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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン7

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第151章 闇の商店街



2027年11月14日 午後。

霞ヶ関を襲った閃光から二日。爆心から半径5kmを外れた新宿区の一角は、物理的な壊滅こそ免れたが、街はすでに“死んだ都市”と化していた。電力は止まり、信号は消え、警察署は機能を失い、住民は避難所へ移動して空洞化していた。


薄暗くなった商店街に、十数人の影が集まった。年齢はバラバラだが、互いに目を合わせて頷き合うと、すぐに手慣れた動きで役割を分担した。先頭の二人は金物屋から盗んできたバールを手に、コンビニのガラス扉を叩き割る。乾いた破砕音が響くが、警報は鳴らない。電源が死んでいるからだ。


「こっち、食品棚だ!」

「水は優先だ! 持てるだけ持て!」


リーダー格の男が叫ぶと、数人が一斉に棚に群がった。棚には缶詰、レトルト食品、わずかに残ったペットボトルの水。彼らはカゴに詰め込み、黒いビニール袋に移し替えた。


店内には他にも人影があった。避難所に向かえなかった住民が、子どもを抱いて立ちすくんでいた。母親は涙目で、わずかに残ったパンを手に取ろうとする。だが組織的に動く窃盗団の一人が母親を突き飛ばした。

「どけ! ここは俺たちの仕事だ!」


母親は床に倒れ、子どもが泣き叫ぶ。その声に、一瞬ためらうように足を止めた若い窃盗団の一人がいた。だがリーダーが鋭く睨みつける。

「甘い顔するな! 後ろのトラックに積め!」


商店街の通りには軽トラックが停められていた。ナンバープレートは外され、幌には黒いスプレーで塗り潰した跡がある。そこに次々と袋が積み込まれていく。行為は素早く、整然としていた。単なる衝動的な略奪ではなく、物資集積と再分配を目的とした組織的犯行だった。


一方で周囲の住民は、暗がりからその光景をただ見ているしかなかった。停電で携帯は通じず、警察も来ない。助けを呼ぶ手段が存在しない。


「……あれ、もう“強盗”じゃなくて“支配”だ。」

窓から様子を覗いていた中年の男性が呟いた。


同じ時間、別のグループは家電量販店に押し入っていた。

電源が落ちているため、扉の自動ロックは機能せず、バールで簡単にこじ開けられた。中にはまだ発電機や乾電池、ポータブルライトが残っている。


「発電機三台確保! バッテリーは重いぞ、急げ!」

「夜はこれを売れば、食い物と交換できる!」


彼らは盗品を単なる略奪品ではなく、闇市の通貨として計算していた。実際、阪神・淡路大震災でも停電下で「乾電池一個=米数合」といった闇交換が広がったことを彼らは知っていた。


やがて窃盗団は商店街全体を“制圧”した。交差点ごとに見張りを立て、住民が近づけば威嚇する。彼らの拠点となったのは潰れたパチンコ店の駐車場。そこに物資を集積し、夜には別の仲間が引き取りに来る段取りになっていた。


そこへ、一人の老人が歩み寄ってきた。避難所に入れず、ここで暮らしてきた元商店主だった。

「お前ら、何をしてるんだ……! ここは俺たちの街だ!」

声を張り上げた瞬間、若い窃盗団の一人が老人を突き飛ばした。

「もう“街”じゃねえ。生き残った奴のルールで動くんだよ!」


老人は地面に倒れ込み、その顔に虚無が広がった。


日が落ち、闇が街を覆った。停電で街灯は一つもなく、ただ焚き火と懐中電灯の光だけが揺れている。その下で窃盗団は戦利品を数え、仲間と笑い合っていた。


しかし、闇の中で怯える市民たちの心には、別の感情が渦巻いていた。

——もはやここは「日本」ではない。

——ルールも秩序も消え、力と組織だけが物を言う。


霞ヶ関からわずか5km外。物理的には「立ち入り可能」なはずの場所が、すでに別の意味で「立ち入り不能」な空間へと変わりつつあった。


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