第11話 絶滅理想・電脳世界
こんにちは。まっちゃです。今章からは戦闘描写が多くなり(予定)、ややグロテスクな表現が出る可能性もあります。お気をつけてください。 杞憂に終わるかもしれませんが。
崩壊していく亡骸と纏わりつく悪臭を背に、俺は溜息を一つ吐いた。近年、再びアンデッドによる死者が増加していた。単に数が増えていたのもあるし、何より奴らの知性が上がっているのだ。俺たち人間のように集落を作り、群れのルールを作り、団結し、装備をも作った。
「――面倒だなぁ」
目の前には広大な草原と、それを埋め尽くすほどのアンデッドの軍隊が広がっていた。俺が今いるのは崖の上。奴らは来れない。しかし、俺の攻撃も届かない。結局降りなくてはならない。溜息を吐く。 ―――目を見開き、勢いをつけて崖から飛び出した。大鎌を構えて着地する。瞬時にその場のアンデッドは消滅した。雫が宙を舞う。群がるアンデッドどもにサイスを一振り、二振り。瞬く間に奴らは霧散した。だが何かがおかしい。
―――――――――全く当たっている気がしない。
斬っているのに斬れず、触れているのにあたらない。
(またか..)
背後で気配がした。
俺はサイスを握りなおす。溜息を一つ。あの再生能力―厄介だ。昔は、ルシウスがこちら側にいたときは、こんなことはなかった。今では全アンデッドが当たり前のように復活してくる。復活回数は個体によってさまざまで、体格が大きいものや能力を使用してくる上級アンデッドは回数が多いようだ。 奴らの復活を阻止する手段や方法は、現状一つもない。
(どうすればいいんだ..?このままじゃキリがないぞ..)
再生中の死体にサイスをふるっても全く効かない。せっかく水ノ神へと神化して、水属性の鎌を手にしたというのに。クソが。 ――いや、もしかしたら、水ノ神自身の能力なら再生阻止できるのかもしれない。ただ、今は試す暇がない。今はこの場のアンデッドを滅することが最善だ。
そして、場の数の4倍ほどアンデッドを駆除し、一息ついた。
「終わった..――!?」
言い終わりきらないうちにあたりに轟音が響き渡る。空気が重みを増し、邪悪なものに変わった。地面には亀裂が走り、赤黒い光が漏れ出る。 ――巨大な手が出てくる。手は地面を握り、もう一方の手を出し、地面を掴む。やがて巨大な頭を地面からのぞかせた”そいつ”はもはやアンデッドではなかった。
「っ――――!?」
言葉にならない悲鳴を上げた俺は、瞬時に逃走を試みる。 ―――が、相手のほうが一手早かった。
「ぁ..っ..――」
言葉が出ない喉で悲鳴を上げた俺は血を吐いた。助けを祈る。もちろん、周りには誰もいなく、何もない。草木は枯れた。 意識が朦朧とする。最後に俺が見たのは、3対の純白の翼を背中にはやした熾天使だった。その姿は光のように眩しく、それでいて、どこか懐かしかった。
目を覚ましたところは病院だった。あの日、熾天使に連れられた、あの場所だった。
(また、あいつが..?)
「あ、目を覚まされたのですね!」
銀髪の少女..アリアが笑顔で話しかける。いくら俺を照れさせれば気が済むんだ。ただ、その笑顔があってこそ安心するのもまた事実だった。
「無茶はいけないって、何回言えばわかるんですか~。」
”もうっ”と頬を膨らますアリア。適当に返事をし、俺が眠っていた間の状況の説明を求めた。
―どうやら、俺が寝ている間には大きな被害はなかったようだ。時折、ルシウスが俺のもとを訪れ、回復魔法を付与してから空間に裂け目を生み出し、異空間へ帰っていったという。 まったく。昔から変わらないな。
■?ス・○★ト!ア。誰も知らない、”データ”だけの空間。
そこはルシウスと数多の電子生物が共存している空間だった。限りある――無限の虚無が広がり、煌びやかに瞬く星々。全てが存在し、全て存在しなかった。 それでも――この異質な空間は不思議と心地よいものだった。ルシウスは多くの電子生物を手懐け、数々の世界線から連れてきた強力なアンデッドを自らの配下に置いた。 ルシウスはすべてをデータ化した。来る決戦のために。
「ルプス。 ――――君に会うのが楽しみだ。」
『ルプスさんの体調が回復して、はや三日。特に大きな被害もなく、ルプスさんを瀕死に追いやった巨大なアンデッドも、跡形もなくなっていました。最近は平和でいいですね。
......でもルシウス様はいつになったらヒトに戻ってきてくれるのでしょうか? 私は早くあなたに会えることを楽しみにしているというのに..。
30XX/05/34 アリア』
日記をつけ終え、私は静かに眠りについた。
■ィス・○★トピ!。
静寂に包まれた虚無の中、ルシウスは一羽の鴉を放った。その翼は光の粒子をまき散らし、迷うことなく、彼らの元へと羽ばたいていった。
―――――――パリンッ!!
突然の音に目が覚めた。視界に広がるのはあの日の光景――。 ――割れた窓ガラス。部屋の中央に浮かび、淡く脈動するオーブ。佇むカラス。 ただ、もう――――そこに”あいつ”はいなかった。代わりに一通の手紙が舞い降りた。差出人を理解するのに、そう時間はかからなかった。
震える指先で、封を切る。
『やあ、ルプス。調子はどうだい?
ところで、 ――――――――この世界はもうすぐ滅びる。』
冷汗が頬を伝う。指の震えが強まる。カラスを睨みつけた。 ―――その瞳はまばゆい金色と、禍々しい紫紺をしていた。
窓の外にノイズが走る。
あいつはもう―――動き出している。拠点の周囲を囲むアンデッド軍。しかし、その全てが実体を持っていなかった。かすかに漂う電子音。揺らぐ輪郭。電子生物。
――上等だ。やってやろうじゃねぇか。
俺は立ち上がり、サイスを手に取る。ノイズが現実を侵食し、空間が歪む。捻じ曲がった景色の中、俺は滑り込むようにアンデッドに奇襲を仕掛けた。
サイスが水しぶきを上げ、湿った音が跳ねた。散った雫が空間に静止し、アンデッドが一瞬、怯む。その隙を突き、能力―――”時空”。歪む景色、吹きつける風、うめき声、鼓動。
――――その全てが 停止 し た。
止まった世界の中、俺の鼓動だけが響く。
――重い。動くたびに、潰されそうになる。骨が、体が、悲鳴を上げている。これが”時空”―――力の代償が、これほどとは。
止まった空間の中、絶えずノイズだけが蠢いていた。拠点に置いてあったノートパソコンを取りだす。あいつが大切にしていたそれを膝に乗せ、目の前の電子死者にハッキングをかける。
俺の指は震えているが、キーボードを叩きつけ続けた。がむしゃらに、的確にコードを打ち込む。
画面に走る数多のノイズ。プログラムが破壊され、ログが欠け、コードが崩れる。だが慌てない。あいつのことは俺が一番わかっている。少なくとも、今のあいつよりは。 モニターの隅で電子死者の輪郭が揺らいだ。もう一度だ。もう一度、打ち直せ。
―何分が経過しただろうか。電子死者は大多数が消え去り、俺の体からは血が噴き出ていた。だが、ここで”時空”を切るのは死を意味する。やめるわけにはいかない。俺のためにも、あいつのためにも、仲間のためにも。 ――――やがて、奴らの中枢へと辿り着く。現れたのは、あの時の巨大なアンデッドだった。だが、もう臆しない。
コードを打つ。 ―無効。 やり直す。 ―無効。
「クソっ..!!」
ありえない..ありえないはずだ。このコードが無効になるなんて。誰かが介入しない限りは。 ―俺が打ったコードは、すべて瞬時に置き換えられていた。並ぶ英単語。そのすべてが目の前の奴に対するバフだった。
―――が、それは突如として消えた。 ―いや違う。このPCを介して、”何者か”と”何者か”がコードを上書きしあっているんだ。直後、気づき、俺は青ざめた。上書きを上書きし、意図的なエラーを起こしている者。それはルシウスであった。そのコードが、その現実を告げていた。 歪んだ空間が、ねじ曲がった現実が、元通りになっていった。
―正確には違う。この壊れ切った現実も、歪んだ存在も。全てがルシウスの手中に収められようとしていた。
今日は30XX年05月36日。あいつとの決戦までまだ1年以上もある。何故だ。何故あいつはもうこちら側に手を出している?5月。36日。何かにルシウスにとっての因縁があるのだろうか? ―体中に痛みが走る。ああ、そうだ。今は”時空”は必要ない。あまりにも代償がでかすぎる。ここはいったん帰って―――。
もう、またですか..。 あれほど無茶はするなって言ったのに..。今ではルプスさんだって大切な仲間なんですから、失うわけにはいかないんですからね? ..あっ、起きた。
「おはようございます。ルプスさん。しっかり治療しておきましたよ。」
そういうと、顔を赤らめながらも「ありがとう」と呟きました。可愛いですね。ルプスさんにはしっかり生きてもらわないと私、困っちゃいますからね。
アリアの笑顔。その瞳には冷酷な炎が宿っていた。
更新が遅くなってすみません!!
2章では”1章で出てきたけど全く触れられなかった奴ら”とかをしっかり描写したいと思っています。
ではまた、第12話で。




