第135章 臨時政府庁舎 地下危機管理会議室
大阪・中之島
厚い遮音扉の向こうで、閣僚と制服組が集まっていた。
壁のスクリーンには、東京湾一帯の赤黒い衛星画像と、北方領土から北海道へ伸びる防衛ラインの地図が並んでいる。
臨時首相が口を開いた。
「——北朝鮮はすでにロシア化の途上にある。問題は、韓国に難民を押し付けることで、朝鮮半島全体の安定を揺さぶっていることだ。」
防衛大臣が頷き、指し棒で画面を示す。
「韓国社会が崩壊すれば、在韓米軍の兵站は機能を失います。台湾方面への米軍展開にも直接影響が出る。我が国としては、“韓国の崩壊”が即座に日本防衛の空白に繋がるという前提で備えねばなりません。」
外務大臣が声を強めた。
「米国はすでに極度に分散しています。台湾か韓国か、どちらかの優先を迫られるでしょう。日本が動かなければ、朝鮮半島も西太平洋もロシアと中国の影響下に落ちます。」
経済再生担当相が苦い表情を浮かべた。
「しかし、首都を失った我々に、同盟国の空白を埋める余力があるのか。避難民、インフラ復旧、電力不足……国内対応だけで手一杯だ。」
会議室に沈黙が広がった。
制服組の統合幕僚長が低い声で言った。
「東京が焼かれても、日本はまだ国家として立っている。自衛隊の中枢も西日本に移設済み。
問題は“政治の意思”です。
——我々は、この国を北東アジアの戦線に残すのか、それとも一時的に後退し、生き延びることを優先するのか。」
首相が重く頷く。
「それが、今夜決めなければならないことだ。」
防衛大臣がスクリーンを切り替える。
北方領土・択捉島の衛星映像。バスティオン沿岸ミサイルの展開、ロシア揚陸艦の影。
「ロシアはすでに北海道正面に圧力をかけています。南西諸島と同時に北方を守る戦力は現状では不足。……首相、北海道か南西か、優先順位を定めねばなりません。」
外務大臣がすかさず補足する。
「韓国が難民で崩壊すれば、次は北海道の孤立です。これは単なる軍事の問題ではなく、国家の存続そのものに直結します。」
首相は深く息を吐き、静かに言葉を紡いだ。
「東京を失っても、日本はまだ終わっていない。
——だが、我々は“どこを守るか”を選ばなければならない。
北か、南か、あるいは韓国を支えるか。選択を誤れば、この国は本当に地図から消える。」
会議室にいる誰もが、その言葉の重みを理解していた。




