

だが彼はそれらを見ていなかった。もっと遠く、世界の底に眠る“何か”を見つめている。


(……まだだ。まだ届くはずだ。)


淡白な決意。

闇でも光でもない、中立の色を漂わせるその瞳は、かすかに震えている。


黒鳥はその姿にも降りない。

近づけば“均衡”が壊れる。



さらに遠く、もう一つの場所。


白い塔を失い、天井のない研究区画。

そこで白衣の少女――アリアは、ページをめくる指を止めていた。


「……この揺れ、また強く……?」


机上の書物から立ち上がる魔力の糸が、微かに紫色に変わる。

その色は――あの黒鳥の羽の線と同じ色。


アリアは気づいていない。ただ震える紙をそっと押さえ、息を整えた。

この揺れが、塔全体ではなく、世界そのものの痙攣だということを。

アリアの瞳には決意が芽生えつつあった。恐怖よりも強い、淡い光。



黒鳥は三方向の光景を俯瞰する。


(――創る者、壊す者、そして揺らぐ者。

 軌道は交わらぬまま、まるで誰かが配置したように動く……ふむ。)


不意に、黒鳥の身体が一瞬だけ揺らいだ。

砂丘の上。

ルプスの走る軌跡の先――そこに、“見えない歪み”が立ち上がった。


「……操影者の気配か。」


黒鳥は声とも音ともつかぬ波を放ち、砂漠全体がわずかに震える。

だが干渉はしない。ただ“兆し”を読み解くだけ。


やがて、砂丘の向こうから黒い煙柱が上がり、熱風が爆ぜる。


ルプスの走る速度がさらに上がった。

蒼い残光は一本の刃のように鋭く、砂の海を裂き進む。


(――狩人。

 その先で待つものは、獲物か、それとも……。)


黒鳥の瞳に、紫の電光が走った。


―――世界がまた一つ、軋む音を立てた。


Ⅲ.蘇りし闇の息


――世界が、どこかで息をした。


黒鳥はそれを、最初のわずかな”揺らぎ”として感じ取った。

風が吹いたわけではない。地が震えたわけでもない。

ただ、存在しないはずの何かがこの世界の下層で呼吸したのだ。


(……動き始めたか。)


黒鳥は声を漏らさない。

その思考は、音のない雷のように空間を震わせただけだった。


ひび割れた空の向こうで、まず動いたのは“創る者”だった。

崩れた城壁の上、ルシウスは目を閉じ、静かに掌を掲げている。

何かを壊すためでも、創るためでもない。

彼はただ――世界を”感じて”いた。


紫の亀裂がひときわ強く輝き、風もないのに彼の白髪が揺れる。


「……来たか。」


彼は呟く。

だが、その声の主でさえ、まだ”何が”来ようとしているのか正確にはわかっていなかった。

ただ、世界の底で蠢く何かが、彼をまっすぐに見つめ返しているのを感じる。


黒鳥は、彼の背を見据えたまま、

ふわりと滑空し、次の場所へ目を向けた。


――蒼い奔流が砂丘を切り裂いた。


ルプスだ。

風の代わりに水が吹き荒れ、砂が削れ、地形そのものが歪むほどの圧。

だがその眼差しは攻撃ではない。


「……この気配。さっきより濃い。」


水の神である彼の周囲で、空気が重く沈む。

見えない圧が、肌を押しつぶさんばかりに降りかかる。


遠くの地平で、黒い霧が蠢いた。

まるで、誰かの呼吸と同期しているように。


(……まだだ。まだ形にはならん。)


黒鳥はその光景を“観測するだけ”に徹した。

近づきすぎれば、彼らの運命を歪めてしまう。

干渉しすぎれば、物語が折れてしまう。


そして、もう一人――


白い光が、研究塔を満たしていた。


アリアは震える指で魔導書を押さえつけ、

眩しさに目を細めながらページをめくる。


「……また値が跳ね上がって……世界の圧が不規則になって……」


言いながら、彼女の肩がぴくりと震える。

その瞬間、塔の壁に黒い”斑点”が現れた。

カビではない。影でもない。

まるで、世界の裏側から染み出した血痕のような形。


アリアはゆっくり後ずさる。


「……いや……これは……まだ観測されてない領域の……」


黒い斑点は、呼吸していた。

生き物のように脈打ち、じわりと広がる。


それは”闇”ではなく、

この世界が壊れていく過程そのもの。


アリアの胸が小さく波打つ。


「誰……? 誰が”ここ”まで来ているんですか……?」


その問いに、誰も答えない。

ただ、黒鳥だけが知っていた。


(違う……”誰か”ではない。

これは……世界そのものの、死体だ。)


世界が死ぬときは、まず”息”をする。

その息が、斑点として現れるのだ。


闇の息吹――蘇りしもの。

かつて滅んだ世界の残滓が、別の世界線に侵入し始めた証。

黒鳥の視線がさらに鋭くなる。


(……焦るな。まだ”影”は完全ではない。

彼らはまだ戦える。)


彼は翼をゆっくりと開き、

闇の裂け目の最上空へと舞い上がった。


ルシウスの沈黙、

ルプスの警戒、

アリアの恐怖。


三つの気配が、同じ一点を示し始めていた。

世界の深層に潜む、

”まだ名前すら与えられていない影”の胎動を。

黒鳥は、まるでそれを歓迎するかのように、

かすかに嘴を鳴らした。


「―――闇が息を吹き返したか。

ならば……この章も愉しませてもらおう。」


その声は誰にも届かない。

届くべきでもない。


ただ、闇の底で蠢く影だけが、

その言葉に—ゆっくりと、応えた。

空気が震え、世界がひとつ、深く呼吸した。


黒鳥は再び滑空を開始した。

観測者でもなく、創造者でもなく、ただこの瞬間を嗤う存在として。


――世界は、まだ死にきっていない。


長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。それではまた、後編で。

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