第13-3話 世界破滅組曲序章・壊
世界破滅組曲序章もいよいよ後半。まあ、お察しの通り、弐章、参章..終演とありますがね。
フォーローン王城・地下第参会議室
錆び切った鉄のにおいが漂う室内に、無機質な電子音が響く。
「各地で同時多発的に”空間の歪み”発生。原因、依然不明です。」
ホログラムのスクリーンに映る世界地図が赤い警告色に染まりきっている。
だが、その異常の中心にいる”彼”を前に、政府上層部の者どもは怯えの影すら見せなかった。
むしろ、財宝を前にしたように目を輝かせていた。
「――やはり、ルシウス・ヴェノムか。」
「現象の中心にいる。アレを制御できれば―――兵器として使える。」
「捕獲しろ。脳だけは破壊するな。」
世界の崩壊すら、彼らにはただの研究材料であった。 その時――
―――バキィッ。
会議室の壁に、目に見える亀裂が走った。世界そのものが衰退していく結果、生まれたようなひび。兵が駆け込み、息を切らして叫ぶ。
「じ、城外に..未知の波形!! 測定不能!!! 」
照明が一つ、二つと落ち、半暗闇の中に”一つの光”が現れた。
「..僕を呼んだのは、君たちかな? 」
ルシウスだった。
「総員!戦闘準備!!」
兵たちが魔方陣を展開する。
が―― 紋様は砂のように儚く散った。
「なっ..」
「撃てェッ!!」
銃声。しかし、銃弾はルシウスに届くこともなく、床へ転がる。
ルシウスは淡々と進む。無防備。だが、彼に近づけば近づくほどに後退させられる。それは世界に接触を拒否されているようであった。
傷は一つもない。 ただ後退するだけ。
「君たちを傷つけるつもりはないよ。」
その声色は静かなものだった。しかし、一瞬にして場の視線を搔っ攫うほどには冷酷で、悲しげであった。
「でも..世界が壊れ始めた原因を、しっかりと理解してほしい。」
兵の剣が彼を真っ二つに―――――することはなかった。剣は影となり、実体がなくなった。瞬間、”刃”が消えた。
”刃”だった影を見下ろし、ルシウスは呟く。
「これは僕の力じゃない。」
哀しい眼をしたルシウスは淡々と告げた。
「”終焉”が形となって現れているだけだ。」
兵が後ずさる。その顔は真っ青に染まっていた。だがルシウスは歩みも、語りも止めることはしなかった。
「それもこれも全部、君たちの計画がなければ、こんなことにはならなかったのにね。」
言い終わると同時に、天井は爆ぜ、壁が歪み、床は虚無となっていく。崩壊は冷徹に、暴力的に政府を追い詰めた。
「キ..貴様ッ!! 世界を..世界をどうするつもりだ..!」
震えた叫び。嘲笑うように振り返ったルシウスは告げる。
「どうもしないよ。ただ―――――本来の姿に戻るだけさ。僕も、世界も。」
その瞳に、ようやく政府の者は気づく。 ―――自分たちが、この美しく儚い世界を崩壊させていたと。
ルシウスの周囲だけが淡く揺らぎ、捻じ曲がっていた。震える兵が剣を握りしめにじり寄る。が、触れる前に消滅した。いや、”存在を保てなかった。” ルシウスは小さく息を吐く。
「邪魔はしないでくれ。僕は..終わりに向かっているだけだ。」
その声には、瞳には、語る背には、怒りも殺気も感じなかった。哀しさと冷たさを背負った彼からは、淡々とした静けさが漂っていた。彼が会議室から一歩踏み出した瞬間、王城は爆ぜた。破片が消滅した。もとから城なんてなかったというように。
決着はつかない。 戦いですらない。しかし、間違いなく国は負けた。
―――そうして、フォーローン王国は死を迎えた。




