第8話 憑依されし神
■■にて。
■■■■■ :フォーローン地区殲滅計画を実施する。
■■■■ :了解しました。しかし、本当にいいのですか..?
■■■■■ :なんだ?躊躇っているのか?
■■■■ :躊躇っているわけでは..ないんですが..あの国には、極めて強力な能力を持った者がいると聞いていますので。
■■■■■ :冗談はやめたまえ。そんな魔力を持っているものはあの国には一人たりともいなかった。1柱ならいたけどな。
■■■■ :了解しました。では、実施いたします。
ルシウスが行方不明になって数日。3"Cでは、混乱に陥っていた。
「ルシウスが消えた!!!」
「あいつがいないとこのチームは破滅するぞ!!!!!」
「全員、急いで探せ!!」
今の世界線でルプスは”時空”のオーブを喰っていない。それが意味することはただ一つ。ルシウスの救出は絶望的であるということだけであった。
2"Bにて。この世界線でもルシウスは行方不明であった。
「怪我を負っていた少年が消えました!!」
「消えた..だと..?」
「はい。文字通り、跡形もなく。」
「―――もしかしたら、魔族の仕業かもしれんな。」
「魔族、ですか?」
「奴らは自分と同等、またはそれ以上の能力持ちを攫い、自らの駒にするか、相手を取り込み自分の能力にする習性がある。しかし、こんな例は極めて稀だ。もしかしたら、世界初かもな。」
(彼、大丈夫かな..?)
■"■にて。
町は行き交う人々でにぎわっていた。 ――のも束の間。突如、上空に禍々しい紫色をした魔方陣が描かれた。魔方陣から魔物が召喚され、 ――ほぼ同時に、道や建物はもちろん、一部の人々は爆散した。町はパニック状態に陥り、我先にと逃げ出す人々を魔物は喰らい、兵器は殺戮していた。――30分ほどが経っただろうか。あたりには血の海が広がり、魔物は血液を啜り、殺戮兵器はバッテリーが切れたのか、1mmたりとも動かなかった。 人々は光の支配者に助けを求めた。
―しかし、ここにもまた、彼はいなかった。行方不明ではない。この世界には、”光”という概念そのものが存在していなかった。
■"■、フォーローン地下。
「やりましたね。」
「ああ。上出来だ。しかし、あのバケモノは何だ?」
「それは僕にもわからないですよ..」
「確かにそうだな。すまない。」
「いえ、お気になさらず。」
「とにかく、あの存在は我々の計画には不要だ。排除せねば。」
「ええ、調査によれば、あのバケモノは――に弱いと。」
クソッ、1番大事なところが聞き取れなかった.. 悔しいが、ここは撤退すべきだな..
「何か物音がしませんでした?」
「そうか?気にしすぎだと思うが。」
「そう..ですかね。」
「ああ。気にするな。」
3"C。
先日まで戦場と化していた地には、背に大きな翼をはやした人物が浮かんでいた。その真下には、その手下と思われるアンデッドが隊列を組んでいた。
「やあ、ルプス。この世界では戦狂神だっけ?」
(こいつ..ルシウスなのか? なぜいきなり自らの能力に気づいた? だが、考えるのは後だ。とにかく目の前のアンデッドを殲滅しなければ。さもなくば――。)
「さもなくば?どうなるのかな、ルプス。」
「―っ!?」
「お前―――――。」
ルシウスが何か耳元で囁いたが、脳が理解を拒んでいた。しかし、体が動かない。魔法か..? いや、あいつに魔法系の能力はない。強力な心臓でも取り込まない限りは、だが。しかし、思い当たる節がない。別世界の人物を取り込んだのか?それだと辻褄が――――
「行け。」
あいつの冷酷な命令が響く。軽く7,000は超えるであろうアンデッドの群れは、まっすぐ俺に向かっていた。前列には武装者が。中列には弓使いが。後列にはウィザードが。隙なく並び、襲い掛かってきていた。
「クソッ..こんなことになるならあんなオーブ、使わなければよかったなぁ!!!」
1体1体キルしていくのは無謀が過ぎる。しかし、何体も引き付けていたところできりがない。
(アレを使うしかないな。) ルシウスが死亡する分岐での、あいつの最期の技。最大エネルギーを自分にぶつけ、自らの命もろとも敵を殲滅する。相手がただ強い、小数体なら敵にぶつければいいが、そうは言ってられない。3分の2ほどは遠距離型だ。作戦がばれれば距離をとられる可能性が高い。ならば、ここで爆発を起こし、全体を巻き込めばいい。そう思い、地面から3mほどの地点で俺はエネルギーをためる。 全エネルギーを集中させれば、ここを中心に半径10kmほどは簡単に滅ぶだろう。
(じゃあな。ルシウス。別の世界軸でも逢えたらいいな。)
9割ほどエネルギーを出しただろうか。ふと、アンデッドの様子を見る。
―あいつがそんな隙を見逃すはずがなかった。気が付くと、あいつは銃口を突き付けてきていた。その銃は光だった。冷汗が流れる。背筋には寒気が走る。エネルギーは途絶え、地面に倒れこむ。奴らは一斉に俺にとびかかってきた。
―はずだった。目を開けると、そこは殺風景な白みがかった部屋だった。
(病院..?)
そんなはずはないと、お前は死んだんだぞと、直感は語りかけてくる。しかし、脳はこの場を病院だと認識している。天国がこんな場所でたまるか。地獄なら尚更たまったもんじゃない。
「あ、目を覚まされたのですね。」 そこには銀髪の少女が立っていた。年は同じくらいだろうか。身にまとった、純白の制服から、看護師なのだとわかった。しかし、誰が、なぜ俺を此処に?
―聞くと、背に翼をはやした者が俺を運んできたという。その眼には禍々しさの様なものはなく、純粋に心配をしているようだったと。 ―なぜルシウスが俺を? あいつは俺の敵として、目の前にいたのではないか。アンデッドを俺に向かわせた理由は? ―わからない。何一つわからない。そもそもルシウスが敵として立ちはだかるのがおかしい。あいつは正真正銘の”神”だ。アンデッドを従える必要はない。それに、あいつほどの魔力を保持しているのに従えることができるものなんてこの世に一人としていないだろう。
ひとまず、あいつに立ち向かうためにも、この少女は味方につけていたほうがいい。そんな気がした。どんなものにだって、回復は必要だ。その道のエキスパートであるこの少女は間違いなく味方側にいてくれたほうが嬉しい。
「その..唐突で悪いんだが..」
「..? どうなさいました?」
異性と話した経験がないことがバレてしまう..
「いや、その、俺の味方になってくれないか?」
愛を告げたような空気になり、恥ずかしさで爆散したくなった。
「..」
「あ、急にこんなこと言われてもわかんないよな。すまん。」
何とか落ち着きを取り戻す。
「いえ、実は私、――」
―――あなたをここにつれてきた張本人、ルシウス様についているので。
こんにちは。まっちゃです。 2,500字いったぞー!!
前書きにもフリガナを振ることができるってことは、今回のように書くことが想定されてるってことなのかな..
話は変わりますが、1A,2B,3C,4D.. 各並行世界はこういった表記をしています。いずれ100AAAとかになりそうで怖い。
ではまた、第9話で。




