第136章 ゲリラ戦へ
台中 臨時司令部(2027年冬)
地下の指揮所は発電機の低い唸りと無線のノイズに満ちていた。
正規軍の参謀たちは、壁に投影された戦況図を凝視していた。台湾島の西海岸は赤く塗り潰され、解放軍が確保した上陸拠点を示していた。
参謀長が声を低めて言う。
「台北防衛線、崩壊を確認。市街地に散開した部隊はなお抵抗を続けていますが、正規師団としての統制は維持できていません。」
報告に、司令官は目を閉じた。
静寂の中で、別の参謀が口を開く。
「つまり、我々は従来の『正規戦』段階を失ったということです。」
スクリーンには、台北市街で爆炎を上げる解放軍車両の映像が流れていた。
それを撃破したのは、正規部隊ではなく、予備役と市民が即席の小隊を組んで仕掛けた伏撃だった。
「彼らは制服も揃っていない。ただ、地の利と携帯ミサイルで敵を止めている。」
参謀の声はかすかに震えていた。
花蓮山岳地帯の報告も上がる。
「第66旅団は中央山脈に退避。地形を利用し、夜間奇襲を繰り返しています。補給は乏しいが、敵補給路への打撃で一定の成果を得ています。」
司令官は椅子から身を乗り出し、机上の地図を指で叩いた。
「……正規戦はもう続けられない。だが抵抗は終わらない。
ここから先は“縦深抵抗”だ。都市を要塞化し、山岳を砦とし、敵を島全体で消耗させる。」
参謀長が頷く。
「それは、つまりゲリラ戦への移行を正式に認めるということですね。」
司令官は沈黙ののち、はっきりと口にした。
「そうだ。我々は正規軍として戦うより、国民と共に持久戦を選ぶ。敵が占領を宣言しても、街ごとに抵抗が続くなら、それは支配ではない。」
若い参謀が意を決して言葉を挟んだ。
「しかし、ゲリラ戦は国際法上の灰色領域です。正規軍の組織を解体すれば、捕虜も保護されない可能性がある。」
司令官は目を細めた。
「我々は国家を守るために立っている。形式がどうあれ、民と軍が島の隅々で戦い続ければ、中国は決して勝利を宣言できない。——その覚悟を持て。」
無線が割れ、台北からの現場報告が飛び込む。
『こちら民防隊α。ジャベリンで敵装甲を撃破。住民が水と食料を提供中……市街戦継続可能。』
司令官は短く目を閉じ、息を吐いた。
「これが未来だ。都市と山が我々の武器になる。」
参謀たちは互いに視線を交わし、ついに理解した。
——台湾は、正規戦の敗北を超えて、ゲリラ戦の段階に入ったのだ。




