第141章 叔父の記憶 ― ヘリの戦場
花蓮の稜線に朝霧が立ち込める頃、黄は自分の耳に妙な音が忍び込むのを感じた。低く唸る回転翼の音。台湾の戦場にヘリは数少なく、今この谷で聞こえるはずがなかった。それなのに、音は確かに近づいてくる。
——視界が揺れた。
次の瞬間、彼は濃緑の平原に立っていた。風が吹き荒れ、草が薙ぎ倒される。頭上でUH-1ヒューイのローターが轟音を立て、編隊が空を覆う。叔父が体験した1960年代末のベトナム戦争——米軍がヘリを本格的に戦場投入した時代。
「降下準備!」米軍曹長の怒声。
扉が開き、兵士たちがロープを握る。黄の手にもM16があり、叔父の視覚と感覚がそのまま流れ込む。
ヒューイが草原に着地するや否や、兵士が次々に飛び降りる。周囲には別の機体が旋回し、ガンシップ仕様のヒューイがM134ミニガンを連射しながらジャングルに火線を浴びせていた。弾幕が葉を裂き、木々を削り、敵の影を押さえ込む。
だが着地の瞬間、地面が爆ぜた。ベトコンが仕掛けた迫撃砲が降り注ぎ、隣で降りた兵士が吹き飛ばされる。黄は土に伏せ、耳をつんざく破片音を聞いた。
叔父の声が低く響く。
「ヘリは足であり、武器でもあった。だが同時に、敵にとっては格好の標的だった。」
黄は顔を上げた。遠くの林から閃光。DShK重機関銃が火を吹き、低空を飛ぶヒューイを狙う。旋回中の機体の胴体に弾痕が走り、白煙を引きながら墜落していく。
搭乗していた兵士が炎の中から飛び出し、仲間が必死に救助に向かう。
叔父の小隊は前進を命じられた。ジャングルの縁に突入すると同時に、頭上を攻撃ヘリ AH-1コブラが掠めた。機首の20mm機関砲が唸りを上げ、ロケット弾が木々を切り裂く。ベトコンの火点が次々に沈黙する。
だが黄の胸に残ったのは、圧倒的な火力の光景ではなく、墜落して燃えるヒューイの姿だった。
——兵士を運ぶ足であり、兵士を守る翼でもある。だが一発の弾丸で空は地獄に変わる。
視界が揺れ、再び花蓮に戻る。
谷を見下ろすと、解放軍の歩兵が列を組んで進んでいた。台湾軍には空から一挙に兵を投入する余力はない。だが黄の耳には、叔父の声がまだ残っていた。
「ヘリは戦場を速く動かせる。だが、その速さが敵の狙いにもなる。速さは武器であり、弱点でもある。」
黄は仲間に言った。
「敵の列を叩いたらすぐ動け。俺たちの足は地面だけだが、あの時の叔父たちと同じだ。止まったら、的になる。」
仲間は頷き、再び銃を構えた。
こうして黄は、ベトナムのヘリ戦の記憶を通じて一つの教訓を得た。
——機動力は戦場を支配する。だが、それは敵に狙われる影でもある。
花蓮の山岳に吹く冷たい風が、かつてジャングルに吹き荒れたローターの風と重なり、黄の頬を叩いた。




