第164章 静かな起動
——午前3時27分。
市ヶ谷の地表では、まだクレーターから粉じんが漂い続けていた。住民は「不発だ」と安堵しかけていた。
しかし、その地下深くで始まった変化に、誰一人として気づく者はいなかった。
起爆シークエンス・ステージ1
弾頭の外殻に埋め込まれた震動センサーが起動。着弾衝撃の記録を自動照合。
許容値を超過した判定信号が、内部の制御盤に無機質なコードを流し込む。
ステージ2
冷却系統が解除される。液体窒素の流量が減少し、コアの温度がわずかに上昇を始める。
外界には、何の兆候も現れない。地上の人々はただ、足元に響く低い振動を“地震の余震”と誤解していた。
ステージ3
通信モジュールが衛星帯域を探知。数秒ごとに送られる低周波コードに同期する。
それは人間にはノイズにしか見えない信号だが、弾頭にとっては「心拍の合図」だった。
ランプが一つ、赤く点灯する。
真空に漂う探査機が遠方の命令を受け取り、何十年ぶりに目覚める瞬間のように。
ステージ4
電源系統が二重化され、回路が自動自己診断を開始。
「正常」「正常」「正常」――すべてのチェックが無音のまま緑色で流れ、最後に「READY」が点滅する
 




