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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
97/2126

第42章 アニメ風

1945年4月、マリアナ諸島東方。

北緯12度、東経134度。

太平洋は漆黒の闇に沈んでいた。


月齢は新月に近い。

満天の星も、海を照らすにはあまりに頼りない。


闇を割り、浮上した影があった。

そうりゅう型潜水艦「そうりゅう」。

長い潜航を終え、静かに艦橋を現した。


艦体には冷えた鋼の匂い。

合成樹脂の香りが潮風に混じる。


「水測長、伊58の接触は?」

竹中二佐の声が落ちる。


石倉先任伍長はヘッドセットを押さえた。

「捕捉しました。距離三海里、方位二七〇。ディーゼルの拍動、古い冷却水の循環音、スクリューのキャビテーション――間違いありません。伊58です」


過去の潜水艦の「声」。

それは未来のソナーには指紋のように鮮明だった。


「針路二七〇。微速前進」

竹中艦長の命令が飛ぶ。


艦橋のハッチが開く。

潮風が顔を打つ。

深町副長は双眼鏡を構えた。


波間に黒い影。

巨大な艦橋。

伊号第五十八潜水艦。


「伊58、予定通り接触」

深町が声を落とす。


両艦は並んだ。

数メートルの距離を保ち、洋上を漂う。

橋本以行中佐の姿が、星空を背景に浮かんだ。


無線が鳴る。

「こちら伊58、橋本だ。遠路ご苦労。……その艦、原子力で動いているのか?」


竹中は即座に信号を返した。

「我が艦は電気推進だ。ただしAIPシステムを備え、長時間の潜航が可能だ。共に行動し、インディアナポリスを沈める。史実では貴艦が果たした戦果――だが今回は、原爆輸送を阻止する」


沈黙ののち、橋本の声。

「我が艦には九五式酸素魚雷が十七本。炸薬量も威力も抜群だ。敵に回避の余地は与えん」


石倉が小声で報告する。

「艦長、伊58は静かです。潜航時の探知は困難。ただし、バッテリーの制約は大きい」


「承知している」

竹中はうなずき、再び送信する。

「我が艦は先行し、目標の航路に回り込む。リアルタイムの索敵情報を送る。貴艦はその牙をもって、とどめを刺せ」


間を置いて、橋本が応えた。

「了解。貴艦を信じる」


静寂の海に、二つの鋼鉄の巨鯨。

未来と過去が並び立ち、同じ敵を見据えていた。

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