第139章 叔父の記憶の追体験(史実)
2027年11月、台湾東部戦線。
第5陸戦旅団の補充部隊として前線に送られた黄士官候補生は、夜明けの山岳で奇妙な体験に襲われていた。銃声と爆炎の中で伏せた瞬間、眼前のジャングルが濃密に立ち上がり、頭上をヘリのローター音が切り裂いた。見知らぬ兵士の叫び声、泥に沈むブーツ、火線を走るAKの閃光。そこは1968年のベトナム——叔父が従軍した戦場だった。
彼は叔父の従軍体験を聞かされたことはあっても、その光景を「自分の視覚と嗅覚」で感じたことはなかった。だが今は違う。湿った熱気が肺を灼き、硝煙の味が舌に広がる。肩にはM16が重くのしかかり、仲間が倒れる感触さえ皮膚の下に残っている。
——これは夢ではない。
叔父が体験した“史実どおり”のベトナム戦争が、彼自身の記憶として流れ込んでくる。
その背後には、ひとつの共通の因果があった。沖縄沖で時空を越えた空母ロナルド・レーガンの乗員たち。彼らの弟や息子、あるいは遠い親族にまで、過去と分岐世界の記憶が流れ込み始めていたのだ。
台湾の前線壕で伏せる黄は、銃を握りしめながら気づく。
——これは自分一人の現象ではない。
タイムスリップした艦の乗員、その親族、そして血縁を通じた“記憶の連鎖”はすでに拡大しており、戦場に立つ者たちはそれを否応なく背負わされていた




