第41章 アニメ風
1945年4月、沖縄沖。
原子力空母「ドナルド・レーガン」(CVN-76)の作戦室は、異様な熱気に包まれていた。未来の技術と過去の戦略が、そこでは正面衝突していたからだ。
ロバート・ウェルズ艦長は、重厚な会議テーブルを挟んで向かい合うレイモンド・スプルーアンス大将を見据えていた。机上には1945年当時の作戦地図が広げられ、その上に赤と青のマーカーが入り乱れていた。
「大将、我々は沖縄での抵抗を完全に読み違えました」
スプルーアンスの声は低く、しかし怒りを隠しきれていなかった。指先で地図を叩く。
「B-29による戦略爆撃は壊滅的な失敗だ。半数以上が未確認の敵に撃墜され、上陸部隊は座礁艦を要塞化した火力で壊滅した。さらに――あの『大和』の砲撃。目視できぬ距離から寸分違わず着弾してくる。これは我々の知る戦争ではない」
参謀たちは顔を見合わせた。誰もが事態の異常さを理解していたが、口に出す勇気はなかった。
ウェルズは黙って耳を傾けていた。彼には既に答えがあったからだ。
OSSからもたらされた報告――自分たちが未来から来たという信じがたい事実。
そして、この艦がこの時代に存在すること自体が、最大の「異常」だということ。
「大将」
ウェルズは静かに口を開いた。
「この状況は、我々の存在と無関係ではありません。USSドナルド・レーガンは、貴官の時代には存在しない、原子力推進の空母です。燃料補給を必要とせず、事実上無限の航続距離を持つ。搭載機はF/A-18E/Fスーパーホーネット、EA-18Gグラウラー、E-2Dアドバンストホークアイ……。どれも、F6FやF4Uといった貴官の艦載機とは次元が違う性能です」
「言いたいのは、我々は貴官方の味方であり、この戦争を早期に終わらせる手助けができる、ということです」
「……ならば」スプルーアンスが問い返す。「貴艦はこの膠着状態を打開できるのか?」
「はい」ウェルズは即答した。
モニターに最新の航空偵察写真が映し出される。沖縄本島の海岸線、要塞化された艦艇群、そして残存する航空部隊の配置。
「我々が提案するのは、沖縄第三次攻撃です」
彼の声に作戦室の視線が集まった。
「まず、我々の航空戦力で日本軍の航空機と艦艇を徹底的に排除します。F/A-18は速度、航続距離、兵装すべてで優位に立ちます。AMRAAM、SLAM-ER、JDAM……これら精密誘導兵器を駆使すれば、彼らの対空砲火は無意味です」
主任参謀が反論する。
「しかし、『いずも』は海岸に座礁し要塞化されている。さらに、F-35Bなる新型機が存在するとも報告されています。それをどうするのです?」
ウェルズはわずかに笑みを浮かべた。
「『いずも』の防御能力は限定的です。我々の攻撃は、CIWSやSeaRAMの射程外から行われます。加えてEA-18Gグラウラーが彼らのレーダーと通信を完全に麻痺させる。ステルス性を持つF-35Bも、E-2Dの早期警戒とF/A-18のセンサー連携で捕捉可能です。空中で撃墜することも難しくありません」
「旧式艦については、スタンドオフ兵器で沈黙させます。SLAM-ER、あるいはトマホーク巡航ミサイル。遠距離から一撃で終わらせられる」
彼の言葉は断定的であり、余裕すら漂わせていた。
「そして最後に、我々のLCACとAAV-7を投入する」
ウェルズは身を乗り出した。
「従来のLSTとは桁違いの速度で上陸可能です。エイブラムス戦車が先頭に立ち、火炎放射部隊が地下壕を掃討する。敵に反撃の隙を与えません」
スプルーアンスは椅子にもたれ、しばし沈黙した。
参謀たちは息を呑んで彼の表情を伺う。未来の戦力――それは圧倒的であり、同時に恐怖でもあった。
やがて大将は、深く息を吐いた。
「……よろしい。ウェルズ艦長」
その声には決意の響きがあった。
「貴官に沖縄第三次攻撃の指揮を任せる。この作戦で、日本軍の抵抗を粉砕してみせよ。未来の力――その真価を示すのだ」
作戦室の空気が一変した。歴史を変える決断が、いま下されたのだった。