第152章 金庫の残響
2027年11月26日 深夜。
東京・上野の一角。爆心から5kmを外れ、建物は立ち並ぶものの、シャッターはほとんど閉ざされていた。停電は続き、街全体が闇に沈んでいる。
静寂を切り裂くように、トラックのブレーキ音が響いた。幌付きの小型車から、黒い作業服に身を包んだ十数人の男たちが降り立つ。彼らの狙いは食料ではなかった。金と現金。
「時間は30分。警察は来ない。」
リーダー格の男が短く指示を飛ばす。
二人が手際よくガスバーナーを構え、宝飾店の鉄シャッターを焼き切っていく。火花が散るが、停電した街では誰も通報できない。
扉が開くと同時に、店内に数人が雪崩れ込んだ。ショーケースを片端から叩き割り、金のネックレス、指輪、ブレスレットを袋に放り込む。散乱するガラス片の上で、靴底がギリギリと音を立てた。
「現金だ、レジを開けろ!」
別の男が叫ぶが、POSは死んでいる。だが奥の金庫室には封筒に入った札束が残されていた。停電により電子ロックは無力化し、バールでこじ開けられる。
厚い紙幣の匂いが空気に広がる。男たちは声を潜め、束を手にした。
「金は食えないが、価値は消えない。」
「闇市じゃ、缶詰より札束の方が人を動かす。」
同じ頃、別班は銀行の支店に取りついていた。
防犯シャッターは落ちているが、監視カメラもセンサーも動かない。二人がハンマーでATMを叩き壊し、内部からカセットを引きずり出す。札束は埃まみれで飛び出した。
一方、避難所に身を寄せる人々の間にも噂は広がっていた。
「上野で宝石店が荒らされたらしい。」
「銀行の金が消えたって……もう通帳なんて意味ないんじゃないか?」
市民の不安は広がる一方だった。食べ物が尽きる恐怖に加え、貨幣の信用そのものが崩れる恐怖。
 




