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第13-0話 世界破滅組曲序章・暁
世界は、気づかぬうちに音を失っていった。
最初に崩れ落ちたのは、記憶だった。
誰のものでもない、世界そのものが抱えていたはずの記憶。
あるはずの名前が薄れ、語られるべき歴史が穴をあけていく。
その“空白”は、静かに、まるで夜明け前の風のように広がった。
やがて、ひとつの宇宙がひっそりと音を立ててひび割れる。
第零宇宙―――かつて、誰かがそう呼んだ場所。
名を持たず、記憶もなく、祈りさえ忘れられた最初の空間。
その崩壊は、終わりではなく始まりであった。
世界線は歪み、時間は縺れ、真実はその姿を変える。
何も知らぬ者たちが、同じひとつの“暁”を迎えようとしていた。
この物語は、ただの並行では終わらない。
幾つもの視点は、ひとつの破滅へ向かって重なりあう。
それは調和ではなく、断絶でもなく―――
数多の世界が奏でる、最後の組曲。
ルシウスも。
アリアも。
ルプスも。
フォーローン王国も。
そして、観測者ですら。
誰も知らぬまま、世界は“暁”に立っていた。
舞台の幕が、いま、上がる。
―――――11月31日。世界が崩壊を始めた。




