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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
94/2078

第40章 「鉄の檻」を破れ:本土帰還作戦


1945年4月、沖縄沖。「いずも」座礁後の作戦室は、重苦しい静寂に支配されていた。沖縄に迫る原子力空母ロナルド・レーガン打撃群の影と、約二ヶ月後に日本本土へ投下される原子爆弾という遠未来の危機。その絶望的な状況下で、片倉大佐、渡会艦長、山名三尉、そして三条らは、極めて困難な、しかし唯一の希望となりうる作戦について協議を重ねていた。それは、戦艦大和とイージス艦「まや」を、米軍が構築した**“三次元包囲戦”**を突破させ、日本本土へ帰還させるという、常識では考えられない計画であった。


モニターには、山名三尉が作成した最新の沖縄包囲網戦術図が投影されていた。それは単なる海上封鎖ではなかった。1945年の米太平洋艦隊は、第二次世界大戦で最大級の艦隊規模と制海・制空戦力を沖縄に集中させていた。艦砲射撃圏、航空支配圏、対潜網、機雷封鎖、陸上支援火力が重層的に組み合わさった、現代の視点から見ても驚異的な物量と戦略的完成度を誇る「鉄の檻」そのものであった。


山名三尉が、レーザーポインターを使いながら説明を開始した。「司令、現在の我々は、米軍の『アイスバーグ作戦』による三重の包囲網の中にあります。第一層は、沖縄東方・南方の200〜400km外海に展開する『外周艦隊』です。第58任務部隊(Fast Carrier Task Force)を主軸とする空母機動部隊と、第54任務部隊などの戦艦部隊、重巡・軽巡・駆逐艦、そして潜水艦哨戒網が、日本本土や中国方面からの増援、艦艇接近を阻止しています」。


片倉大佐が、言葉を継いだ。「第二層は、沖縄周辺に配備された『内周艦隊』だ。エセックス級空母やアイオワ級戦艦、多数の巡洋艦、駆逐艦で構成され、上陸部隊の護衛、沖縄周辺の制海権維持、そして特攻機迎撃が主任務だ。特に、沖縄周囲に10〜16隻の駆逐艦が単艦で配置された24時間体制のレーダーピケットラインは、我々の潜水艦や航空機の接近を早期に探知する」。


「そして、第三層は、沖縄西岸・中城湾に集結する『上陸支援火力群』です」三条が、複雑な情報にも臆することなく続けた。「旧型戦艦『ネバダ』『テネシー』、重巡、駆逐艦が間断なき砲撃支援を行い、LVT(装甲水陸両用車)を利用した波状上陸部隊を支援します。この三重の壁を突破し、沖縄から脱出することは、現在の戦力では不可能に近いと判断されます」。


渡会艦長は厳しい表情でその図を見つめていた。「この包囲網は、制空・制海・火力・情報・機雷戦を含んだ『全方位・多層式包囲網』だ。当時の技術レベルでいえば、近代戦における『ネットワーク中心戦』の原型的モデルと言える。現代のステルス艦や電波隠密艦を除けば、いかなる艦艇も突破不能とされている」。


山名三尉は、モニター上の戦術図を切り替え、大和と「まや」の予想航路を示した。「しかし、突破の可能性はゼロではありません。戦艦大和は、片倉大佐指揮下の『まや』の支援を得ることで、この包囲網を潜り抜けることができます。この作戦の鍵は、我々のステルス技術と電波欺瞞、大和の圧倒的な火力、そして何よりも『タイミング』と『欺瞞』にあります」。


三条が、具体的な戦術を提示した。「まず、F-35Bによるレーダーピケットと通信攪乱で、第一層の外周艦隊のレーダー網に一時的な『盲点』を作り出します。これは、ステルスを生かしたレーダー沈黙飛行と、限定的な電子妨害(ECM)によって行います。その隙を突いて、大和と『まや』が高速で突破します。


山名が続けた。「『まや』のイージスシステムは、その卓越した防空能力とレーダーで大和を護衛します。特に、レーダーピケットラインが展開する第二層では、高高度を飛ぶB-29や、それらを護衛するP-51Dに対する限定的な防空能力を発揮できる。さらに、『まや』のAESAレーダーと、大和の46cm主砲による対空弾を戦略爆撃機への攻撃能力を組み合わせれば、本土へ向かうB-29に対する反撃も一定程度可能となります。これは、米軍にとって予想外の脅威となるでしょう」。

「そして、突破後は、本土の母港・呉を目指して北上する。


渡会艦長は、静かに言った。「この作戦は、極めて危険だ。米軍は機雷敷設や潜水艦による封鎖戦術も併用している。しかし、原子爆弾の投下を阻止し、本土決戦を回避するためには、この『切り札』を動かすしかない。大和と『まや』は、日本の命運を背負い、この『鉄の檻』を突破する」。


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