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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン7

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第153章 見えない境界



13日午前、まだ道路も鉄道も寸断されていた頃、東京の姿を初めて「外」に伝えたのは地上からではなく空からだった。

在日米軍横田基地から上がった偵察ヘリが、黒煙に覆われた霞ヶ関と湾岸の廃墟を旋回し、映像を送った。CNNはそれを数時間後に入手し、大きく「Tokyo in Flames(炎上する東京)」とテロップを打って配信した。

その画面を世界中の人々が見つめた。瓦礫の中で人々がどう生きているかまでは伝わらない。あの時映っていたのは「都市が燃える姿」だけだった。

阪神淡路大震災のとき、空撮が「高速道路の倒壊」を可視化したように、今回も空からの視線が最初に世界を震撼させた。だが同時に、「そこにいる市民の声が全く届かない」という苛立ちも残った。



翌14日。海外メディアの先遣隊がついに都心に入ろうとした。新幹線も私鉄も止まり、道路は自衛隊・救急車両が優先で、報道車両は入れない。

彼らはカメラと衛星電話を背負い、リュックには最低限の水と乾パンを詰め込み、徒歩や自転車で瓦礫の街へと突入した。

市街の空気は焦げ臭く、ガラス片の上を靴底が擦り、時折倒壊音が響いた。


ある外国人記者は、避難所の入口で住民に掴みかかられた。

「水は持ってきたのか? 撮るだけか?」

怒気を含んだ問いに、彼は黙って自分のボトルを差し出した。

それを受け取った住民は目を伏せたが、そのやり取りを横で見ていた母親は冷たい視線を投げた。

「飲ませてくれるならありがたい。でも……映されるのは、私たちの恥なんじゃないか。」


記者は言葉を失い、その夜は体育館の片隅に寝転がりながら「伝えるとは何か」を考え続けた。



15日。海外メディア各社がようやく独自の映像を送信できるようになった。

停電が続く体育館で雑魚寝する数百人の避難民。泣き叫ぶ子どもをあやす母親。自衛隊員が線量計を掲げて住民を一列に並ばせる姿。

それらが電波に乗り、「Tokyo – Silent Capital(沈黙の首都)」という見出しで欧州各紙を飾った。


だがカメラの光は、避難所に別の混乱をもたらした。

「また支援かと思ったのに……」

フラッシュを浴びた女性が涙を流し、怒声が飛んだ。

「撮る前に水をよこせ!」

記者たちは肩をすくめ、しかし撮影を止めるわけにはいかない。彼らの国では「一枚の写真」が政治を動かすと信じられていた。



16日、海外メディアの多くはついに被曝管理区域に入った。

入口では自衛隊NBC対処隊が待ち構えていた。

「これより先は線量管理区域。全員、線量計を胸に装着。滞在は2時間以内だ。」


記者たちは不満を露わにした。

「2時間じゃ何も取材できない!」

「こんな制約で自由な報道ができるのか!」


だが、隊員は冷ややかに答えた。

「死んで報道しても意味はない。」


胸の線量計が小さく赤い光を点滅させるたび、取材班は強制的に退避を余儀なくされた。

瓦礫の上でインタビューを続けていた米国の記者は、アラーム音に遮られ、悔しそうにマイクを下ろした。

「あと五分で十分な声が聞けたのに……」


その光景を避難民は無表情で見つめていた。

「俺たちの命も、結局“二時間以内”の価値しかないのか。」

誰かが吐き捨てるように呟いた。



その夜、体育館の床に横になった英国の特派員が、仲間に語った。

「思い出すんだ。あの二日前、避難所の入口で“水はあるのか”と問われた瞬間を。あれは俺への問いじゃなかった。俺たち全員への問いだ。——カメラだけを持って来た俺たちに、本当に何ができるのか。」


同じ班のカメラマンが苦く笑った。

「俺たちは医者じゃない。兵士でもない。できるのは、撮って送ることだけだ。」

「でも、それで世界が動くのか?」

問いは宙に浮いたまま、誰も答えられなかった。


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